101 GOD
〔コードGODへの接続率…10%。効率化の為、World Clockを停止〕
〔個体名:沙絹の記憶メモリより、個体名:……のデータを再生〕
「沙絹、起きなさい」
私を呼ぶ、とても懐かしい声に目を覚ます。
ベッドから体を起こすと、その女性は優しく微笑みかけていた。
疑問……そんなもの、浮かぶはずがない。
その人は間違いなく、私の目の前に居るのだから。
「ぐっすりと眠って、本当に疲れていたのね。魔王様のお仕事は大変?」
「仕事をためなければ、それほど大変じゃない」
「沙絹は昔から物臭だったものね。あまりサボってばかりいると、後で泣きを見るのは自分なのよ?」
「分かってる」
その人は、くすりと笑みを浮かべた。
「心配していたけど、元気そうで何よりだわ。ほら、あの人にも元気な姿を見せてあげて」
私は、その人が指差す方向に視線を向けた。
そこには、とても懐かしい男性が、椅子に座って本を読んでいた。
その人のもとへ歩み寄る。
私に気づいたその人は、本を閉じ、眼鏡を本の上に置いた。
「沙絹、大きくなったな」
「……この体は、私のものではないけど」
「大丈夫。私達には、お前の懐かしい姿が映っているよ」
私は、その人の隣に座った。
すると女性は、私の前の椅子に腰をかけた。
あの日以来、この時をどれほど望んだか。
いつの間にか、涙が溢れ出していた。
「本当は、もっと色んなことを話したかった。でも……その時間はないみたい」
「私は大丈夫。だから、安心して?」
「会いに来てくれて、ありがとう」
そして、ごめんなさい。
お父さん。
お母さん。
〔コードGODへの接続率、100%〕
〔接続完了〕
〔魔王:サキの精神を転送します〕
《メインシステム、再起動。f−1010をフォーマット》
澄んだ青空、緩やかに流れる雲。
そして足下には、空を映し出すほど澄み渡った水原が、どこまでも続いていた。
それ以外には、何もない。
まるで、自分が宙に浮いているような、そんな感覚に陥る。
ここは、いったい?
「まったく、無茶な事を」
私の目の前に、突如として現れたそれは、神様だった。
そう、神様。
目の前に居る存在は、紛れもなく神様だ。
理屈なんかじゃない。
私の直感が、細胞が、脳が、思考が、私を形作り私を司る全てが、目の前の存在が神様であると訴えている。
「ワシが誰だか、理解しているな?」
「……神様?」
「その通り」
神様を前にしているのに、私は不思議なほど冷静だった。
冷静に、目の前の事態を理解している。
「疑問は尽きないだろうが、まずはお前のパートナーを助けないとな」
私の胸元に光の穴が開き、神様はその中に手を入れた。
突然のことに驚く間もなく、神様は小さな光を取り出した。
……間違いない、これは妖精さんだ。
「……ボロボロじゃないか。今、治してやる」
神様が光に手をかざす。
するとその光は、先ほどの少女へと姿を変えた。
「コードGODよりf−1010の記憶データ及びサポート媒体の修復」
「これで大丈夫だな。さて、f−1010よ。何故、こんな無茶な真似をした?」
神様は全てを見通している。
それは、私の直感が告げているから間違いない。
当然、妖精さんが何故、このようなことをしたのかも知っている。
だからこそ神様は、妖精さんの口から聞きたいのだろう。
「……魔王:サキを守るため。そして、あの世界を終わらせるためです」
「やはり、お前には自我が芽生えていたか。ではサキに、彼女の両親を見せた理由は?」
「コードGODへの接続には、権限LV10が必要です。しかし、魔王:サキには時間が無かった。メインシステムへのハッキングしか、道が無かったのです。しかし、その様な事をすれば、私は削除されてしまう。私は魔王:サキに、二度と会えなくなってしまう。だからその前に、過去のデータベースに保存されている、彼女の両親の姿を見せたかった。それが、彼女が最も望んでいた事だから」
妖精さん……。
神様は、ひとつ溜め息をついた。
「f−000はどうする? また、お前を削除しようとするぞ?」
「私が消えるのは構いません。魔王:サキが、全てを終わらせてくれるのなら」
「サキ、お前はそれで良いのか?」
……良いはずがない。
何がなんだか分からないけど、妖精さんが消えて良いはずがない。
転生してから、約一カ月。
私はずっと、妖精さんに助けられてた。
妖精さんが居なければ、私はこの世界で生きていけなかった。
私は、妖精さんを信用してる。
だから、消えて良いはずがない。