122 龍人族
ブラックおじさまは、彼が話した通りドラゴンだ。
しかし、ただのドラゴンではなかった。
彼は、人と龍の間に生まれてしまった子だったのだ。
昔、人族の若者と龍族の娘が恋に落ちた。
しかし、それは禁断の恋だった。
たからこそ、その若者と娘は秘密裏に愛を育んでいった。
時は流れ、娘は子供を身籠った。
人と龍の間に生まれた子は、特に龍族からは忌み子と呼ばれ、本来なら生まれてすぐに殺されてしまうはずだった。
そして、その両親も。
そこでドランさんは、ブラックおじさまと両親を追放すると言う形を取った。
そうすることにより、その家族を守ろうとしたのだ。
何故、ドランさんはそのような措置を取ったのか。
それは龍族の娘が、ドランさんの娘だからだ。
つまりブラックおじさまは、ドランさんの孫にあたると言うわけだ。
しかし、このような措置に、数匹の龍族は納得できずにいた。
このままでは、この家族に被害が出てしまう。
そう考えたドランさんは、両親にあることを提案した。
それは、ブラックおじさまを孤児院に入れ、龍族の目から隠すと言うものだった。
「……以来、私と娘夫婦は、龍族からゼルムストを隠しながら孤児院に援助を行っていった。しかし、それも長くは続かなかった」
孤児院への援助、それは生易しい金額ではなかった。
普通の稼ぎでは、養うことなどできはしない。
それでも両親は、子供のために働いた。
そんな苦労が祟ってか、数年後には両親とも亡くなってしまった。
「しかし、私に悲しんでいる暇など無かった。ゼルムストを育てるには孤児院への援助が必要だが、当時の情勢は最悪だった」
「人族と魔族が、まだ争っていたころ……」
「その争いが終わる頃だが、その当時は争いが終わるなど考えもしなかった」
「だから、ゼルムスト卿を傭兵団に?」
「そうだ。ゼルムストは龍の力強さを継いでいたし、その強さなら傭兵として、生きていけると思ったのだ」
「……孫を傭兵にするのは、辛かったでしょう」
「胸が張り裂ける思いだった……。それから数年後、長かった争いもようやく終わった。平和になり、不要となった傭兵団は解体され、当時傭兵団長を勤めていたゼルムストには、爵位と領土が与えられた」
「そのように進言したのはドラン公でしょう?」
「……さすが魔王様、その通りです」
なるほどね、大まかなことは理解した。
でも、そのあとが問題だ。
ドランさんはどうして、些細なことでも報告するように言ったのか。
「それは私が、ゼルムストの行動を把握しておきたかったからです」
私に送られてくる報告書は、まずファルレイシア領の領主であるドランさんが確認をする。
そこで書類の不備などを調べるのだけど、どうやらドランさんはブラックおじさまの書類しか見ていないようだ。
こういうのを親バカと言うのだろう。
「事情は分かりました。ですがやはり、こちらとしては迷惑です。そしてドラン公、仕事はしっかりこなしてください。あなたの親心が、私の迷惑となっているのです」
「しかし……」
「それに子供と言うものは、親が思っている以上にしっかりしているものなのです。見守ることも、親の勤めですよ」
「親ではありませんが……魔王様の仰っている事はごもっとも。分かりました、以後気をつけます」
うむ、どうにかなりそうだ。
ドランさんは深く一礼すると、玉座の間から退出した。
やれやれ。 まさか、爵位持ちの貴族全員に指導するはめになるとは思わなかったよ。
……誰か忘れてる気がするけど、きっと気のせいだよね。