110 休憩
翌朝。
玉座の間でゆっくりくつろいでる私は、昨夜から気になっていることを、アナスタシアに尋ねた。
「昨日、リンちゃんと戦ったじゃない?」
「はい」
「リンちゃんはさ、兵士を引き連れてたわけよ」
「その様ですね」
「その兵士、リンちゃんは師団って呼んでたんだよね」
「それで?」
「師団って、何なの?」
時折、ゲームでも見かける師団の文字。
しかし、実は私は、師団の意味を知らなかったりする。
「師団とは、団よりも大規模な、しかし、軍よりは小規模な部隊を指します」
「なるほど。で、リンちゃんが騎士団相手に師団を引き連れてたことについて、アナスタシアはどう見る?」
「そうですね……騎士団相手なら師団で良いとの余裕か、本当は魔王様と戦いたくなかったのか」
「そんな感じじゃないんだよね」
「もしくは、師団程度しか借りる事が出来なかったのか」
借りる? 誰に?
「ロウゲン王です。魔王様が戦った師団は、サクラノ王国の兵士です。勇者の兵士ではありません」
「それで?」
「勇者は本当は、魔王様を仕留める為に軍を使いたかった。しかし、ロウゲン王から与えられたのは師団程度だった。そう考えると」
「……ロウゲン王は、エレヌスさんの話を信じてない?」
「憶測に過ぎませんが、その可能性もあるでしょう」
これは一度、ロウゲン王に会った方が良いかもしれない。
もし、エレヌスさんの言葉を信用していなければ、リンちゃんの説得にも一役買ってくれるかもしれない。
とりあえず、ロウゲン王宛てに書簡をしたためないと。 アナスタシアが。
「だろうと思いました。では、私の方からロウゲン王宛てに、書簡をしたためておきましょう」
「頼むよ」
さて、返事が来るまでは暇だね。
ただ待ってるのも。
暇を持て余した私は、コルタの工房を訪れた。
仕事に関しては、ついに完成したシャドウサーヴァントにやらせてるから問題なし。
コルタのお父さんが作ろうとしていた、伝説の武器。
それを、コルタが継いだ。
すぐには完成しないだろうけど、どれだけ進展したのか気になった。
あの見た目だし、やっぱり爪甲になるのだろうか?
色々と考え事をしながら工房の扉をノックしようとした時、誰かからテレフォンが入った。
……ユキメからかな?
《こちら3号。2号、聞こえる?》
ちなみに、2号は私で3号は仕事をしている方。
つまり私も、シャドウサーヴァントなのだよ。
《何だ、3号か。どうしたの?》
《今すぐ仕事を代わって》
《だが断る。それに、そう言うことは1号に相談しなよ》
ちなみに、1号が私達シャドウサーヴァントの本体だ。
1号も、別件で城下町に来てる。
つまり、仕事をしてるのは3号だけだ。
《マジで仕事なんかしたくないんだけど、何とかしてよ》
《だから、それは1号に頼みなって》
《それができないから2号に頼んでるの》
《あんたができないのに、私ができるわけないでしょ。こっちはこっちで用があるから、もう切るよ》
《あ、ちょっと!》
問答無用でテレフォンを切ってやった。
3号には気の毒だけど、私だって仕事はしたくないからね。
さて、気を取り直して。
私は工房の扉をノックした。
「誰?」
「コルタ、私」
「ああ、魔王ちゃんか。ちょっと待っててくれ」
工房の中から、バタバタと物音がしてる。
毎度のことだけど、少しは片付ければ良いのにと思う。
しばらくして、工房の扉が開いた。
「やあ、久しぶり。何か用?」
「近くまで来たから、顔を出しておこうと思ってね」
「そっか。まあ上がりなよ。お茶も出すからさ」
工房の中も相変わらずだ。
これで生活できてるから不思議だよ。
そして、相変わらずお茶だと言い張る紫色の液体も、相変わらずスルーする。
「コルタ、お父さんの夢を継ぐって言ってたよね。その後は順調?」
「順調と言えば順調かな。見てみるかい?」
「是非」
するとコルタは、とても良い表情を浮かべた。
「じゃあ見せてあげるから、あたしに付いて来て」
コルタはおもむろに、床に散乱したものをどかし始めた。
どかした先には、取っ手のようなものが床に取り付けられている。
コルタがそれを引き上げると、そこは地下への階段となっていた。
「狭いから気をつけな」
まさか、地下室があるとはね。
頭をぶつけないよう、体勢を低くしながらコルタの後についていった。
しばらく降りていくと、目の前に鉄製の扉が現れた。
「この先だよ」
コルタが扉を開いた。
それと同時に、溶けた鉄の臭いが、熱波と共に押し寄せてくる。
「熱い?」
「物凄く。でも、耐えられない程じゃないから、大丈夫だと思う」
「一応、耐熱用の作業着があるから、それを着ると良い」
「……コルタは?」
「あたしは、半分だけでもドワーフだからね。熱いのは慣れっこさ」
私はコルタから渡された作業着を着て、部屋の中へと入った。