114 苦労人ライオス
ライオスは取り乱し、現状を把握できていない様子だ。
「ライオス卿、少し落ち着きなさい」
「し、しかし……これは……」
「ライオス卿が秘密裏に処理したかった、イカのモンスター。それを倒したのが私。そして、貴方が口止めしようとした冒険者も私。それだけの話ですよ」
何故、こんな回りくどいことをしたのか。
それは、私のもとに送られる報告書の、実際の流れを確認したかったからだ。
他にも理由はあるけど、ライオスさんを使った理由はそこだ。
「ライオス卿、いや、ライオスさん」
「さん……?」
「今回の件でお分かりだと思いますが、あなた方貴族がやろうとしていることはお見通しなのです。そして、そのしわ寄せが全て、私に来るのです!」
「し、しかし、本当の事を報告しては、我ら貴族の威信に関わります」
「民がギルドを必要としているのも、また事実です。そして、国と言うものを形成しているのは、王ではなく民なのです。民がギルドを必要とし、そして信頼しているのであれば、私達はギルドを認めるべきなのです」
「……つまり?」
「ギルドに任せた仕事は、報告書を提出する必要はありません。そして貴族は、ギルドに負けないよう信頼を得る努力をしなさい。そうすれば私の仕事も減……国も良い方向へと向かっていくことでしょう」
危ない危ない。
危うく、本音が漏れるところだったよ。
「では、私はどうすれば?」
「ライオスさん、貴方は今まで通りにしていれば良いのです。報告書の偽装さえしなければ、今まで通りにね」
「……分かりました。では、ギルドに依頼した分は、本当に重要なものだけ報告いたします」
よし、これで私の仕事が少し減る。
「それからもう一つ。私がギルドの冒険者だと言うことは、他言無用です。良いですね?」
少しだけ語気を強めて脅してみたけど、効果てきめんだね。
さて、これでやることは済んだわけだし、お土産買って帰ろうかな。
「魔王様、ひとつだけお聞かせください」
「なに?」
「何故、魔王様が冒険者を?」
「それは、国民が何を必要としているのかを知るためです。魔王たる者、国民の声をしっかりと聞かなければなりません。だから、正体を隠して冒険者稼業をしているのです」
「なるほど。あくまで国民の事を考えているとは……感服です」
ちょろい。
この世界の住人は本当にちょろいね。
平和だからなのか分からないけど、平和ボケしすぎてる気もしないでもない。
こちらとしては好都合だから、正そうとは思わないけどね。
もう戻らないと、3号からお叱りのテレフォンが来そうだ。
サクラノ王国までは、片道1日かかる。
つまり、馬を使わない限りは、どれだけ早くとも往復で2日かかる。
サクラノ王国のロウゲン王宛てに書簡を出して、まだ1日しか経っていない。
つまり、まだ色々と行動していても、問題ないということだ。
《あら、そうは問屋がおろさないわよ?》
《今回のお出かけは、私たちに任せてもらおう!》
ああ、別に構わないよ。
だって、これから行く予定の場所は、イケメン君の領土だからね。
いやー、ぶっちゃけ行きたくなかったから、二人のどちらかが行ってくれるのなら助かるよ。
《お仕事頑張ります!》
2号は? 今日は特に予定もないし、行ってくれると助かるんだけど。
《あんな女たらしの所なんか、行きたくないんだけど?》
私だって行きたくない。
《じゃあ行かなければいいじゃない》
そうもいかないんだって。
お願いだからさ、私の代わりに行ってよ。
こんなやり取りが十回ほど続いたところで、さすがに飽きた。
強情なところは、さすが私と言えるか。
仕方がない、エルーザ領へは私が行こう。
そして、要件を手早く済まそう。
そうすれば、あのイケメン君にも会わずに済むだろう。