85 戦争ではない戦争
セラメリア王国騎士団
兵力10000
ネレディクト帝国軍
兵力12000
こちら側がやや劣勢か。
……いや、本当だったら大差なんだろうけど、戦略シミュレーションゲームとかやってた身としては、それほど大きな差とは感じない。
そして、これは戦争ではない。
ネレディクトが攻めてきたから、こちらはそれに対して抗戦しているだけだ。
そうすることによって、セラメリア王国の体裁を守れるのだよ。
ネレディクトが軍を展開したからと言って、国境を越えて攻撃をしてしまったら、それはネレディクトに対する侵略戦争になってしまう。
だから私達は、ネレディクトが進軍を開始するのを待っていた。
私達は戦争をしたい訳じゃないからね。
姑息だと言われても構わない。
ネレディクトに一泡吹かせるには、これしかなかったんだから。
ネレディクト軍まで100メートル程か。
大軍同士がぶつかった衝撃は凄まじいらしいから、ここで騎士団に指示を出す。
「盾を構えつつ前進! 衝撃に備えなさい!」
そして指示と同時に、私は騎士団全員に補助魔法、岩の盾をかけた。
この岩の盾は、防御行動をとっていると守備力が上昇する魔法だ。
ネズミ取りとおまじないに相当量のMPを消費してるけど、それでもまだMPに余裕があるのは修行の賜物だ。
そして、両軍が遂に衝突。
確かに凄い衝撃だけど、それを気にしている余裕はない。
私は波のように押し寄せるネレディクト軍を、次から次へと麻痺させていった。
討ち漏らしは後続に任せて、兵の波を突き進む。
ネレディクト軍の前列を突破すると、後列では魔法兵が魔力を練り固めていた。
魔法の発動まで、まだ時間がある。
このまま進んでも、魔法を発動される前に、全ての魔法兵を倒すことはできない。
そこで私は、騎士団に次の指示を出した。
「魔法兵は氷晶壁を展開しつつ前列へ、突撃兵は左右に散開しつつ後退せよ!」
騎士団は、私の指示通りに動いてくれた。
統率のスキルがあればなお楽だったんだろうけど、贅沢は言っていられない。
突撃兵が無事後退したところで、ネレディクト軍の魔法兵から、様々な魔法が発動された。
それらの魔法を、セラメリア騎士団の魔法兵が氷晶壁で防いでいく。
氷晶壁は魔法を防ぐことができる壁だが、その弱点は物理攻撃だ。
私は魔力が高いから、物理攻撃もある程度なら防ぐことができる。
でも、一般的な魔法使いが使用する氷晶壁は、軽く触れるだけで崩れてしまうほど脆い。
つまり、次にネレディクト軍が何をしてくるかなんて、手に取るように分かると言うことだ。
「歩兵は魔法兵の展開する氷晶壁の後ろまで前進、弓による狙撃に備えなさい!」
私の指示通り、スムーズに行動してくれるのは本当に有り難い。
お陰で、次の指示も出しやすくなった。
「後退した突撃兵は、双璧に警戒しつつ待機!」
よしよし、良い感じだ。
さて、私の読み通り、ネレディクト軍は魔法兵に向けて弓矢を放ってきた。
でもそれは、歩兵の皆さんが防いだから問題なし。
これはお返しだ。
「弓兵は相手の魔法兵を狙撃、魔法兵は氷晶壁を解除し、攻撃へ移りなさい!」
「魔王様! 双璧が我が騎士団を囲むように!」
「落ち着きなさい! 陣形スクウェアへ速やかに移行、側面と背後を固めなさい!」
陣形スクウェアは、兵を四面に配置する防御特化の陣形だ。
突撃兵は散開しながら後退済みだから、スクウェアへの移行に時間はかからない。
陣形スクウェアへ移行したところで、私達の側面と背後には双璧が迫る形になった。
騎士団は不安の表情を見せ始めているけど、ここまでは私の作戦通りだから安心してほしい。
「魔法兵と弓兵は、相手の弓兵を攻撃! その他の兵は、このまま防御態勢を維持しつつ、一気に前進せよ!」
そう、私達の進行方向には、もう弓兵しか居ない。
ここを突破してしまえば、その先に兵は居ない。
……こいつ以外は。
「よもや中央を突破するとはな。だが、お前達はここまでだ」
セルバンテスが、行く手を遮っている。
こいつは強い。
このまま当たったら、騎士団に被害が出てしまう。
ここは、私が何とかしなければ。