96 魔王VS魔帝5
やれやれ、絶望を演じるのも大変だね。
実は私は、考えてることが顔に出るタイプらしい。
魔王城のみんなは、私の考えを読み取って会話をしてくれている。
だから私は、心の底から絶望した。
そう、あれは全て演技だ。
あのまま戦っていたら、本当に集中力が切れてたからね。
そして、MP切れは半分嘘。
こいつはずっと、私の爪を警戒していた。
私が、爪による攻撃を警戒させた。
しかしそれ以上に、私の魔法を警戒していた。
私の魔力はこいつの魔法耐性を突破できるし、固定ダメージの魔術も存在するからだ。
そして、爪による攻撃を警戒されていると分かれば、魔法に頼るしかなくなると、こいつに思わせた。
さらに、MPと集中力が切れたふりをすれば、こいつは間違いなく調子に乗る。
そうなってしまえばこちらのもの。
私のMPは、ほぼ尽きていた。
こいつを確実に倒せる、強力な魔法を放てるだけのMPは、残っていなかった。
しかし、魔神爪サイカは別だ。
残りのMPを全て注ぎ込めば、こいつを倒すことは十二分に可能だった。
たとえ話をすると、消費MP三千でロムルスに一万のダメージを与える魔法と、MP三千を注ぎ込んでロムルスに三万のダメージを与える魔神爪サイカ。
どちらを使うかなんて、分かりきっていることだ。
ロムルスは最上級魔法を使えなくなった私を見て、心に余裕ができた。
余裕ができれば、隙も生まれる。
ロムルスは魔法を警戒していたからこそ、その脅威が去ったことで隙ができた。
魔法が撃てなくなれば、魔神爪サイカに注ぎ込むMPも無いと錯覚するからだ。
爪と魔法、その両方の脅威が去った。
だから、私に近付いてしまった。
あのまま魔法で仕留めていれば、私に恐怖と絶望を与えようとしなければ、私の爪を最後まで警戒していれば、こんな結果にはならなかっただろう。
〔魔王:サキは魔帝:ロムルスを倒しました〕
〔経験値を獲得しました〕
〔魔王:サキはLV45からLV70に上がりました〕
〔各種ステータスが上昇しました〕
〔生成魔法:シャドウサーヴァントの魔力構築難度が低下しました〕
うむ、LV100オーバーを倒すと、経験値量も違うね。
私はロムルスが落下した場所へと降り立った。
ロムルスはまだ生きている。
とは言え、もう虫の息だけど。
私は、ロムルスに回復魔法をかけた。
残りのMPはほぼ無いから、あまり回復させることはできないけど、それでもいくらかマシだろう。
「魔王よ、何の真似だ?」
私は、こいつを殺すつもりはない。
こいつからは、聞き出さなければならないことが、山ほどあるからだ。
それに、この戦いでは誰も死なせないって言ったからね。
自分で言ったことは貫きたい。
「こんな事をして、いったい何になる? 私はまた、お前を殺そうとするぞ?」
「そんなこと言って、体が動くほど回復したわけでもないでしょ? あんたには、聞きたいことが山ほどある。いま死なれても困るのよ」
「私がそう易々と、口を開くとでも思っているのか?」
私はロムルスの言葉を無視して質問をした。
「まずはFエネルギー。このFってのは恐怖(Fear)の頭文字。あんたはずっと、人々の感情エネルギーのひとつである恐怖を吸収していた。その目的は?」
「……どうやってその事を調べたのかは知らんが、目的など」
「ひょっとして、セラメリア復活のエネルギーにしようと?」
「……そこまで分かっていて、何を知ろうとしている?」
私は構わず続けた。
「復活させる理由は、セラメリアによる支配か。もしくは、セラメリアを殺すためか。どちらにせよ、セラメリアを復活させるつもりなんでしょ?」
「私は答えんぞ?」
「別に構わない。あんたが素直だってことが分かったから。私の質問に、ちゃんと答えてくれたから」