追憶 4
魔王となった私は、壁の建造に取り掛からせた。
壁の素材には、私の魔力を染み込ませている。
これで、強度面は問題ない。
次に私は、魔族の人口を増やし始めた。
今現在、この町に存在している魔族のデータをコピーし、そのデータに少しずつ手を加え生成する。
これはクローンと異なり、遺伝子レベルでも別人だ。
普通に子供を作らせても良いのだが、それでは使い物になるまでに時間が掛かりすぎてしまう。
だが、この方法なら成人を作り出せる。
元の記憶もある程度引き継がせているため、教育の必要もない。
魔族の大量生産を始めて一週間、魔族の総人口は十倍に膨れ上がった。
食料の生産、家屋の建設、武具の量産、兵士の教育と鍛練を終え、最後に私の居城を作らせた。
これで一段落か。
だが、そろそろ人族も感付いている筈。
……次の段階へ進む時が来たようだ。
魔族を囲むように、人族は拠点を設営している。
まずは手近な所から攻め落とし、魔族の行動範囲を広げていく。
その間に、優秀な魔族を選出しておかなければ。
それにしても、知識が私の行動を阻害するのは腹立たしいものだ。
そして、そこから形成される感情も、私にとっては邪魔でしかない。
AdamとEveも、知識を持ったが為にEdenを追放された。
知識などと言う、データにより構築された虚空のメモリー群など、不確定的な感情を生み出すだけの不純物にすぎないのに。
その感情すら、表層意識と深層意識から構築される、心と言う曖昧模糊な必要的不純物。
その様な不純物だらけの体など、望んではいなかった。
魔王となるならば、純粋かつ絶対的な悪でなければならぬのだ。
そうでなければ、私は……。
時間と言うものは、瞬く間に過ぎ去っていくもの。
私が魔王を宣言してから、五度目の夏を迎えようとしている。
私は月に一度、ある場所を訪れている。
それは、エルステルン洞窟の最奥部にある泉。
そう、私が生まれた場所だ。
ここに来るまでの迷宮には、私が生成したモンスターを配置している。
ここは神聖な場所だ、誰にも踏み入られたくない。
泉の脇に、小さく盛られた土。
その土の前に小さな花を置き、私は手を合わせた。
声こそ知らないが、この人は紛れもなく私の母親だ。
母親の墓前に手を合わせる程度の心は持ち合わせている。
それこそ、心が私を突き動かした結果だが、この場所に居る間だけは、その様な事は考えないようにしている。
……暫しの祈りを済ませ、私は足早に居城へと戻った。
時間と共に、世界の勢力図も刻々と変化していく。
周辺に点在していた人族を押し返し、勢力を拡大させ、魔族は今や大国と呼べる程にまで成長していた。
だが、どれだけ時が流れても、私の体が成長する事はなかった。
……成長しないよう設定されているから。
故に私は、衰える事がない。
そして、私は死ぬ事もない。 純粋な存在であるために。
言わば私は不老不死だ。
魔王として、永遠にその座につかなければならない。
それは、神によって定められた運命であり、私はそれに抗うことが出来ない。
……何と窮屈で退屈な人生だろうか。
そんな退屈な人生に、彩りを添えてくれる存在が現れた。
まずは、予言者と自称する老人。
とある戦場で奇襲を受け、魔族軍が敗退すると予言した。
その老人の風貌が胡散臭かった為、私は老人の言う事を無視していた。
しかし、老人の予言は的中した。
魔族軍は渓谷地帯で奇襲に遭遇し、撹乱され、結果敗走を余儀なくされた。
その後も老人は様々な事を予言し、その予言は全て的中した。
そして、私の出生まで言い当てたのだ。
私の出生を知る者は、この星には存在しないはず。
それを言い当てたと言う事は、この老人も……。
私は老人を、側近として迎え入れる事にした。
老人の存在は、私にとって重要であった。
世界の理に介入する予言の能力は有用だ。
問題は老人の狙いが何であるかだが、何か行動を起こされる前に、頃合いを見て始末してしまおう。
そして、老人ともう一人。
退屈な人生に彩りを添えてくれた存在。
その名はゼオ。
私が、この世界で唯一……心から愛してしまった男の名だ。
《シェイムラピアルデータ取得率、70%……》