魔王様のお宝サーチ能力は高すぎた 後編
今までは通路しか無かった。
転送部屋以外に、部屋など無かった。
宝箱も全て、通路の突き当たりに置かれていた。
だから、このダンジョンに来てから、部屋に入ったことは無かった。
そこは部屋だった。
それも、とてつもなく広い部屋だ。
先が見えないほどではないが、それでも、部屋と呼ぶには広すぎる。
何故、こんなに広い部屋があるのか? そんなの、簡単に想像がつく。
山のように大きな亀が、こちらを睨んでいるのだから。
〔LV:75〕
〔名前:グラント〕
〔種族:輝岩大亀〕
〔HP:15000〕
〔MP:5000〕
〔SP:8000〕
〔攻撃力:1900〕
〔守備力:2000〕
〔魔力:1500〕
〔魔法耐性:1800〕
〔素早さ:450〕
〔輝岩大亀:別名、試練の魔物と呼ばれる大亀。試練の遺跡、大広間に生息し、侵入者を迎え撃つ。輝岩の付着した甲羅は高い守備力を誇る。また、非常に好戦的かつ凶暴な性格をしており、輝岩大亀の輝岩の採取は困難を極める為、高額で取り引きされている〕
いや、種族の解説は良いんだけど。
HPだけ桁が違うんだけど。
なにさ、HP1万超えって。
試練の遺跡の奥が、エルステルン山脈最奥部だったから、あの狼の方が強いはずなのに、この亀の方が強そうに見える。
いや、狼は鑑定に抵抗したから、正確なステータスが分からなかった。
もしかしたら狼も、この亀のようにステータス1万超えてたかもしれないけど。
これはもう、戦闘に入ってるよね?
戦闘に入ったら逃げられないんだよねチクショウ。
やるしかない。
幸いにも、私には魔王のブーツがある。
先手必勝だ。
まずは、相手の弱点を考察してみる。
間違いなく甲羅は無理だ。
前脚にも、甲羅と同様に輝岩とやらが付着している。
後ろ脚も同様だろう。
残るは、頭と尻尾。
頭は輝岩の付着は少ないが、攻撃しても噛みつかれそう。
尻尾は確認できないが、輝岩が付着していても亀にとって死角となるはずだし、優先的に狙うのは尻尾か。
確かに山のような巨体だが、素早さは450しかない。
スピードで攪乱できれば、背後は簡単にとれるだろう。
巨体とステータスには驚かされたが、冷静に分析できれば勝てなくはないはず。
私は亀の背後に回り込むため、行動をおこそうとした。
〔輝岩大亀:グラントは、先制技:前後矛盾を発動させました。魔王のブーツの効果が逆転し、魔王:サキ(仮)は輝岩大亀:グラントが行動するまで動けません〕
ホワイ!?
え? え? いやいやいや、待て待て待て待て!
魔王のブーツが効かないどころか、効果を逆転させただと!?
おおお落ち着け!
落ち着いて素数を数える時間はありませんかチクショウ!
