117 アルベルトの正体
どうやら今夜は、屋敷でパーティーが行われているようだ。
なかなか豪華な……というか、魔王城の食事より豪華じゃないか?
いくらイケメンだからって、許されることと許されないことがある。
魔王の食事より豪華な食事という時点で大罪だ。
冗談はさて置き、パーティーに参加してる人達は、やっぱり女性が多いね。
そして、みんな美人だわ。
予想はできてたけどね。
うーん、どうも引っかかる。
吸血コウモリを配下にしていて美人が好きって、どう考えても吸血鬼なんだよね。
でもアルベルトは、太陽の下でも何ともなさそうだったし……。
それに、あのコウモリが配下と言うのも考え難い。
もし、コウモリが配下だったら、私兵がコウモリの討伐依頼を出すのはおかしな話だ。
……いや、待てよ?
もしかしてあのコウモリは、自分が吸った血をアルベルトに与えていたのでは?
あれだけの数だ、ランクの低い冒険者は、昼間の二人組のように逃げ帰るだろう。
その時に吸った血を、アルベルトに分け与えているとしたら……。
あの依頼は、アルベルトが血を得るための罠だったのか?
そう考えれば、コウモリの討伐依頼がなくならなかったことも辻褄が合う。
とは言え、これは私の憶測だから、実際はどうなのか分からないけどね。
さて、今の様子は……あらら。 アルベルトが美女を連れて、パーティーを抜け出したね。
ナニをするつもりなのかなー。
私分かんないなー。
……コホン。
部屋に連れ込んで、楽しそうに話をしてる。
良い雰囲気になってきたみたい。
これ、このまま見てるのはアカンと思うのよ。
なんて思ってると、アルベルトの瞳が紅く染まっていく。
その瞳を見た美女は、どうやら気を失ってしまったようだ。
そしてアルベルトは、鋭い爪のような形状の装具を取り出し、美女の手首に突き刺した。
しかし、美女は起きる気配がない。
美女の手首からは、血が滴り落ちている。
アルベルトは傷口を咥えると、流れ出る血を飲み始めた。
これで確証が持てた。
アルベルトは吸血鬼だ。
と言うことは、レイロフ君も吸血鬼だったり?
何だか、ますます謎が深まった気がするぞ?
それに、私がコウモリに襲われなかったのは何故だ?
……これは、本人に直接聞いた方が良いのかもしれない。
血を飲み終えたアルベルトは、美女の傷口に回復魔法をかけて、部屋から出て行った。
その後もアルベルトは、美女を部屋に連れ込んでは血を吸っていった。
その数は十人ほど。
その内、それ以上のことが起こった美女が数人居たけど、そこは割愛させていただくよ。
翌朝、私はアルベルトの屋敷を訪れた。
色々と確かめるためだ。
会いたくはないけど、確認しないと気が済まないからね。
「これはこれは、麗しき魔王様ではありませんか」
帰って良い?
「魔王様自ら会いに来てくださったのに、すぐに帰しては子爵の名が廃ります」
自分のせいだと気づけ。
「まあまあ、そう仰らずに。ここで立ち話も何ですし、部屋でゆっくりと話しませんか?」
立ち話でも構いません部屋に連れ込もうとしないでください。
「やはり、昨夜覗き見をしていたのは魔王様でしたか。いけないお人だ」
俺の目を見ろと言わんばかりに、顎クイをされてしまった。
「さあ、魔王様。楽しいひとときを」
アルベルトの瞳が紅く染まっていく。
でも、残念だったね。
その瞳は対策済みだよ。
「おや? 昏睡の魔眼が効かない?」
「あんたの魔眼対策のために、わざわざスキルを獲得したんだ。さあ、色々と答えてもらうよ?」
「……良いでしょう」
アルベルトは溜め息をつくと、ホールの隅にある椅子に腰をかけた。
「まず、あんたは何者?」
「アルベルト・カラクトス子爵。それ以上でもそれ以下でもありませんよ、マオさん」
こいつ、私のことを見破ってやがったのか?
……まあ、この際良いだろう。
「まずは私の問いに答えなさい」
「……貴女が考えている通りですよ」
「まさか、本当に?」
「ええ、私は吸血鬼です。そして、あの洞窟に居たコウモリ共は、私の一部なのです」
やっぱりそうだったか。
私を襲わなかったわけじゃなく、アルベルトが襲わせなかったということか。
「それじゃあ、首を噛まずに血を吸ってたのは何故?」
「ああ、あれは……私が噛みつくと、相手は吸血鬼になってしまうのですよ。それでも構わないのですが、やはり純粋な生娘の血が美味なので」
「あ、そう。そう言えば、レイロフ君も吸血鬼なの?」
「あの愚弟は普通の魔族ですよ。そして、私の両親が吸血鬼と言うわけでもありません。私が幼い頃、吸血鬼に噛まれたことがありましてね。それ以来、私は吸血鬼なのですよ」
なるほどね。
あまり深く詮索はしないけど、こいつも色々あるんだね。
あまり深く詮索はしないけど。
「最後にひとつだけ聞くけど、魔眼を使って、私に何をしようとしたのかな? 返答次第では、権力の行使も辞さないけど」
「……ただの戯れですよ。何をするつもりもありませんでした」
……そう言うことにしておこう。
すっきりしないけど、知りたいことを知ることはできたし、エルーザ領に長居は無用だね。
ロウゲン王からの返答も届いてるかもしれないし、戻ることにしよう。