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魔王様と貴族

 いやだ。

 ああ、いやだいやだ。

 食べ物に釣られなければ良かったと後悔する。

 貴族も騎士も、私のことを見ている。

 半数は憧れ、半数は疑いの眼差しだね。

 気持ちは分からんでもないが、ジロジロ見てくるなコンチクショウ。



「魔王様。我々はずっと、あなたが現れる日をお待ちしておりました」



 リーダー格の女性、アナスタシアだっけ?

 彼女は私の前にひざまずいている。

 悪い気はしないけど、ただの一般人だった私からすると落ち着かない。


「我々が責任を持って、魔王城までお送りいたします。(ふもと)とは言え、ここの寒さは体に堪えます。我々の挨拶は、魔王城に戻ってからにしましょう」



 確かに寒いけど、魔法衣と魔王装備を重ね着してるから、そこまで寒さを感じない。

 あのダンジョンが山脈にあるって知った時に、外に出たら間違いなく寒いと思って、あらかじめ重ね着をしておいたのだ。

 とは言え、寒いものは寒いし、アナスタシアの言うとおりにしておこう。

 と言うことを、カグラに念話で伝える。



「魔王様も、戻る事に賛成しております」

「分かりました。ではカグラ、頼みましたよ」



 カグラはうなずくと、呪文のようなものを唱え始めた。

 すると地面に、ここに居る全員が入れるほどの魔法陣が現れた。

 この魔法陣には見覚えがある。

 ダンジョンの中にあった転送装置と、同じ魔法陣だ。

 ちょっと鑑定してみよう。



〔転送大方陣:大規模な転送方陣。通常の転送方陣と異なり、大勢の人物を転送させる事が可能。また、術者の任意により起動させる事が可能〕



 やっぱり転送装置だった。

 しかも、これだけのものを作れるってことは、カグラは実は凄い子なのかもしれない。



「さあ皆さん、転送方陣に乗ってください」



 カグラに促され、貴族も騎士も転送装置に乗った。

 かなりの人数だが、全員乗ってもまだ余裕がある。

 やっぱり凄いな。



「では、転送を開始します」



 ああ、やっぱりこの、何とも言えない浮遊感は変わらないのね。

 転送は便利だけど、この浮遊感は何度も体験すると気持ち悪くなる。



 気が付くとそこは、豪華な装飾で彩られた広間だった。

 転送が終わったって事は、ここが魔王城だよね。

 魔王城と言えば不気味なイメージがあるけど、そんなことはない普通のお城みたい。

 ちょっと残念だ。


 魔王城に着いた私は、玉座の間に案内された。

 ゲームやマンガなんかでよくある、おどろおどろしさや趣味の悪い彫刻や剥製の類もなく、至って普通の玉座の間だった。

 やっぱり、ちょっと残念だ。


 私はアナスタシアに促され、玉座に座った。

 うん、落ち着かない。

 分かってたことだけど、やっぱり落ち着かない。

 ふかふかの座り心地だけと、やっぱり落ち着かない。

 今からでも辞退できないかな?

 なんて考えてたら、男性が私の前にひざまずいた。

 この男性、頭のてっぺんはハゲなのに横髪はロールで、貴族っぽいヒゲを生やし、小太りなのに腕や足はひょろっとしている。

 服装は他の貴族よりも派手と言うか、宝石やら何やらをあしらっている。

 指輪も凄いね。

 更に、金装飾に宝石が散りばめられた杖を持っていたりと、ザ・成金を体現している。

 どこの世界にも、こんな奴は居るんだね。

 良い人か悪い人かの区別もつかないし、なんだこいつ。



「では、魔王様にご挨拶をなさってください」

「その前に、確認がございます」

「何でしょう?」



 うわ、何だか嫌な予感。



「我々は異国の、特に人族の小娘の言う事を、そう易々と鵜呑みには出来ません。もし、私の目の前に御座す方が本当に魔王様であるならば、本当に試練の遺跡を徒破した猛者であるならば、その先の泉で禊ぎを行っているのであれば、魔王たるその証をお持ちの筈」



