88 マリアVSランスロット
手強い奴らは任せることができたわけだし、少しだけみんなの様子を見てみようか。
決して、残りの兵をただ倒していくのが退屈だからとか、そう言った理由ではない。
まずは、マリアさんの様子を見てみよう。
マリアさんは宮廷術士のリーダーだ。
普段は魔術塔に引き籠もってるから、あまり面識はない。
だからどういう人なのか、どれほど強いのか分からなかった。
「ふむ、大盾は確かに厄介ですが、貴方はそれに頼りすぎているようですね」
どうやらマリアさんは、分析能力に長けているようだ。
ランスロットの攻撃を一目見ただけで、どのような戦い方なのかを見抜いている。
敵には回したくないね。
「見破ったとて、どうする事も出来ぬ。特に、魔法に頼る貴女のような者にはな」
確かに、こいつの大盾は魔法を遮断してしまう。
加えて、魔法に対する反応速度が極めて高い。
魔法専門の宮廷術士では、かなり相性が悪い。
「魔法が通らないのは、その盾だけ。逆に貴方自身には、魔法が通りますよね。恐らく、魔法に対する耐性が極めて低いのでしょう。貴方が魔法に対して耐性を持っているのであれば、その様な盾を持つ必要はありませんからね」
「同じ事を言わせるな。見破ったとて、どうする事も出来ぬ!」
ランスロットは大盾で体をカバーしながら、槍を構えて突進した。
それに対し、マリアさんは背中に携えた杖を構えたが、魔法を展開している様子はない。
ただ、杖を構えただけだ。
マリアさん、何を考えているのさ。
魔法で応戦しないと。
私の心配をよそに、マリアさんは至って冷静な表情だった。
マリアさんはランスロットの槍の一撃を見据え、杖で払いのけてしまった。
「ぬうっ!?」
ランスロットが体勢を崩したところを見逃さず、盾に杖を引っ掛け、防御をこじ開けた。
そして、無防備になった体へ杖を当て。
「灼熱魔法、爆炎」
大きな爆発が起こり、ランスロットの体は数メートル後方へ吹き飛んだ。
……防御を突破しちゃったマリアさん凄いけど、ランスロット死んでないよね?
「そんな無理やりな方法で、我が防御を突破するとは……」
起き上がったよ。
ダメージは深刻のようだけど。
「あら、今ので倒せたと思ったのですが、意外とタフですね」
「……まさか一撃で追い詰められるとは。凄まじい魔力だ」
「ならば、観念したらどうです?」
「そうはいかん。……しかし、このままでは敗北必死。この姿にだけはなりたくなかったが、致し方なし!」
ランスロットが槍を掲げると、その姿が変貌していく。
おいおい、こいつも変身するのか?
「この姿では加減が出来ぬ。恨むなよ?」
ランスロットの体は一回り大きくなり、さらに下半身が馬のような形状に変化した。
なるほど、ランスロットはケンタウロスだったのか。
槍と盾を持ってたのは、変身後に一人騎馬兵ができるからってところか。
と言うか、変身して傷も回復してるし、これはヤバいんじゃない?
ランスロットは槍を構え、馬の脚力で突進を繰り出した。
さすがに速い。
それ以上に、マリアさんの反応が速かったようだ。
ランスロットの突進を、マリアさんはいとも簡単に避けてしまった。
「流石だな。まさか、回避と同時に魔法を当てるとは」
よく見ると、ランスロットの右前脚から煙が上がっている。
あの一瞬で魔法を構築して、ランスロットに当てたというのか?
マリアさん、あなたはマジで何者ですか?
「的が大きくなったから当てやすくなったと思っていましたが、そう上手くはいかないものですね。貴方の馬脚は、貴方自身と違って、並外れた魔法耐性を有している。盾で覆う必要が無いほどに」
「あれだけで見破るとは、恐ろしい女だ」
本当に恐ろしい。
つくづく、敵じゃなくて良かったと思うよ。
「だが、だからこそ! この盾がある限り、我を倒す事は適わぬ!」
「その盾は、本当に魔法を通さないと思っているのですか?」
「当たり前だ。魔法では、我が盾を打ち砕くことは出来ぬ!」
「そうですか。では、その幻想を、貴方の盾ごと打ち砕いてみせましょう」
言うやいなや、マリアさんの目の前に、複雑な魔法陣が出現した。
そしてマリアさんの体に、周囲を漂っているこの星の魔素が集まっていく。
その量は、莫大なものだ。
この魔法は何だ?
こんな魔法、私は見たことがない。
「ライトニング・レイ」
マリアさんが杖を魔法陣に翳すと、魔法陣は光り輝いた。
そして魔法陣から放たれたのは、いわゆるレーザーだった。
その雷の光線はランスロットを飲み込み、空の彼方まで直進していた。
色んな魔法があるなとは思ってたけど、まさかレーザーまであるなんて。
と言うか、ランスロットはどうなった?
レーザーが収まると、そこには全身黒こげになり、立ち尽くしているランスロットの姿。
自慢の大盾は、持ち手以外消滅してしまったようだ。
「ば、馬鹿な……」
その言葉と共に、ランスロットはその場に倒れた。
……死んだのか?
「魔王様、ご安心ください。彼はまだ生きています」
「お、おう……。マリアさん、凄いね」
「それ程でもありませんわ。それにしても、久々に動いたもので、とても疲れてしまいました。一足先に、魔王城へ戻りますね」
マリアさんは転送方陣を使って帰ってしまった。
……あの人はいったい何だったんだろう?
ミステリアスな人だったな。