116 望遠鏡+透視
私は、確かにコウモリ達を倒した。
そして指定素材も渡し、クエストは完了となったはずだった。
しかし、コウモリ討伐の依頼は残ったままだった。
どういうことなのか。 私はもう一度依頼を受け、洞窟へ向かった。
一晩経った洞窟内には、昨日と同様に大量のコウモリ達が群がっていた。
起きてはいるけど、こちらに気づいても襲ってくるわけでもない。
うーん……このまま倒すのは気が引けるな。
「おい、ここだ」
「そんなに急がなくても大丈夫だろ?」
不意に、洞窟の外から数人の話し声が聞こえた。
私は洞窟奥の岩陰に身を隠し、魔眼の透視を使って様子を見ることにした。
……隠れる必要はなかったと思うけど、念のため。
「今回の依頼はコウモリ退治か。……俺はコウモリが苦手なんだよな」
「報酬は良いんだから、文句を言うなって。それに大量発生と言っても、精々10匹程度だろう。俺が魔法で一掃してやるから、安心しろ」
やってきたのは、二人組の冒険者だった。
どうやら彼らも、私と同じクエストを受けたらしい。
止めるべきか。 でも、このコウモリは攻撃してこないし。
それは、二人組が洞窟内に足を踏み入れた瞬間だった。
今まで大人しかったコウモリ達が鳴き始め、二人組目掛けて一斉に襲いかかった。
たまらず、二人組は洞窟の外へ逃げていった。
「いててて! 何だよこれ、いくらなんでも多すぎるだろ!」
「あれは、軽く百匹は居たな……」
「と言うかお前、魔法で何とかしろよ!」
「無茶言うなって。あれだけの数を仕留められる魔法なんて、難易度高くて覚えてないんだから。……まあ、目的は果たせたからよしとしよう」
どうやら男は、一匹だけコウモリを捕まえていたようだ。
指定素材はバンパイアバットの翼二枚だったから、生け捕りにできたのは運が良かったと言えよう。
「これなら、ギルドの指定素材も充分だろう」
「おお、でかした!」
暴れないようコウモリを縛り、二人組は意気揚々と去っていった。
それにしても、どうしてこのコウモリは、私には目もくれず冒険者を襲ったんだろう?
色々と考えながら、岩陰から出ようとした時。
入り口の方から足音が聞こえてきた。
先ほどの冒険者が戻ってきたのだろうか?
もう一度岩陰に隠れて透視を使ってみると、洞窟にやってきたのはアルベルトだった。
ギルドに依頼が出てたってことは、当然アルベルトも、コウモリが大量発生したことを把握しているはずだ。
様子を見に来たのだろうか?
するとアルベルトは、何の躊躇も見せず、洞窟内へ入ってきた。
……襲われても知らないよ?
しかし、コウモリ達はアルベルトを襲うことはなかった。
アルベルトが天井を見上げると、何かを呟いているのか口を動かしている。
すると数匹のコウモリが、アルベルトが差し出した手の上に留まった。
そしてコウモリは、アルベルトの指に牙を突き立てた。
痛そうだけど、血を吸っていると言うわけでもないような……?
しばらくして、コウモリはまた天井に戻っていった。
そしてアルベルトも、洞窟から立ち去った。
……何だったんだろ?
これは気になる。
あいつが何者なのか、確かめる必要がある。
とは言え、近づくのは危険な予感がするし。
この日私は、町の宿屋に泊まることにした。
部屋は三階のロイヤルスイート。
いや、待ってほしい。
くつろぎたいからロイヤルスイートに泊まるわけではないの。
これにはちゃんと理由があるの。
領主であるアルベルトが住んでる屋敷は三階建てだ。
そして、この宿屋も三階建て。
この二つの建物以外に、この町に高い建物は存在しない。
つまり、このロイヤルスイートが、アルベルトの屋敷を覗き見するには丁度良いのだよ。
ここに望遠鏡と魔眼の透視を組み合わせれば、最強の盗撮ツールになるのだよ。
犯罪臭いけど気にしたら負け。
さて、どんな様子かな?