 周りの貴族がクスクスと笑ってやがる。

 話も飛躍されてるし。

 どうやら、私が魔王だって信用されてないっぽい。

 こいつの言うことに一理あるけど、試されてるみたいで気に入らない。



「確かに、ライオス卿の意見は尤もです。では何を持って、その証としますか?」

「やはりここは、鑑定以外にありますまい」

「……仕方がありませんね。鑑定グラスの準備を」



 騎士達数人が、何かの装置を運んできた。

 望遠鏡っぽいけど、色々な装置が取り付けられている。

 これが、さっきアナスタシアが言っていた鑑定グラスなのだろうか?

 ライオス卿と呼ばれてた小太り貴族が、その望遠鏡で私を覗く。

 可憐な美少女を望遠鏡で覗くそれは、単なる変態の所業にしか見えない。

 見るな変態。



〔魔王:サキ(仮)は魔具:鑑定グラスにより鑑定されています〕



 ライオスが手元のスイッチを押すと、望遠鏡の上部に取り付けられた装置から光が放たれ、壁に私のステータスが投影されていた。

 鑑定したものを投影して、誰でも見られる装置ってところね。

 プライバシーは守られないのか。



〔魔具:鑑定グラスによる鑑定終了。鑑定結果が全て表示されます〕



 投影された鑑定結果に、貴族達は驚いてる様子だ。

 いや、実は私も驚いてる。

 だって、鑑定結果の最後の部分に、禊ぎ完了って書いてあるんだから。



「皆さん、これで納得していただけますね?この方は間違いなく魔王様であると」



 アナスタシアの問いに、貴族達はうなずいている。

 ライオスも納得したようだが、何か引っかかっているような表情をしている。



「ライオス卿、まだ何か?」

「歴代の魔王様は、絶対逃走のスキルを持つ騎士をお供に連れて行く為、禊ぎの泉まで無傷で辿り着く事が可能でした。しかし今代の魔王様は、お一人で試練の遺跡へ赴かれ、禊ぎまで行い戻られました。俄には信じ難い事なのですが、もしや試練の魔物を打ち倒されたのではないかと」



 ライオスの言葉に、その場にいる全員がざわついている。

 倒しちゃマズかったのだろうか?

 いや、そんなニュアンスじゃないし、普通は倒せないのか?

 仕方がない、静かにしてもらうために、証拠の品を提出しようじゃないか。


 私は、魔王の装束の腰にくくりつけられた、小さな袋を取り出した。

 魔王装備も詳しく鑑定しておいて良かったよ。

 この小さな袋、実は異空間収納という魔法が施されているらしく、どんな大きさの物でも際限無しに仕舞い込めてしまう優れものだった。

 欠点があるとすれば、生物を入れることが出来ない事くらいか。

 私がこれまで回収してきたアイテムの数々は、全てこの袋に入れて持ち歩いていたのだ。

 狼や亀の素材は、大きすぎて持ち運べないからね。


 私は袋を広げ、狼の爪と牙、亀の輝岩を取り出して見せた。



「こ、これは、試練の遺跡の番人、輝岩大亀の輝岩石に、禊ぎの泉の守獣、魔狼の爪と牙……」



 見間違いではないかと、ライオスが鑑定グラスを覗いたが結果は同じだった。

 おかげで更に騒がしくなったけど、まあいいか。

 問題は、あの狼の別名。

 確か、禊ぎの泉の守獣とか言ってなかったか?

 あの狼が居た場所には、地底湖があっただけで泉なんて無かったはずだ。

 地底湖……地底湖?

 え? もしかしてあの地底湖が、禊ぎの泉だったの?

 確かに、あの地底湖で体を洗ったけどさ。

 いや、今は事の成り行きを見守ろう。

 魔王としてこの世界に生まれてから、まだ1日も経っていない状態だ。

 この世界についての知識が、圧倒的に不足している。

 とりあえず今は、流れに身を任せよう。

 とてつもなく嫌な予感がしているけど、この予感が気のせいであってほしい。

 そう祈るしかない。

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