87 隊長四天王
平原のセラメリア王国側に転送方陣。
そこから現れたのは、ランスロット率いる増援部隊だった。
ネレディクト軍の本隊と、挟み撃ちにするつもりだったんだろう。
でも、こちらはすでに、本隊を包囲している。
そちらの目論見通りにはいかないよ。
セルバンテスとユノはと言うと、いつの間にか本隊中央辺りまで後退してしまったようだ。
まあ、この二人に暴れられるよりはマシかな。
因みに、現在の兵力はこんな感じ。
セラメリア王国騎士団
兵力10000
ネレディクト帝国軍
兵力7000+1000
何とかネレディクト軍を削ってるけど、さすがに多いわ。
そして、ランスロットの兵が約千人程。
合流はさせないにしても、中と外から同時に攻撃されると言う状況は避けたい。
そうかと言って、セラメリア王国側に攻め込まれてもまずいけど。
「魔王様!」
聞き慣れない声。
誰が私を呼んでるんだ?
声の方向に目を向けると、ランスロットの部隊のすぐ横に、宮廷術士達が現れた。
これは、ユキメが編み出した擬似転送か。
突如現れた宮廷術士の一団に、ランスロットの部隊は驚き戸惑っているようだ。
「我ら宮廷術士も、魔王様と共に戦います!」
私に話しかけていたのは、宮廷術士のリーダーであるマリアさんだったのか。
気持ちはありがたいけど、私達は不殺の精神で戦ってるし。
《魔王様、ご安心ください。魔王様の狙いはカグラから聞いています。決して相手を殺める事なく、この軍を制圧してみせましょう》
これはテレフォンか。
ユキメが教えたんだろうね。
そして、協力に感謝するよマリアさん。
宮廷術士の一団は、一斉に麻痺の魔法を展開。
一人も撃ち漏らすことなく、ランスロットの部隊を制圧してしまった。
やっぱり突撃兵や歩兵に対して、魔法はとても有効だね。
残すはランスロットのみだけど、こいつは強いからな。
「騎士ランスロット、貴方の相手は私が致しましょう」
マ、マリアさん、大丈夫なの?
そいつ、かなり強いよ?
「宮廷術士のリーダー、マリアか。相手にとって不足無し。いくぞ!」
始まっちゃったよ。
互いに死ななければ、別に良いけどさ。
「こんな奴らに包囲されて押し返せないなんて、頭に来た!」
うるせークソガキ。
頼むから、言葉を発しないでもらえないかな?
「ボクの高貴な姿を、その目に焼き付けろ!」
ユノはその姿を大きく変化させた。
体を真紅の鱗で覆い、巨大な翼を羽ばたかせた。
体躯は見上げるほど巨大化していき、鋭利な爪や牙を携えていく。
そして逞しい尻尾と角を備えたそれは、間違いなくドラゴンだった。
そう、ユノはドラゴンへと変化したのだ。
これがユノの、本来の姿なんだろうけど、これは反則でしょ。
「こんな奴ら、最初からボクひとりで食らい尽くせば良かったんだ! それなのに、くだらない作戦を次から次へと!」
これはまずいな。
ネレディクト軍もセラメリア騎士団も、士気がだだ下がりだ。
伝説級のモンスターが現れた訳だし、仕方のないことだとは思うけどね。
それにしても、こいつはどう戦おう?
ドラゴンなんて戦ったことないよ?
「みんな、消え去れば良いんだ!」
ユノは大きく息を吸い込んだ。
ブレス攻撃か、これはヤバい。
そんなの、私一人じゃ防ぎきれない。
どうしよう、どうしたら?
「ドラゴンフレイム!」
「そうはさせんぞ小童」
どこからか飛来した魔法が、ユノの顔面に直撃した。
その衝撃により、ユノのブレス攻撃はあらぬ方向へと放たれ、誰にも被害は出なかったようだ。
でも、今の声って……。
私が声の方向に視線を移すと、そこに居たのはやっぱりドラン公爵だった。
彼ら爵位持ちの貴族には別件を依頼していたはず。
どうしてここに?
「何やら、嫌な気配が致しましてな。向こうは部下に任せ、急遽こちらへ向かった次第にございます」
「こ、この老いぼれが! よくも、ボクの顔に傷を!」
「魔王様。この小童は、私におまかせを」
ドラン公爵は、その姿を大きく変化させた。
まさかドラン公爵、あなたもなのか?
ドラン公爵の姿は、巨大な白いドラゴンへと変貌した。
美しい白鱗に研ぎ澄まされた爪や牙。
逞しくもしなやかな尻尾に、鏡のように磨き上げられた角。
ドラン公爵のその姿に、神々しささえ感じる。
「お前、何なんだよ」
「いくら小童とは言え、白竜ドラグノーツの名は知っていよう?」
「ま、まさか……」
「さて、おいたが過ぎる小童には、お仕置きをせねばな」
おお、空中戦が始まったよ。
ドラゴン同士の戦いは大迫力だね。
とりあえず、どうしてドラゴンなのかとか、あとでドラン公爵に色々と問い詰めてやろう。
さて、ドラン公爵のお陰でセラメリア騎士団の士気も上がった。
ネレディクト軍は怯え始めてるし、もう少しだ。
「おのれ、どいつもこいつも!」
セルバンテスは怒りを露わにしてる。
そして双剣を抜き、ネレディクト軍の間を縫うように駆け抜け、私との距離を一気に詰めてきた。
とっさに防ごうとしたところを、ベルンハルト様が私を庇うように、セルバンテスの攻撃を受け止めてくれた。
「久しいな、セルバンテスよ」
「ベルンハルトか。そこを退け!」
「悪いが、お前の相手は魔王ではなく、この俺だ」
「ふん! 我に一度も勝利した事の無い弱者が、調子に乗るな!」
おや、二人は顔見知りだったのか。
何だか因縁っぽいし、ここは任せた方が良さそうだ。
「サキさん、ネレディクト帝国側から新手が!」
目まぐるしいほどに戦況が変わっていくね。
何だか目が回りそうだよ。
ユキメに言われた方向を見てみると、グラッド率いる増援部隊が、こちらへ向かって進軍していた。
どうもグラッドと戦ってから、あいつに苦手意識が芽生えてしまったようだ。
「サキさん、あいつは私に任せてください!」
「ユキメ、何言ってんの! あいつこそ、みんなで止めないと!」
「大丈夫です、私は負けません! あいつにだけは、負けたくないんです!」
私の制止を振り切り、ユキメは突撃してしまった。
「女狐が、叩き潰してくれる!」
グラッドは手に持った斧を、ユキメ目掛けて振り下ろした。
ユキメはそれを躱し、次いで鎖による変則攻撃を、蹴りによる足技で払いのけた。
そして、増援部隊を飛び越えるようにジャンプすると、グラッド以外のネレディクト兵にロックオン。
「迅雷魔法、パラライズショック!」
ユキメは増援部隊を、一撃で全員麻痺させてしまった。
なかなか、格好良いことをするじゃないか。
「さあ、残すは貴方だけです!」
「図に乗るな女狐が!」
うーん、私だけ蚊帳の外……。
いや、みんなが頑張ってくれてるんだ、私も残った兵の相手をしないと。