表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/188

109 勇者、始動

 魔王城へ戻る頃には、辺りに夜の帳が降りていた。

 私は事の顛末を、アナスタシアに伝えた。



「魔王様の複製に、復活を果たそうとしている初代魔王様。そして、予言者エレヌスの裏切り……。この国は、どうなってしまうのでしょう? 我々は、どうすれば良いのでしょう?」



 ただでさえアナスタシアは、お兄さんとも対峙しなければならない。

 彼女にとっても、問題は山積みだ。



「分かっていることは、セラメリアを復活させてはいけないということ。これは絶対」

「……魔王様、ひとつ質問しても宜しいでしょうか?」

「なに?」

「セラメリア……初代魔王様が復活すると、何が起こるというのですか?」



 そうか、アナスタシアはセラメリアの目的を知らないのか。

 まあ私も、神域に行ったから、セラメリアの目的が分かったんだけどね。



「……アナスタシア、これから言うことは、他言無用だよ」



 外部に漏れれば、大事になりかねない。

 念には念を入れ、私は風音魔法を使い、セラメリアの目的を伝えた。



「俄には信じ難いですね」

「でも、これが事実なの」

「……我々に、何が出来るのですか?」

「まずは、セラメリアを復活させないこと。それに失敗して復活したら、直ちに仕留めること。それにも失敗したら……神様にでも祈ろうか」



 最後の言葉を聞いて、アナスタシアは呆れた表情を浮かべている。

 でも本当に、倒せなかったら、この世界は最悪の結末になる。

 それだけは阻止しないと。



「話は変わりますが、サクラノ王国の勇者様から魔王様宛てに書簡が届いています」

「リンちゃんから? ……わざわざ手紙を書くなんて、何かあったのかな?」



 受け取った書簡に目を通す。



「……アナスタシア」

「はい、何でしょう?」

「直ちに騎士団を召集、カグラとユキメにも、集まるよう声をかけて」

「何が書かれていたのですか?」



 私は何も言わず、書簡をアナスタシアに渡した。



「……これは」

「ね?」

「分かりました。直ちに、騎士団を召集します」



 エレヌスさんかロムルスの差し金か。

 まったく、厄介なことをしやがって。



 騎士団を率いた私は、東の荒野を訪れた。

 ここにリンちゃんが居るはずだけど、その姿は見当たらない。

 ……嵌められた?

 そう思った時だった。



「魔王、覚悟!」



 との声と共に、リンちゃんが斬りかかってきた。

 あんた、今までどこに潜んでたのよ?

 とっさに回避し、私はリンちゃんから距離をとった。



「久しぶり、魔王さん」

「久々の挨拶にしては、ずいぶんと過激じゃない?」

「あれで仕留められれば良かったんだけど、そう上手くはいかないか」

「……リンちゃん、どうしてこんなことを?」

「そんなの、自分の胸に聞いたら?」



 リンちゃんが指笛を鳴らすと、騎士団を取り囲むように兵士達が現れた。

 なるほど、布を被って上から砂をかけて、周囲の地形に擬態してたってことか。

 感心してる場合でもないけど。



「サクラノ王国師団、セラメリア王国騎士団へ攻撃を開始せよ!」



 騎士団の強さは折り紙付きだ、そう簡単にやられはしない。

 しかし、相手は人族の、それも大国の師団だ。

 こちらから手を出せば、それこそ国際問題に発展する。



「セラメリア王国騎士団。防御態勢をとり、決して反撃するな!」



 そう指示するしかない。

 しかし、そんな状態がいつまで続くか。



「さあ、魔王さん。私と戦いなさい」

「……一騎打ちが望みなら付き合ってあげる。でも、騎士団は関係ないでしょ」

「関係ある。魔王さんの戦力を、少しでも削るため」

「だから、どうしてそんなことをするのよ?」

「とぼけたって駄目。勇者の私には、全てお見通しなのよ!」



 リンちゃんの攻撃を受け止める。

 リンちゃんも、この数日で修行をしたのか、その一撃は重かった。

 それよりも、リンちゃんに戦いを挑まれる理由が分からない。

 手紙には果たし状と書かれていて、騎士団を率いて来るようにとしか、書かれていなかった。

 理由がない状態では戦えない。

 たとえ理由があったとしても、私はリンちゃんと戦いたくない。



「さっきから防いでばかりで、私と戦いなさい!」

「戦う理由がないし、リンちゃんが私を倒そうとしている理由にも、心当たりがないの」

「そうやってシラを切るつもり?」



 何か勘違いをしているようだけど、本当に心当たりがないんだって。



「あくまでも、とぼけるつもりなんだ。だったら私が、魔王さんの悪事をこの場で話してあげる」

「悪事……?」

「ネレディクト帝国独立からの騒動は、最初から仕組んでた事なんでしょ? 騎士団の戦力を増やすために」

「はい?」

「そのまま戦力を増やしていって、この世界を支配するつもり。そしてその後、封印されてる初代魔王を復活させるのが目的」

「ち、ちょっと待って、誰から聞いたの?」

「予言者エレヌス。彼は秘密を知ったから、魔王に消されそうになったと言ってた。実際、彼の体には、爪で引き裂かれたような傷があった」



 あのクソジジイめ!

 まさかこうなることも、すべて読んでいたというの!?



「リンちゃん、ちょっと待って。リンちゃんは、エレヌスさんに騙されてる。あいつは嘘を言ってるの。あいつの目的こそ、セラメリアを復活させることなの」

「その話、証拠でもあるの?」



 そこで私は気づいた。

 私達はつい先ほど、その証拠となるものを破壊してきたことに。

 あの研究所を見せれば、リンちゃんも納得したかもしれないけど。

 ……だからエレヌスさんは、リンちゃんに近づいたのか?

 私が攻撃したと言う、確たる証拠を持つエレヌスさん。

 それに対し、私はリンちゃんを説得するための証拠を持っていない。

 どちらを信じるか、答えは明確か。

 ……だったら。



「騎士団は撤退せよ! カグラ、転送方陣の準備を!」

「逃がさない。ここで仕留める!」





 そこは、魔王城の中だった。

 どうにか撤退できたようだ。

 ……まさか、リンちゃんが。

 いや、説得することはできるはずだ。

 リンちゃんが敵になるなんて、考えたくない。

 とにかく、今は休もう。

 色々と気にかかることはあるけど、これからどうするかは休んでから考えるとしよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