95 魔王VS魔帝4
どうして私は、ロムルスを倒そうとしているんだろう?
どうして私は、ロムルスと戦わなければならないんだろう?
そんな考えが浮かんだのは、ゾーンを維持するための、集中力が切れた辺りからか。
さすがに、長時間持続できるものでもなかったか。
いや、最初から分かっていたことじゃないか。
集中力が長続きしないことも、揺さぶりをかけたロムルスが立て直すことも、集中力が切れた私には為す術がないことも。
……そして、ロムルスを倒す理由がないことも。
最初から、分かっていたことだ。
確かに、ロムルスはセラメリアの血を引いている。
魔帝のスキルを得てテルメピストを攻め落とし、ジュエリスやドルフノルスを侵略しようとしていたことも事実ではある。
そして、ジュエリスとドルフノルスから救援要請を受けていたことも事実だ。
しかしロムルスは、騎士団以上の兵力を有していたにも関わらず、セラメリア王国へ攻め込もうとはしなかった。
だから私は、ネレディクト帝国との国境付近に、騎士団を展開させた。
ネレディクト帝国を挑発した。
そうすれば、ネレディクト帝国はこちらへ進軍せざるを得なくなる。
そう仕向けた。
そしてネレディクト帝国は、私の挑発に乗ってくれた。
……戦争の口実。
私は、刺激を求めていた。
血を求めていた。
善人面しておきながら。
彼らに正義をすり込み。
そして、戦わせた。
殺せなかったのは、そして殺させなかったのは、私の良心が働いたのだろう。
……それこそ偽善じゃないか。
彼らも我々も、国と国民のために戦っていたはずだ。
それを私は、盤上の駒を動かすように。
結局は彼らのことを、道具としか考えていなかった。
こんな考えに陥っているのも、何もかもセラメリアのせいだ。
私には恐らく、セラメリアの血が流れている。
だから残酷にだってなれる。
だから人を、道具として扱える。
だから。
だから……。
だから…………。
……馬鹿馬鹿しい。
セラメリアの血が流れていようと、私は私じゃないか。
私が考え、私が決めた、私の意思じゃないか。
誰かのせいに……それもセラメリアのせいにするなんて。
私は、最低だ。
ロムルスは、動けなくなった私の首を鷲掴みにしている。
かろうじて呼吸はできるものの、血管は圧迫され、脳に上手く血液が回らない。
こいつは、あえてそうしている。
すぐには殺さない、と言ったところか。
私にはもう、こいつを倒せるだけの力は残っていない。
おまじないに注ぎ込んでいた魔力を、私は忘れていた。
MPが枯渇していたことを忘れ……。
だからもう、私は……。
「魔王よ、何か言い残すことはあるか?」
ロムルスは手を離した。
言い残すこと?
そんなの決まってる。
「……私はどうなっても良い。殺されたって構わない。ただ、騎士団とあんたの部下を、絶対に殺さないと約束してほしい」
ロムルスは高笑いをした。
「その様な望み、私が聞くとでも思っているのか?」
「お願い……お願いします。誰も殺さないと、約束してください」
私は深々と頭を下げた。
「……良いだろう、お前の部下と帝国軍を殺さぬと約束しよう」
ロムルスは私の周囲に、最上級魔法を展開させた。
一瞬にして消し去るつもりのようだ。
「そうだ、ひとつだけ言っておこう」
「……?」
「死人に口無しだ。お前を殺した後に部下共を殺しても、お前は何も言えぬ。死人に口無しだからな」
ロムルスは私の絶望した表情を見て、不適な笑みを浮かべた。
「安心しろ。お前は痛みを感じる間もなく殺してやる。そして部下共には、永遠の苦痛と恐怖を与えてやろう」
「そんな……話が違うじゃないか!」
「良いぞ、その表情。もっと絶望しろ。そして」
ロムルスは私の首を鷲掴みにし、強く握った。
首の骨が、折られてしまいそうだ。
「私に対して恐怖しろ。そして、Fエネルギーを捧げるのだ!」
ぎりぎりと首を締め付ける。
呼吸困難。 それは、人が簡単に、死の恐怖を抱く方法だ。
苦しい、苦しい。
誰か……誰か助けて。
なんて言うとでも思ったのか?
首を締め付ける腕を、私は切り落とした。
「なに?」
ロムルスは面食らっているが、そこは魔帝。
展開していた魔法を発動させた。
ゲーム脳、ゾーン発動。
私に迫り来る魔法を回避し、もう一本の腕も切り落とした。
苦痛に顔を歪めているロムルスの体を、私は切り刻んだ。
なんとか体勢を立て直そうとしてるけど、そんな余裕は与えない。
「魔力充填。魔神爪サイカオリジナル技。爪撃、刻死舞爪!」
神速の十三連撃。
雄叫びを上げながら、ロムルスは地面へ墜ちていった。
ああ、やっとだ。
私は、勝ったんだ。