140 双子
私達は城の二階、そして三階へ一気に駆け上がった。
ここまでの間は、誰とも遭遇していない。
……静かすぎる気がする。
もしかして、罠でも仕掛けてあるか?
三階の通路を抜け、四階へと上がる階段。
そこは、先ほどのような広間になっていた。
奥には扉。 その先に階段があるのだろう。
そして、その扉の前に佇む、一人の男。
「お兄様!」
「アナスタシア。そして、魔王と勇者よ。待っていたぞ」
アナスタシアの双子の兄、アナスタシオス。
彼がここに居ると言うことは。
「セラメリアを倒しに来たのだろう? ならば、私を倒すほか道はない。この扉の鍵は、私が持っているのだからな」
「あんたを無視して、扉を破壊すると言うのは?」
「それは無理な話だ。この城にはセラメリアの魔力が込められている。扉だろうが窓だろうが、破壊することは出来ない。……そして」
私達が入ってきた扉が、ひとりでに閉じてしまった。
なるほど、やっぱり罠だったか。
「これでお前達は籠の鳥だ。お前達転移者に言わせれば、お約束の展開かな」
こいつ……。
「サキさん、戦いましょう。それしか方法がありません」
私はカグラの声も聞かず走り出していた。
そしてアナスタシオスに、魔神爪サイカを振り下ろした。
それを回避し、アナスタシオスはレイピアを私の首にあてがう。
「あんた、どこまで知ってんのよ」
「さあ? なんの事だか」
「とぼけやがって」
首に突き付けられたレイピアの刃を掴み、そのままへし折ろうとした。
しかし、その寸前でレイピアを引き抜かれた。
……追撃してくる様子もないし、私はアナスタシオスから距離をとった。
「……あんたを倒すのは良いとして、それは一対一?」
「全員でも構わん。そのために、私は強くなったのだからな」
「そう。後悔しても知らないよ」
私はみんなに合図を出し、アナスタシオスへ攻撃を仕掛けた。
私の合図を受け、リンちゃんとカグラも攻撃を仕掛ける。
……しかし、アナスタシオスの身のこなしは完璧だった。
私達の攻撃は掠りもしない。
それだけではない。
アナスタシオスは私達の攻撃を回避しつつ、反撃もしっかりと行っていた。
どうにか避けるも、数撃は掠っていたようだ。
……これは手強い。
「魔王様、みなさん。離れていてください」
アナスタシアが前に出た。
とは言え、二人の差は歴然だし、アナスタシアに勝算があるとも思えないけど……ここは任せてみよう。
「お兄様……いいえ、アナスタシオス。貴方は私が止めて見せます!」
「良いだろう。どれだけ腕を上げたのか、見せてもらうぞ」
アナスタシアは走り出し、アナスタシオスに斬りかかる。
それを左へ避け、アナスタシアの右脇腹へレイピアを滑り込ませる。
ここだ。
私達は、この攻撃を避けられなかった。
しかし、アナスタシアはその攻撃をエストックで弾き、身を翻しながらアナスタシオスの心臓目掛けて突きを放つ。
その突きを体を回転させながら避けたアナスタシオスは、体勢を低くし、アナスタシアの首を斬りつける。
その攻撃さえも弾いたアナスタシアは、アナスタシオスから距離をとった。
……凄いな。 まるでダンスを踊っているかのようだ。
「さすがだな、アナスタシア」
「褒められても嬉しくありません。それに、これはかつて、貴方が編み出したもの。そろそろ、本気を出したらどうですか?」
「……なるほど。やはり、私の技を覚えていたのだな」
「忘れるはずもありません。貴方は、私の目標なのですから」