追憶 8
私は、殺戮の限りを尽くした。
怒りに任せて、全てを破壊してやろうと思っていた。
私はただ、ゼオと共に居たかっただけなのに。
何故神は、私から全てを奪おうとするのか。
この世界に来る前もそうだ。
私の家族を奪っておきながら、何が選ばれし者か。
私は……私は、ただ安寧を求めていただけなのに。
一通り殺し終えたところで、私は城へと戻った。
後の事は、私が無限に生成する事の出来るモンスター共に任せておけば良い。
「これから面白くなると言うのに、お前はこんな所で何をしている?」
玉座の間に現れたのは予言者だった。
私は、こいつにも怒りを募らせていた。
こいつが私を唆さなければ、この様な結果にならなかった筈だ。
「戯れ言を。あの若僧の命が惜しかったのなら、最初から戦場に向かわせなければ良かった。なのにお前は、戦場に出向かせた。こうなる事も、全て予測出来ていた筈なのに」
「黙れ!」
魔力で生成した刃で、予言者の体を刺し貫く。
「それなのに他人のせいにするとは、何とも甚だしい」
「黙れと言っている!」
更に刃を生成し、予言者を貫いていく。
「あの若僧は、お前が殺したのだ」
「黙れ黙れ黙れ!」
「全くもって期待外れだ。この様な結末になってしまい、残念に思うよ」
予言者は刃を消し去ると、私に拘束の魔法と転生の魔法を掛けた。
「何の真似だ」
「シナリオ通りに動いてもらう為の下準備だ」
予言者が指を鳴らすと、玉座の間に人族と魔族の両軍が雪崩れ込んできた。
その先頭には勇者の姿。
……なるほど、そう言う事か。
ならば私は、最後まで抗おう。
たとえそれが、無意味な事であったとしても……。
……気が付くとそこは、東の果ての草原だった。
玉座の間を埋め尽くしていた者を、勇者と予言者以外全滅させたところで、私は転送されてしまったようだ。
何をさせたいのかは分かっている。
ならば私は道化を演じよう。
……他に道は無いのだから。
「……魔王よ、ここで決着をつけよう」
「良いだろう。不老不死を殺せるのならな」
勇者と私の戦いは、三日三晩続いた。
互いの技と魔法が、激しくぶつかり合う。
大地を抉り、切り裂き、美しかった草原は荒れ果てた大地へと変貌していた。
結局、私は勝ってしまった。
あいつのシナリオでは、私は負ける筈だったのだろう。
「いいや、そうではない。それよりも面白いシナリオを思い付いた。お前を封印し、魂を熟成させる。より完璧な存在となってもらうぞ」
「魂の熟成……それが何を意味しているのか、知らぬはずではないだろう」
「そう。魂を熟成させれば、お前は神にも届く力を得る。その時お前は、この星に魔神として君臨するのだ。生きとし生ける全ての生命が、お前の糧となるだろう」
「で? その後はどうなる?」
「勿論、神と戦ってもらうぞ」
「……良いだろう。ならば私は、最後まで道化を演じようではないか」
予言者が呪文を唱えると、私の体は碧水晶の結界に囚われた。
「……言い忘れていたが、お前の後釜には、お前の血縁を使わせてもらう」
血縁?
私に血縁は存在しない。
「いいや、存在する。お前の情報を有した血縁がな」
……まさか。
「そう。お前が魔族を生成した際に、お前の情報が流れ込んだ者が居る。その者に、次代の魔王を勤めさせよう」
そうか。 ならばその者とは、魂の繋がりがあると。
「魂の繋がりと魂の欠片さえあれば」
その者を操る事が出来る。
私の作り出したモンスターと同じ原理か。
「お前の事は常に監視している。妙な気を起こさん事だな」
では私は、お前に悟られぬよう事を運ぶとしよう。
不測の事態が起これば、封印を解くこともやむを得なくなるだろう。
その後数千年は、予言者の思惑通りに行動してやった。
こいつが隙を見せるまで、私はひたすら耐えていた。
そして、今から五百年前。
漸く、予言者が隙を見せた。
私は、記憶と魂の欠片を、魂の繋がりの無い者に宿した。
その者は私の記憶から、私の力をスキル内に封じる術を見出だす。
そうなれば、予言者は私の封印を解く事になるだろう。
ここまでは計画通りだったが、五百年経った今、まさかあいつが魔王になるとは……。
何度も接触を試みるも、あいつは諦めようとしなかった。
流石は私、と言ったところか。
だが、これで全てが終わる。
封印が解けた私は、城のバルコニーへ赴いた。
数千年か……永かった。
軽く魔力を解放すると、辺りには暗雲が立ち込めた。
どうやら、この世界そのもののレベルが低下しているようだ。
……張り合いの無い。
私はこの星の全土に、恐怖をばら蒔いた。
城の内外から悲鳴が谺する。
私の存在を証明してくれる、心地好い悲鳴が。
さあ、この星に住まう、生きとし生ける全ての生命よ。
世界の崩壊の始まりだ。