129 勇者説得
2号が頑張ってくれたお陰で、労することなくリンちゃんを捕まえることができた。
今回の功労賞である2号には、あとで美味しいものでも買ってあげよう。
「……まさか、全て計算だったと言うの?」
「残念だけど、その通り」
「……で? 勇者を捕まえて、どうしようっての?」
……ここはカグラに任せた方が良いかもしれない。
「リンちゃん……」
「あんたは確か、予言の巫女か? ……人族なのに魔王側か。それから、あんたにリンちゃんと呼ばれる筋合いはない」
カグラは懐から分厚い本を取り出し、本の背表紙でリンちゃんの頭を小突いた。
リンちゃんは目を丸くしている。
「な、何をするのよ!」
「本で叩かれたら、頭に内容が入るかもしれないよ?」
「何を言って……ま、まさか?」
「そう、私だよ。凛ちゃん」
「ま、麻衣ちゃん……? う、嘘だ。だって、これは夢のはずじゃ……」
なるほどね。
カグラの話では、転移には眠る必要があるらしい。
この世界が夢であると思ってても、不思議なことではないか。
でも、この世界は現実であり、ちゃんと存在してる。
そのことを知らなかったのか、知ろうとしなかったのか。
あるいはリンちゃんも、この世界がゲームのようなものだと思い込んでいるのか。
……あながち間違いでもないけどね。
「この世界は夢じゃない。実際に存在していて、この世界で生活してる人達も、ちゃんと生きてるの」
「そ、そんなはずは……」
「凛ちゃん。あなたは毎日、お昼頃になると声が聞こえてたはず。それ、私も聞こえてた。それを聞いてれば理解してるはず。この世界が実在するって」
「……嘘だ。これは、私の夢なんだ」
「凛ちゃんの夢なら、凛ちゃんの思い通りになるはず。こんな、凛ちゃんを惑わせようとしている私を、消すことだってできるはず。そして、サキさんに負けるようなことも無かったはず。ブレアクで、初めてサキさんと会った時のように」
「……え?」
「ここに居るサキさんは、私達の知っているサキさんなの」
カグラは、自分達が転移者であること、私が転生者であることをリンちゃんに伝えた。
「そんな……そんな事って……」
「すぐに信じろとは言わない。この世界を夢だと思うのも構わない。でも、今は戦っている場合ではないの。凛ちゃん、あなたの力が必要なの」
「……信じるよ」
「え?」
「麻衣の言う事、信じるよ。怪しいジジイと私の親友、どちらを信じるかなんて、決まってるでしょ?」
「凛ちゃん……。 ありがとう」
リンちゃんは私の方を見た。
「あんたが、あのサキさんだってのは、まだ信じられないけど……麻衣ちゃんが信じてるんだから、そうなんでしょ?」
「ありがとう、リン」
「……さあ、拘束魔法を解いて。あのジジイのもとへ案内するからさ」
「ええ」
私は、リンちゃんにかけた拘束魔法を解除した。
「……それにしても」
「うん?」
「私が戦ってたサキさんと、今私の目の前に居るサキさんが、同一人物だとは思えないんだよね。分身でもしてた?」
「……まあ、そんなところ」
さすがリンちゃん、見破ってたか。
でも、種明かしはしない。
リンちゃんを信用してない訳じゃないけど、これは秘密にしておきたいことだからね。
転送妨害装置のある部屋の、さらに奥には通路があった。
この通路を抜けると玉座の間に出るようで、エレヌスさんはそこに居るようだ。
あのジジイとは決着をつけないといけない。
まだ何か隠してる気がするから、慎重にいくけどね。