121 ドラン公爵
ファルレイシア領へ戻った私は、早速ドランさんの屋敷へ向かった。
しかし、そこにドランさんの姿はなかった。
使用人に話を聞くと、ドランさんは魔王城に向かったらしい。
……入れ違いになったというか、これは緊急事態だ。
何の用があって魔王城に行ったのかは分からないけど、ドランさんと3号を会わせるわけにはいかない。
恐らく、ドランさん程の強さなら、シャドウサーヴァントを見破ることもできてしまうかもしれない。
私がシャドウサーヴァントに仕事を押しつけていることは、誰にも知られてはならない。
今後の行動に、支障が出るからだ。
と言うことで、3号にテレフォンだ。
《3号、今どこいる?》
《ん……玉座の間だけど》
《ドランさんには会った?》
《いや、会ってないけど……もしかして》
《ドランさんが魔王城に向かったみたい》
《……分かった。今は玉座の間に誰も居ないから、解除しても大丈夫》
そのことを聞いた私は、3号を解除した。
……これで一安心だ。
あとは、なるべく人に見られないように、玉座の間に戻らないと。
数人に見つかりそうになったけど、何とか戻ることができた。
そして、私が玉座に座った瞬間、扉をノックする音が聞こえた。
「魔王様、ドラン公爵がお見えになられました」
うむ、ナイスタイミングだ。
ドランさんは私の前で跪く。
礼儀正しいのは良いことだけど、そんなにかしこまらなくても良いのに。
「ドラン公、今日はどのようなご用件でしょうか?」
「おや、魔王様。先程まで我が屋敷にお出でだったのでは?」
うわ、気づかれてたのか?
……いや、そんなはずはない。
いくらドラゴンでも、私の行動を予見することはできないでしょ。
……そうだと願いたい。
「……さあ、何のことでしょう。私はずっと、魔王城に居ましたよ。何なら、アナスタシアに聞いてみては? 私がずっと、魔王城に居たと証言してくれるでしょう」
「……いえ、結構」
「それよりドラン公。あなたがわざわざ出向くとは、何かあったのですか?」
ドラン公はしばらく考えた。
魔王城を訪れた理由を考えているような。
「そうそう。魔王様、ゼルムストに会われたようですな。彼から何を聞いたのでしょうか?」
そのことまで知ってるのか。
と言うか、ドランさんの懸念は、ブラックおじさまがドラゴンだと悟られたかどうかだと思う。
でも、ブラックおじさまの件もあるし、ここはひとこと言っても良いかも。
「ドラン公。あなたはゼルムスト卿に、どんな些細なことでも報告するよう言ったそうですね」
「それが何か?」
「彼は、変なところで真面目なのです。些細なことでもと言えば、本当に些細なことを報告してしまうのです。そんな報告書を送られても、こちらとしては半ば迷惑なのです」
「それで?」
「即刻止めさせるよう、ゼルムスト卿に伝えてください」
ドランさんはまた、考える素振りを見せる。
そして、小さく溜め息をついた。
「……分かりました、彼に伝えておきましょう。他には、何か言っていませんでしたか?」
やっぱり、私のことを探っているような聞き方だ。
隠す必要もないだろうし、ここは素直に話してしまおう。
私がブラックおじさまから聞いたことを話すと、ドランさんは何とも言えない表情を浮かべた。
「やはり、聞いてしまったのですか」
「ゼルムスト卿がドラゴンであることは、そこまでして隠さなければならないことなのですか?」
「はい」
ドランさんはもうひとつ溜め息をつくと、ゆっくりと語り始めた。