89 ドランVSユノ
私がマリアさんの戦いぶりにうつつを抜かしているなか、ドラン公爵とユノの空中戦は激化していた。
ドラゴンならではの戦いと言うのだろうか。
ブレスを吐いたり高度な魔法の撃ち合いをしたりと、やっぱり迫力は段違いだわ。
まあ、明らかにユノが劣勢なわけだけど。
「何なんだよ! 何で伝説の白竜が、魔王の部下になってるんだよ!」
「私は竜だ。どこで何をしようと、誰もその事を咎める権利は無い」
「だったら、ボクがどこで何をしようと勝手じゃないか!」
「気に食わん小童がいたから、少しお仕置きをしてやろうと思ったまでだ。それも私の意志であり、それは誰にも止められん。もちろん、小童にもな」
「クソッ!」
ユノは逃げながら、ドラン公爵にブレスや魔法を当てているが、それらを意に介さずドラン公爵は追いかけていく。
逃げるユノに追うドラン。
これは、早々に決着がつきそうだ。
「どうした小童、その程度か」
「なんで……なんでボクの魔法が効かないんだよ!」
ユノは振り返りざまに、炎のブレスを吐き出した。
それに対し、ドラン公爵も炎のブレスを吐き、相殺。
……いや、ドラン公爵のブレスの方が強い。
ユノの炎のブレスを、どんどん押し返していく。
「ふざけるなよ!」
ユノは寸前のところで炎を回避、ドラン公爵から距離をとった。
ユノは間違いなく炎属性だろうけど、それでも、ドラン公爵の炎は食らったらヤバいのか。
炎のブレスにだけは当たらないよう、立ち回っているように見える。
「追いかけるのも飽きてきたな。次で終わりにするとしよう」
「ボクを……ボクを舐めるな!」
ユノが両手を掲げると、ドラン公爵を包み込むように、炎の球体が出現した。
「燃え尽きろ! 炎竜魔法、コロナ!」
それは、まるで小さな太陽だった。
その強烈な熱波は、地上にまで降り注いでいる。
地上でこれだけの熱だ、中心に居るドラン公爵は……。
「見たか! ボクの力を!」
ユノは高笑いをしながら、コロナの出力を上昇させた。
これ、ヤバい。
この熱はヤバい。
ドラン公爵も心配だけど、この熱で兵がやられないかも心配だ。
「このコロナを、地上に叩き落としてやる! ちょうど、目障りな奴がいるからな!」
おいおい、そんなことをしたら!
「消え去れ!」
「やれやれ、やはり小童か」
ドラン公爵を包んでいた炎の球体は、一瞬にして氷の球体へと変化した。
「白竜魔法、アブソリュート・ゼロ」
氷の球体は砕け散り、その中から無傷のドラン公爵が現れた。
ドラン公爵、あんたまさか、あの炎を一瞬にして凍りつかせたのか?
「ボクのコロナが、いとも容易く……」
「さあ小童よ、覚悟は良いな?」
「ひっ!」
恐怖におののいたユノは、ありったけの魔法を展開。
それに加えて炎のブレスを、ドラン公爵に向けて放った。
迫り来る魔法とブレスを目の当たりにし、ひとつ溜め息をついたドラン公爵は、大きく口を開いた。
ドラン公爵の口の中に、光が集まっていく。
そして光が溜まりきり、そこから放たれたのは、巨大な白いブレスだった。
白いブレスは、ユノの魔法とブレスを消し去り、そしてユノを飲み込んだ。
ブレスが収まると、人の姿に戻ったユノが、真っ逆様に落下していた。
ドラン公爵はユノの体を受け止めると、そのままゆっくりと地上へ降り立った。
そして、ユノを地面に横たえると、ドラン公爵も人の姿に戻った。
「竜種は長命。この程度では死にますまい」
確かに、全身焦げ痕だらけだけど、死んではいないようだ。
と言うかその前に、ドラン公爵はいったい何者なのよ?
いや、ドラゴンだってことは分かったけどさ。
「私の事など、何も面白いものではありません。それよりも魔王様、この戦はどうにも臭います。あまり深入りされぬ方が宜しいかと」
「それは私も気になってたことだけど……。わかった。一応、気にとめておくよ」
ドラン公爵は深く一礼すると、見たこともない転送魔法陣を展開し、去っていった。
うむ、謎だ。
ドラン公爵については、今は考えないようにしよう。
と言うか、モンスター率高くね?
目立った奴らがほぼモンスターなんだけど。
……旧ロムルスは小国だ。
ネレディクト帝国へと名を改めたところで、国民が増えるわけではない。
それなのに、騎士団以上の兵力を有していた。 どこから兵力を補充したのか、疑問ではあったけど。
ネレディクト軍は、大半がモンスターで構成されているとすれば?
ユキメのような半人も、結局はモンスターだ。
兵力の補充のためにモンスターを懐柔していたとすれば、これだけの大軍に成長してしまったのも頷ける。
ただ、私には見分けがつかないし、モンスターだからと言って方針が変わるわけでもない。
それに、このことについてはカグラが調べてくれているはずだ。
今は目の前に集中して、カグラからの報告を待つしかない。