113 港町とライオス
ギルドに報告する前に、少し寄り道。
このリルト海は、アイオロスト領内にある。
つまり、ここにはライオス男爵が居るわけだ。
実は本命は、ライオスさんに会うことだったりする。
ライオスさんとの会話は、2号や3号には任せられないからね。
このアイオロスト領は、さすが貿易領なだけあって港町だ。
市場には、見たこともない様々な民芸品や、色とりどりの食料が並べられている。
目移りしそうだけど、とりあえず目的を果たさないと。
「ライオス」
「ん? ……ま、魔王様!?」
ライオスさんは港で、輸出入品の管理を行っていた。
突然の私の来訪に、さすがに驚いてるようだ。
でも、周りで作業をしている人達は、私を見ても気にとめない。
顔が知られてないって便利だね。
「魔王様、お越しいただくのでしたら、ご一報くだされば」
「いや、こっちも野暮用でね。たまたま立ち寄っただけなんだ」
「そうでしたか。……この辺りは比較的穏やかですが、海には出ないよう注意してください」
「どうして?」
その理由は知ってるけど、あえて聞く。
その方が自然でしょ?
「あまり大きな声では言えないのですが……実は最近、港の近海を荒らす巨大なモンスターが現れまして。現状、被害は貿易船のみですが……念には念を入れて、ビーチへの立ち入りを制限しているのです」
「モンスターか。それは大変そうだね」
私は、心の中でほくそ笑んでいる。
何を隠そう先ほど倒したイカが、近海を荒らしている巨大モンスターなのだから。
そしてライオスさんは、イカを秘密裏に処理したかった。
だから、ギルドに依頼したんだね。
しかも、あえて低ランクの冒険者に、この依頼を出している。
経験の浅い冒険者なら、深く詮索をしてこないし、仮に失敗しても痛手はない。
逆に、高ランクの冒険者にこの手の依頼を出した場合、弱みを握られ報酬をつり上げられてしまう。
このおっさん、良く考えてるよ。
まあ今回は、それを逆手に取らせてもらったわけだけど。
「貿易面に支障が出るのはいただけないね。対策は?」
「……私兵による討伐を予定しています」
言葉を詰まらせてる。
そりゃあそうだ。
私兵による討伐なんて嘘なんだから。
「討伐するなら安心だね。良い報せを待ってるよ」
「はい……」
今にも笑ってしまいそうだけど、ここは我慢だ。
さて、やることは済んだし、魔王城に戻るとしよう。
今夜はイカ焼きパーティーだ。
翌日。
3号のもとに、アイオロスト領から報告書が届いた。
やっぱり、私兵により討伐したと書いてある。
そしてギルドには、あのイカを討伐した冒険者に会いたいと、手紙が届いていた。
計画通り。
私は再び、アイオロスト領を訪れた。
そして、港町の中心にある、ライオスさんの屋敷へ訪問した。
「これは魔王様。ライオス様にご用でしょうか?」
使用人のひとりが、私のところへ来た。
使用人には顔を知られてるのか。
「ライオス卿に話がある。今すぐ呼んできなさい」
「かしこまりました」
……大きな屋敷の割には、使用人が少ないような気がする。
しばらくすると、ライオスさんがやってきた。
「魔王様。度々ご足労いただかなくとも、私の方からお伺いいたしましたものを」
「二人きりで話したいことがある。と言ったら?」
ライオスさんはしばらく悩んでから、私を応接室へ案内した。
部屋に入り、椅子に腰を下ろすと、使用人が二人分の紅茶を持ってきた。
「……アルコールの方がよろしかったでしょうか?」
「いや、これで良いわ」
使用人は一礼し、部屋から退出した。
私は何も言わず、用意された紅茶に手を伸ばす。
うむ、良い葉を使ってる。
私がひとしきり紅茶を堪能していると、ライオスさんは時計を気にし始めた。
紅茶を飲み終えたところで、ライオスさんに種明かしをする
「ライオス卿、何か予定でも?」
「え、ええ、まあ……」
「……冒険者マオ。彼女と会う予定があるのでしょう?」
私の口から発せられるはずのない名前を聞き、ライオスさんはむせてしまった。
キョトンとしてるけど、私は構わず続けた。
「正体不明、自称美少女冒険者マオ。彼女はすでに、ライオス卿と会っています」
「な、何を……どうして、その名を?」
「それは……私が、自称美少女冒険者マオだからですよ、ライオス卿」
「は、はあ!?」