120 VSブラック……?
私に気づいたブラックおじさまは、剣を抜いて身構えた。
いや、本当にそう言う展開になられても困るんだけど。
「魔王か……。お前は今、何を見た?」
どんな返答でも、戦闘は回避できそうにないよね。
だったら、正直に言ってみよう。
「まさか、あなたがドラゴンだったとは驚きです」
「やっぱり見たのか。……オレの秘密を知られたからには、生かしておくわけにはいかねえ」
ブラックおじさまは、再びドラゴンの姿に変化した。
……本当に、こういう展開はノーサンキューなんだけど。
「……冗談だ、真に受けるな」
そう言うと、ブラックおじさまは元の姿に戻った。
いや、冗談には聞こえなかったんだけど……。
「それで、魔王がこんな場所に出向いて、いったい何の用だ?」
そうだ、ブラックおじさまに色々と言いたいことがある。
が、ここでは落ち着いて話せない。
私が、一度戻るよう提案したが、ブラックおじさまは渋っていた。
ここで修行の最中だったようだけど関係ないね。
この辺りの臭いにも耐えかねてるわけだし、私は有無を言わさずブラックおじさまを連れ帰った。
「言いたいこと?」
「まずは、ブラックが提出している書類について」
「ああ……言われるだろうと思ってたが、ついに注意されたか」
確信犯だったのか、尚の事たちが悪い。
「魔王には悪いが、オレは教育と言うものを受けたことがないんだ。書類の不備くらい」
「でしたら使用人とか、教養ある者に書かせなさい」
「……良いのか?」
「そのための使用人でしょう」
「……何だ、良いのか。オレはてっきり、自分で書かなければならないものと」
ブラックおじさまはアレだね、変なところが真面目なんだね。
「それから、些細なことで報告書を提出しないでください。モンスターの討伐状況や兵の消耗品ならともかく、その日のディナーの内容まで報告しなくても結構です」
「いや、これに関しては、そういったものも報告するよう言われたんだ」
「誰に?」
「……ドランだ。あいつに言われたんだよ」
ドランさんめ、余計なことを。
「分かりました。そのことについては、ドラン公爵と議論します。それから」
「まだ何かあるのか?」
「ブラックは龍なのですか?」
「……魔王が見た通りだ。尤も、それを知ったのは最近の事だがな」
これは……色々と抱えてるパターンだね。
ブラックおじさまは元々、孤児院の出身だったらしい。
当時の孤児院は、恵まれない環境だった。
多額の寄付が無いと、子供達に勉強を教えることすらままならなかった。
けど、ちゃんと生活できるだけの援助は、孤児院にあったようだ。
そして、そんな環境にあったからなのか、ブラックおじさまは喧嘩が絶えなかった。
次第に力強く育ったブラックおじさまは、当時存在していた傭兵団にスカウトされることになる。
そこで腕を磨いたブラックおじさまが、傭兵団の長になるまでに時間はかからなかった。
そして、ある理由から、傭兵団は解体されることになる。
解体され目的を失い、浮き足立つ傭兵団を押さえ込むことに必死だったのだろう。
長であったブラックおじさまに爵位と領土を与え、配下の傭兵をブラックおじさまの私兵に任命した。
そのように手引きしたのは、他でもないドランさんだ。
……実はこれ、五百年前の話。
つまり、ブラックおじさまは五百年以上生きていることになる。
もちろん、これだけ長命であることに疑問も抱いたけど、ブラックおじさまの性格から、あまり深く考えなかったようだ。
そして数年前、ドランさんからドラゴンであることを告げられたらしい。
以来ブラックおじさまは、数名の私兵にだけ正体を明かし、ドラゴンとしての戦い方を学んでいたようだ。
うむ、何となく分かってきた。
とりあえず、書類の件は何とかしてくれるみたいだし、あとはドランさんと議論をしないと。
爵位持ちの貴族全員と会うつもりじゃなかったのに……。
でも、これも私の仕事を減らすためだ。
そのために、できることは何だってするさ、
それが私だもの。




