104 グラント&カーク
二体は激しい雄叫びを上げ、私目掛けて突進してきた。
それを上空へ回避しつつ魔法を展開。
振り向きざまに二体目掛けて魔法を放つ。
カークはいとも容易く回避し、グラントは自慢の甲羅で防いだ。
空中へ逃げた私に対し、二体はすかさず距離をとる。
……さすがに強くなってるね。
グラントは魔術の詠唱を始め、カークは私に向かって高くジャンプした。
どちらがヤバいか、魔術に決まってる。
カークの軌道も、避けるまでもなさそうだ。
私は魔術を優先して避けようとした。
「ぐえっ!?」
思わず、情けない声が漏れる。
何が起こったのか。
カークは何とも器用なことに、私の襟をくわえたのだ。
そして私をくわえたまま着地すると、グラントの方向へと投げ飛ばした。
待っていたと言わんばかりに、グラントが魔術を発動させる。
「地動魔術、アースクエイク」
隆起した大地が、私の体を跳ね上げる。
空中ではカークが既に先回りをしていて、身動きが取れない私を鋭利な爪で切り裂いた。
その衝撃で、私の体は地面に叩きつけられる。
ダメージが大きい。
何とか体勢を立て直そうとしているところへ、何かが影を落としていた。
上空を見上げると、そこには巨大な輝岩。
嘘でしょ!
「重撃、ヘビープレス」
あろうことかグラントは、その巨体を活かしてボディプレスをしようとしていた。
ギリギリ、本当にギリギリのところで、どうにか回避した。
ここまで強くなってるなんて、迂闊だった。
と、後悔したって仕方がない。
こちらも全力で迎え撃つ、それだけだ。
私は魔法をグラントに放ち、その場で動きを止めた。
さらに間髪入れずに魔法を撃ち込む。
ダメージはそこまでではないが、グラントを張り付けることに成功した。
そこへ、私の邪魔をしようとカークが前に出る。
狙い通りだ。
私はさらに魔法を展開させたが、発動はさせずにカークを迎え撃った。
まずは噛みつきを躱し、鼻先を殴ってやる。
当然怯むも、カークはダメージを意に介さず噛みつこうとしている。
それらを回避したところで、グラントが魔術を詠唱しているのが見えた。
すかさず魔法を発動させ、グラントの魔術を妨害する。
……よし、グラントの動きが止まった。
しかし、カークから気を逸らしてしまったがために、背後に迫る爪攻撃に反応が遅れてしまった。
これはまずい、そう思った瞬間だった。
どこからか火の玉が飛来し、カークの顔面に直撃。
よろめいたカークへ、さらに魔法が浴びせられる。
「こんな状況なのに、放っておけるはずが無いじゃないですか!」
声の主はカグラだった。
カグラは私に歩み寄りながら、グラントとカークに魔法を放っていく。
「確かに私は、サキさんも転移者なのではと思っていました。私と同じなのではないかと思っていました」
放つ魔法が、初級から中級になっていった。
「サキさんにも、帰る肉体があるものと思っていた。しかし、実際にはそうではなかった」
噛みつこうとするカークには魔法、魔術を詠唱しようとするグラントには魔術を放っていく。
「ですが!」
カグラは私達を取り囲むように、上級魔法を展開する。
「私達が友達だということに、変わりはありません!」
カグラは魔法を発動させた。
灼熱の円壁が、私達を取り囲む。
「サキさんが転移者であろうと、転生者であろうと、これまで培ってきた友情は変わりません! だから!」
カグラは、ひとつふたつ、涙を流していた。
「だから……一人で解決しようとしないでください。一人で、何もかも背負おうとしないでください」
「カグラ……」
確かに、少し自暴自棄になっていたかもしれない。
少し、焦りすぎていたのかもしれない。
まったく、私らしくなかった。
……カグラの言葉に、目が覚めた気分だ。
「カグラ、ごめん。カグラのおかげで、冷静になれたよ」
私は、カグラの涙を拭き取った。
「カグラ、力を貸して。一緒に、あいつらを倒そう」
「……はい、サキさん!」