97 悪女
ロムルスは、本当に素直な男だった。
私の質問に、これほど正直に答えてしまったのだから。
さて、大まかなことは分かったし、こいつを捕らえて各国の王達に報告しないと。
「そうはさせねえぜ、沙絹姉ちゃん」
この声は……。
振り返ると、そこにはサーペントが手を大きく振りかぶっていた。
振り下ろされた攻撃をギリギリで回避した私は、サーペントから距離をとる。
「やっぱり、あの時より強くなってるな」
「礼司、お前……!」
私は自分の内に芽生えている感情に駆られ、サーペントに切りかかっていた。
当然のことながら、私の攻撃はサーペントに受け止められた。
「やるじゃねえか」
「礼司、あんたの目的は何なの? セラメリアの復活?」
「答えるわけ無えだろ?」
「セラメリアを復活させて、あんたに何の得が?」
「淡々と質問して、相手の表情や動作から答えを引き出す。相変わらずの悪女だな沙絹姉ちゃん」
「あんたはセラメリアの」
そこまで言ったところで、私は重い蹴りをくらってしまった。
「いい加減にしろよ。その手には乗らねえぜ?」
口の中に血の味が充満する。
吐血したようだけど、それは些細なことだ。
もう少し引き出さなければ。
「あんたは本当のことを言われると、口より先に手が出るタイプ。昔と何も変わってない」
「だったら何だって言うんだよ?」
「あんたの目的に確証がもてた。あんたはセラメリアの力を」
「それ以上何か言ったら、殺すぞ」
よし、引き出せた。
あとは、こいつが帰ってくれれば。
「サーペントよ、魔王の事は良い。まずは私を助けろ」
ナイスタイミングだロムルス。
サーペントは舌打ちをすると、ロムルスの体を抱え上げた。
「……沙絹姉ちゃん、お前を殺せねえのが本当にイラつくぜ」
サーペントは転送方陣を発動させ、その中にロムルスを放り込んだ。
そしてサーペントも転送方陣に入り、その姿を消した。
やれやれ、危ないところだった。
サーペントが大人しく退散してくれて、助かったよ。
さて、戦後処理に各国王への報告と、やらなければならないことが山積みだ。
カグラにも戻ってもらって、それから行動不能になってるネレディクト軍の確保。
ネズミ取りにかかった奴らも調べなきゃならないし……。
これだけで私は死ねると思うよ?
……しばらく失踪しようかな?
ネレディクト帝国、王城。
ロムルスを医療班に任せたサーペントは、訓練室へと向かった。
そこでサーペントは、訓練用の木人形を手当たり次第に切り刻んでいた。
決して収まることのない怒りを、木人形にぶつけていた。
「随分と荒れているな、サーペントよ」
話しかけてきたのは、アナスタシオスだった。
サーペントはアナスタシオスを睨みつけるが、アナスタシオスは意に介していないようだ。
「少し予定と違ったが、無事に第一段階は終了だ」
「お前は、どっちが勝つと思ってたんだ?」
「言っただろう、少し予定と違うとな。それに、どちらが勝ったところで、何も変わりはしない」
サーペントは木人形を刺し貫いた。
「……お前も、この国も、それからロムルスの野郎も、オレをイラつかせやがって」
サーペントは、貫いた木人形を壁に叩きつけた。
「それより、Fエネルギーの方は順調なんだろうな?」
「問題はない、全ては順調だ。しかし……私はあんな物に頼りたくない。あれは、人が扱って良い物ではない」
「今更何言ってんだ。もう後戻りは出来ないんだぜ?」
「……分かっている。全てはセラメリア復活のためだ」
サーペントはひとつ舌打ちをして、訓練室から出て行った。
それを見たアナスタシオスは、小さな溜め息をつく。
「魔王がロムルスを殺さなかったのは、むしろ幸運だったか。Fエネルギーも重要だが、それ以上に、王達も重要な役割を担っている。だからこそ、この事をサーペントに悟られるわけには」
アナスタシオスは訓練室を見渡した。
サーペントの爪撃を受けた木人形は消え失せ、紫色の水溜まりだけが残っている。
「……魔王に固執しすぎて暴走するなよ?」
ロムルスは踵を返し、訓練室から立ち去った。