81 ドルフノルス攻防戦 後編
私は距離を取って、様々な魔法を撃ち込んだ。
この魔法は目眩ましだけど、そのことにランスロットが気づかなければ勝てる。
「そんなもの何万発撃ったところで、この盾を砕く事は出来ぬ」
そんなの分かってる。
いくつか強めの魔法を撃ち込んでも、あの大盾はびくともしない。
だから、あんたを直接攻撃できるように、その場に張り付けにしてるんだ。
そのまま動くなよ?
「そうやって魔法を撃ち込み、我の注意を引いているつもりなのか? 我の背後に練り固めた魔力に、気付かぬとでも思ったか?」
うそ、バレてたの?
じゃあ、作戦変更。
私は急遽、ランスロットの周りを取り囲むように魔法を展開した。
多方向からの同時攻撃。
これなら防げないでしょ。
複数の魔法が着弾した瞬間、魔法同士が反応し、爆発が起こり砂煙が舞い上がった。
……やりすぎたかな?
死んでなければ良いけど。
砂煙がおさまると、そこにはランスロットの大盾が地面に刺さっていた。
まさか、そんな格好良いことをするつもりなのか?
私はとっさに、辺りを見渡した。
……どこにも居ない。
やっぱりなのか。
私が上を見上げると、ランスロットは上空に居た。
槍は私に向いている。
そのまま落下し、私の体を貫くつもりだろう。
「魔王、覚悟!」
でも、自慢の大盾が無い今がチャンスだ。
私はランスロットを限界まで引き寄せた。
そして、私の心臓を狙った一閃を紙一重で躱し、ランスロットの鳩尾目掛けてアッパーをかました。
ランスロットの落下速度もあいまって、かなりのダメージを与えることができた。
これで終わり。 かと思いきや、ランスロットは苦悶の表情を浮かべながらも、私に向けて攻撃を仕掛けている。
……意地か。
私はランスロットの攻撃を弾き、もう一度鳩尾に一撃を加えた。
しかし、ランスロットは倒れない。
倒れようとしない。
二撃、三撃与えて、ランスロットはようやく倒れた。
どうやら、気を失っただけのようだ。
死ななかっただけ良いけど……最初の一撃で勝負は決まっていたはず。
何がこいつを、ここまで突き動かしたんだろう?
……その理由も、ネレディクトを追い詰めれば分かるだろう。
「ネレディクト軍、勝敗は決しました。ランスロットを連れて、撤退しなさい」
私がネレディクト軍に言い放つと、一瞬だけ躊躇いを見せてから撤退を始めた。
それを見てドルフノルス、セラメリア混合軍は歓声を上げている。
でも、私としては複雑かな。
ユノやランスロット以外の兵士は、強気な姿勢の中に恐怖の色が見えていた。
ロムルスは間違いなく、恐怖政治を行ってる。
兵士の中に見えた恐怖が、その証拠だ。
ユキメからの報告では、セルバンテスが恐怖を集めろと言ってたらしいし。
……もしかして、Fエネルギーって。
《サキさん、一大事!》
ユキメからテレフォンが入った。
何やら慌ててるようだけど。
《ユキメ、落ち着いて。何があったの?》
《テルメピストの解放に向けて行動していたのですが、途中でネレディクト軍に気付かれてしまいました。それで……》
《落ち着いて。ゆっくり話して》
《テルメピストの国民が人質にされてしまいました。アイリス女王を引き渡さなければ、国民を処刑していくと》
そう来たか。
《サキさん、申し訳ありません》
《謝ることはないよ。私が行って、何とかするから。それで、ユキメは今どこにいるの?》
《テルメピスト王国、中央広場です》
《そう、分かった。それから、アナスタシオスの代わりに派遣された副隊長が居るはずなんだけど、どこに居るか分かる?》
《私の……目の前です》
ハイドの魔法が通用しなかったパターンか。
ユキメは万能だけど、自信家なのが玉に瑕だね。
と、悠長に構えてる場合でもない。
私はカグラとともに、テルメピストへと向かった。