115 エルーザ領
エルーザ領。
そこはとてものどかで、とても落ち着いていて、とても穏やかな場所だった。
この辺りに出現するモンスターも、軒並みLVが低い。
それこそ、LV1の村人でも倒せそうだ。
こんな素敵な場所を治めてるのが、あの女たらしなんだから、世の中分からないものだよね。
さて、久々の魔法衣発動。
フード付きのローブを生成。
これなら、アルベルトが町に居てもバレないでしょ。
アルベルトの居るエルーザ領には用があるけど、アルベルト本人に用があるわけじゃないからね。
とても閑静な町。
エルーザ領唯一の町だ。
アイオロスト領の港町は海ならではの賑わいを見せていたけど、こちらはそんな喧騒とは程遠い。
ゆったりと羽を伸ばすには最適な場所だね。
この様子だと、他の領土もリゾートの可能性が高いね。
退屈はしないかな。
さて、エルーザ領に来るのは初めてだし、色々と見て回ろうか。
どうやらエルーザ領は、スミロンの実とパルフーツが名産のようだ。
スミロンの実は、以前エレヌスさんから貰ったあれ。
そしてパルフーツは……スイカとメロンを足して2で割ったようなフルーツだ。
果物の王様とも呼ばれ、かなりの糖度と食べ応えだ。
うむ、いくつか買って帰ろう。
「そこのお嬢さん」
突然話しかけられたけど……嘘でしょ?
私はフードを目深に被り、声の方向を確認した。
そこに居たのは、やっぱりアルベルトだった。
無視してやろうか?
いや、それで不審に思われても困るし。
「な、何でしょうか?」
私は声色を変え、アルベルトの顔を見ずに応えた。
「貴女は、旅人ですか?」
「え、ええ、まあ」
「お一人で?」
「は、はい……」
「そうですか。申し遅れました。私はアルベルト。このエルーザ領の領主です」
「マ、マオです」
「女性の一人旅は、何かと危険が伴います。この町でしっかりと準備していく事をお勧めしますよ」
あら。 てっきりナンパでもしてくるのかと思ったけど、そんなことはなかったね。
「ご忠告ありがとうございます。では、私はこれで」
私はそそくさと、その場を後にした。
危ないところだったけど、バレてはいないようだね。
買い物も済ませたことだし、目的を果たしてしまおう。
長居はしたくないからね。
やってきたのは、町から少し離れたところにある洞窟。
ここに、バンパイアバットが大量発生したから、退治してほしいとの依頼がギルドに届いていた。
バンパイアバットとは、その名の通り吸血コウモリで、エルーザ領の私兵からの依頼だった。
強くはないけど、集団で襲いかかってくるから厄介な相手だ。
その奴らが大量発生したんだから、私兵にしてみたらたまったものではないよね。
洞窟に入ってみると……これは軽くトラウマになるね。
洞窟の天井を埋め尽くすように、コウモリ達が密集していた。
ただ、襲ってくる気配はない。 ……と言うか寝てるわ。
まあ、バンパイアバットは夜行性だから、そりゃあ昼間は寝てるよね。
寝込みを襲うようで気が引けるけど、さくっと倒してしまおう。
倒したは良いものの、私が攻撃しても襲いかかってこなかったのが気にかかる。
報告と違うし……何だったんだろう?
……とりあえず、指定素材を回収しておこう。
洞窟には西日が射し込んでいた。
それにしても、あのコウモリ。
まるで、誰かに命令でもされたかのように動かなかった。
……疑問は残るけど、とりあえず引き上げよう。