107 失敗作
エレヌスさんは戦闘開始直後から、とんでもない魔法を展開していた。
構築スピードも、今まで戦ってきた奴らの比ではない。
今から回避して間に合うか?
「獄炎魔法、インフェルノ」
辺り一面が火の海と化す。
私はカグラの体を抱え回避したが、少し掠ってしまったようだ。
ダメージは少ないし、このくらいなら回復魔法でどうにかなる。
それにしても、インフェルノか。
私が覚えたインフェルノ、それのオリジナル版と言ったところかな?
少なくとも、エレヌスさんは失われる前の魔法を知っている。
魔法特化のようだし、魔法を構築したら警戒しないと。
「暴嵐魔法、テンペスト」
エレヌスさんが作り出した大嵐は、ゆっくりと私達に近づいている。
しかし、回避するには大きすぎる。
どうする?
「サキさん、離れてください!」
カグラは私の前に立ち、魔法を展開した。
「星海魔法、大魔法反射」
カグラの前に、巨大な鏡が出現した。
そして鏡の中から、エレヌスさんのテンペストと同じ大嵐が出現。
テンペストを相殺した。
安心したのもつかの間。
クローンがカグラに攻撃しようとしていた。
とっさにカグラの前に出て、攻撃を受け止める。
「シッパイサク、コロス」
必要最低限の教育しかしていないのか、クローンの言葉は片言だ。
しかし、剣の腕前はなかなかのものだ。
私にターゲットが向いたのは都合が良いけど、これは回避するのも一苦労だ。
……物理と魔法。
魔法が物理をサポートするのではなく、物理が魔法をサポートするタイプか。
魔法は脆い代わりに、一撃必殺級の威力を叩き出せる。
だから、こういうスタイルってわけね。
つまり、エレヌスさんは物理に対して脆い。
どうにか懐に潜り込めれば、こちらにも勝機はある。
そのためには、カグラの協力が不可欠になってくる。
「カグラ」
「は、はい?」
「背中は預けたよ」
「……はい、任せてください!」
私はクローンに向かって走った。
それと同時に、カグラが魔法の構築を開始する。
私の動きを見て走り出すクローンに対し、エレヌスさんはこちらの様子を見ているようだ。
余裕……ではなく、こちらを観察しているようだ。
何だか、嫌な感じだ。
「シッパイサク、コロス」
クローンの攻撃を躱し、ダメージを与えて様子を見る。
こいつも何故か見破れないけど……攻撃した感じでは、そこまで強いというわけでもなさそうだ。
ただ、攻撃力は高いようで、私の守備力が突破されてる。
面倒だけど、回避主体で戦うしかないか。
「サキ、失敗作よ。お前はどの様にして、魔王のスキルを得た?」
「さあ? この世界に転生した時から、魔王のスキルを持ってたからね。どうやって獲得したのかなんて、分からないよ。それから、失敗作って呼ぶの、やめてくれない?」
「儂から見れば、お前は失敗作以外の何者でもない」
私はクローンの体を引き裂き、エレヌスさんとの距離を一気に詰めた。
「色々と話してもらうよ?」
私は爪を振り下ろすも、それはエレヌスさんの杖によって、軽々と受け止められてしまった。
力を込めるがビクともしない。
この爺さんのどこに、こんな力が?
「……良いだろう、話してやる」
エレヌスさんは私の手を弾き、杖の先端で私の体を突いた。
強い衝撃と共に、私の体は後方へ吹き飛ばされる。
……この爺さん、強すぎだろ。
「お前も、そしてこいつも、セラメリアの細胞から作り出したクローンじゃ。その理由は、セラメリアをこの世に復活させるため。お前達は、セラメリアが復活するための器に過ぎん」
「……やっぱり、そんなことだろうと思ったよ」
「そのクローン計画の第一号こそ、お前なのじゃサキよ。しかし、お前はとんだ失敗作だった」
エレヌスさんは、杖に魔力を集め始めた。
「セラメリアの器は、魔王のスキルを所持していなければならん。セラメリアが完全復活を遂げるには、スキルに封印された魔王の力が必要不可欠」
「でも私は、魔王のスキルを得なかった。だから禊ぎの泉の近くに、私を破棄したんでしょ?」
「その通り」
その、まだ人の形を形成していない体を、システムが拾ったってことか。
破棄された肉体なら、誰にも迷惑が掛からないと考えて。
そして、私の要望通りに、未熟な体を生成していった。
肉体年齢まで引き上げていたのは、生きる可能性を高めるため。
いくら記憶を持って転生しても、赤ちゃんの状態では何もできないからね。
「問題は、お前が魔王のスキルを得た事じゃ。おかげで、儂の計画に狂いが生じてしまったが……ここでお前を破棄すれば、軌道修正は十分可能じゃ」
「私が死んだら、魔王のスキルはどうするつもり? 今まで通り、新たな命に宿るだけじゃない?」
「そこは問題ない。スキルを確保する方法が存在するからな。……もっとも、その方法を見つけたのはアナスタシオスじゃが」
アナスタシオスは魔王のスキルを欲していたと、アナスタシアから聞いていた。
その方法も調べ上げたんだろう。
「さて、お喋りはこのくらいにしておこう」
エレヌスさんは、魔力がこもった杖を掲げた。
「再生魔法、リザレクション」
倒れているクローンの体に、光の粒が降り注ぐ。
血は止まり、傷は完全に塞がった。
そして目を覚ますと、剣を携え立ちはだかった。
「さあ、失敗作を破棄せよ」
「シッパイサク、コロス」
なるほど、倒れたところで何度でも復活させると。
だったら、エレヌスさんを叩くしかない。
私達が話している間に、カグラも準備が整った。
このふざけた計画、何としてでも食い止めてやる。