〔輝岩大亀:グラントは、補助技:電光石火を発動させました〕
〔一定時間、輝岩大亀:グラントの素早さが大幅に上昇します〕
や、やっと動ける。
素早さが上昇と言っても、私の素早さには届かないでしょ。
連続で補助技を使ってくれたおかげで、私も冷静さを取り戻すこともできた。
私をビビらせた罪は重いぞ亀よ。
私は全速力で亀をすり抜け、背後に回った。
よし、尻尾に輝岩は付着してない。 弱点は尻尾のようだ。
私は尻尾を、思いっきりぶん殴ってやった。
亀は叫び声を上げると、素早く振り向いた。
ダメージはあったはずだが、高いHPを削りきることはできなかったようだ。
でも、それは分かっていたことだ。
問題は振り向く速度と、その後の対処だった。
まるで滑るように体を反転させ、弱点の尻尾に追撃をさせないよう立ち回っている。
一筋縄ではいかない。
それどころか、尻尾への攻撃を警戒されたようで、亀は壁際まで後退してしまった。
これでは尻尾へ攻撃ができないが、それなら別の場所を攻撃すれば良い。
後ろが駄目なら前しかない。
私は一直線に、亀の頭目掛けて走った。
この時、私は知らなかった。
ステータスの素早さとは、反応速度も含んでいるということを。
亀の素早さは、大幅に上昇している。
つまり、亀の反応速度も大幅に上昇していたのだ。
〔輝岩大亀:グラントは、補助技:不撓不屈を発動させました〕
〔輝岩大亀:グラントは戦闘時に一度だけ、あらゆる攻撃を無効化します〕
その“声”が言い終わる前に、私は亀をぶん殴っていた。
「いった〜!」
今度は私が悲鳴を上げる。
殴った手が痛い。
岩でも殴ったかのように痛い。
ジンジンと痛む手をさすりながら、私はなるべく迅速に、亀との距離を離す。
何気に、転生してから初めて、痛みを感じている。 その痛みが、半ば自業自得なのが悲しいが。
しかし、さっきの不撓不屈とか言う技は、なかなか厄介だった。
戦闘時に一度だけってのが、唯一の救いか。
乱発されたら勝てないし、それこそチートだからね。
それにしてもこいつ、さっきから格好良い四字熟語の技ばかり使いやがって。
もしかしたら、こいつも中二病なんじゃないか?
だとしたら気が合うが、だからと言って手心を加えるつもりもない。
次で終わりにしてやる。
私はもう一度、亀に向かって走る。
反撃されようがなんだろうが構わない。
〔輝岩大亀:グラントは、補助技:堅忍不抜を発動させました〕
〔どんな攻撃を受けても、HP1で踏みとどまります〕
今度は“声”を聞き逃さない。
亀の目の前まで来たところで横に回り、亀の顔をぶん殴る。
亀がよろめくが、倒れる様子はない。
分かってる。
こいつは今、堅忍不抜と言う技で、私の攻撃に耐えている。
亀は体制を立て直し、そのままの流れで私に噛みつこうとした。
大きく開かれた口を、私はアッパーをかまして無理やり閉じさせる。
地を鳴らしながら、その巨体が沈む。
もう、亀は動かない。
厄介なことこの上ない亀だったが、あんたの格好良い四字熟語の技は忘れない。
だからあんたに、この言葉を送るわ。
「闇の炎に抱かれて消えなさい」
炎も闇も使えないけどね。
〔魔王:サキ(仮)は輝岩大亀:グラントを倒しました〕
〔経験値を獲得しました〕
〔魔王:サキ(仮)はLV16からLV20に上がりました〕
〔各種ステータスが上昇しました〕
おお、一気に20まで上がった!
確かに手強い亀だったし、経験値は美味しかったんだろう。
でも、HP1万超えを2、3発殴っただけで倒せるなんて。
私のステータスから、殴っただけでそんなダメージが出るとも思えないけど、もしかしたらクリティカルでも出てたのかもしれない。
さてさて、輝岩を剥がす作業はとても大変だった。
何気に堅いし量もあるから、ひたすら無心で回収した。
輝岩の回収も終え、先へ進もうと思ったのだが、何やら部屋の中心が光ってる。
戦ってる時には無かったはずだが?
そう思い部屋の中心に行ってみると、試練の遺跡に来た時と同じ魔法陣が現れていた。
念のため鑑定してみたが、やっぱり転送装置だった。
これはあれですね、中ボスを倒した時に現れる、ショートカット的なあれですね。
と言う事は、これに乗れば脱出できるんじゃね?
回収してない宝箱がまだまだある気がするけど、このダンジョンにはまた後で来れば良い。
今は脱出が最優先だ。
私は転送装置に飛び乗った。