118 3号の不満
魔王の寝室。
私は、エルーザ領から戻った1号に、ロウゲン王からの書簡を手渡した。
それを読み終えた1号は、またしても仕事を押し付けやがった。
もう、有無を言わさずだ。
私だって、書簡の内容は分かってる。
書簡には、三日後に会合を開こうと書かれていた。
だからこそ、私に押し付ける意味が分からない。
まだ三日あるし、仕事は3号に任せて私は他のことをしてもいいよね?
と言う魂胆なのだろうけど、そんなことが許されるはずがない。
私にだって自我があるし、意志だって存在する。
そして私の性格は、コピー元である1号と同じだ。
つまり、私だって仕事なんかしたくない。
部屋でぐーたらしていたいのだ。
……1号は本体であり、私達シャドウサーヴァントのマスターだ。
彼女の命令には逆らえない。
しかし、彼女は気づいていない。
一度シャドウサーヴァントを解除し、再び発動させても、私達の記憶が残っていることを。
だから私は、1号に対しての不満がたまっている。
たまりまくっている。
せめて2号が代わってくれればと思うが、2号も2号で、1号に別件を頼まれているようだ。
本当に、誰か代わってくれないかな?
《3号、心の声がだだ漏れだよ?》
2号からのテレフォンだ。
《不満しかないんだから、仕方がないでしょ?》
《でも、1号に聞かれたら》
《1号だって、この気持ちは分かってるはずだよ》
《だから3号に押し付けてるんでしょ? あんたは1号の影武者なんだから、きっちり仕事をしなさいよ》
《か、影武者?》
影武者。 影武者。
何だろう、この胸の高鳴りは。
影武者か。
……格好良い!
何とはなしに、中二心をくすぐられるフレーズだ。
《ま、まあ……もう少し頑張ってみようかな?》
《何というか……あんたも1号もちょろいよね》
《何か言った?》
《いや、何でもない》
そう言えば、2号は何をしているんだろう?
少し前から2号の視覚情報が遮断されてるから、彼女の行動を知ることができなくなっている。
それだけではない。
2号に関する、あらゆる情報が遮断されている……。
いったい、どこで何をしているのか。
……2号。 あんたまさか、サボって遊んでるわけじゃないよね?
《もしそうだったら、どれだけ良かったことか。私は秘密裏に、リンちゃんの動向を探ってるの。情報を遮断してるのは、あんたが私の様子を見て、サボらないようにするため》
《先生、気晴らしがしたいです》
《3号ちゃん。あんたは仕事が終われば、残りの時間は自由だよね? 私は休み無しなんだよ? ……私の言いたいこと、分かるよね?》
《お仕事頑張ります!》
《よろしい》
……2号も2号で大変なんだね。
1号も面倒なことしかしてないし、もしかして一番楽なのは私なのか?
《今ごろ気づいたの? 私や1号は大変なの。一番楽してるのは3号、あんたなのよ》
言いくるめられてる気がするけど、確かにその通りだ。
1号と2号に比べれば、私は仕事さえ終われば遊べるわけだし。
……なんだ、私は勘違いをしていたようだ。
なんだか本当にごめんなさい。
《分かればよろしい。それじゃあ私は戻るから、もうテレフォンを切るよ?》
《うん。なんか、ごめんね?》
《3号も疲れてたんだよね。今日の仕事が終わったら、ゆっくり羽を伸ばしな》
《ありがとう、そうするよ》
テレフォンが切れた。
私は、目の前に積まれた書類に視線を移す。
書類の数は、二十枚ほどか。
思えば、この程度の仕事量に落ち着いてるのも、1号があれこれやってるお陰なんだよね。
よし、考えるのはヤメだ。
目の前の仕事を片付けてしまおう。
終われば自由だし、何より数も少ないからね。
気が進まないことに変わりはないけど、私は黙々と、書類を片付けていった。