追憶 6
翌朝、私はゼオのもとを訪れた。
掛ける言葉は無くとも、顔を見るだけなら。
医務室を訪れると、ゼオはベッドに腰を下ろしていた。
「魔王様、おはようございます」
「おはよう。体はもう良いのか?」
「魔王様が治療してくださったので、体は問題ありません」
ゼオは元気な姿を見せたかったのか、ベッドから立ち上がろうとした。
しかし力が入らないのか、ゼオは体をよろめかせている。
私はゼオの体を支え、ベッドに座らせた。
「無理をするな。傷は治せるが、流れ出た血液までは戻せないのだからな」
「申し訳ありません」
私は、ゼオの隣に座った。
「……昨夜はすまなかった。一方的に感情を押し付けてしまって」
「いえ、そんな……」
「昨日の事は、出来れば忘れてほしい」
「………」
「魔王様!」
医務室に兵士が駆け込んできた。
「魔王様、一大事に御座います!」
「落ち着け。何があった」
「人族の軍勢が、城下町を襲撃しています! 恐らく、昨夜の宴の最中に配備されていたものと……」
迂闊だった。
今の状態で攻め込まれたら、一溜まりもない。
「私が出る。お前は今の内に、動ける者を集めろ」
「まさか御一人で? 危険すぎます!」
「私が行かずして誰が行くのだ」
私は医務室を飛び出し、城下町へと向かった。
城下町のあちらこちらでは、黒煙が立ち上っていた。
被害は大きい。
これ以上の被害は食い止めたいところだが……人族の兵士達が広場に集結している。
これは、一気に城まで攻め込もうと言う算段か。
その様な事をさせるつもりはない。
「魔王が自ら出向くとは……好機! 皆の者、この場で魔王の首を取れば、我等の勝利だ!」
人族の隊長が指揮すると、人族の兵士達は一斉に襲い掛かってきた。
私は、ゼオの蘇生に大量の魔力を費やしたせいで、今は魔法を使う事が出来ない。
この数を魔法無しで相手にするのは、流石に骨が折れそうだ。
だが、これだけの数を相手にしていれば、その間だけでもゼオの事を考えずに済むだろう。
……そう思った矢先の事だった。
私の横を通り抜け、人族へと攻撃を仕掛けた者。
それは、鎧を身に纏ったゼオだった。
「ゼオ、何をしている! 今すぐ戻れ!」
「いくら魔王様が無双の力を持っていたとしても、この数に挑むのは自殺行為です! 俺も加勢します!」
そう言うとゼオは、鎧の武装を全て展開させた。
ゼオの鎧には、十二の武器が隠されている。
その全てを使い、流れるように舞いながら敵を薙ぎ倒していく。
「舞闘術奥義、死の舞踏!」
ゼオは次々と、人族の兵士を倒していった。
私も負けていられない。
「怯むな! 向こうはたった二人だ! 数で圧倒せよ!」
「お前が、この部隊の隊長か。ならば、その首を貰い受けるぞ」
私は隊長の頭を掴み、手刀にて切り裂いた。
それにより人族の兵士達の士気はみるみる下がっていく。
だがこのままでは、逃げ出した兵士で更なる混乱が起こるだろう。
「ゼオ、広場の反対側まで走れ! 人族の兵士を逃すな!」
「了解!」
この広場には、居城側と町の出口側にしか出入口が存在しない。
まずは退路を絶つ。
私が居城側、ゼオが出口側を押さえれば、こいつらは逃げる術を失う。
後は逃がさないように殲滅するだけ。
どれほどの間、戦っていたのだろう。
気が付けば、広場は死体で埋め尽くされていた。
「流石に、疲れたのではないか?」
「このくらい、まだまだ余裕ですよ。魔王様こそ、疲れてるんじゃないですか?」
「まさか。この程度で音を上げるほど、柔な体ではない」
私は広場にある、噴水の縁に腰を下ろした。
ああは言ったが、流石に疲れた。
暫くすれば、兵士達も来るだろう。
それまで少し、休ませてもらうとしよう……。
「……魔王様」
「なんだ……?」
「昨夜の事ですが」
「……あれは忘れろと言ったはずだ」
「いえ、そうではなくて……。まだ、お礼を言っていなかったので」
「礼?」
「俺の命を救っていただき、ありがとうございました」
ゼオは深々と頭を下げた。
「……顔を上げろ、ゼオ。そして、礼を言う必要もない。私のせいで、お前は命を絶とうとしたのだから。だが、私は……お前に死んでほしくなかった。だから助けたのだ。お前でなければ、見殺しにしている」
「魔王様……」
そう、私はゼオの事が好きだから。
この世界で初めて、失いたくないと思った。
だから私は、ゼオを助けたのだ。
……それなのに。
《シェイムラピアルデータ取得率、99%……》