78 ジュエリス攻防戦 前編
ネレディクト帝国軍ジュエリス侵攻部隊隊長、ユノ。
ネレディクト帝国軍ドルフノルス侵攻部隊隊長、ランスロット。
ネレディクト帝国軍テルメピスト侵攻部隊副隊長、グラッド。
ネレディクト帝国軍セラメリア侵攻部隊隊長、セルバンテス。
隊長格はこんなところだ。
まずは、こいつらを引きずり出さなければ。
ここからでも、隊長格の四人を倒すことはできる。
でも、そんなことをすればネレディクト軍は混乱し、収拾がつかなくなるだろう。
だから、ネレディクト軍を国境まで押し返す。
国境まで押し返せば、隊長が直々に出てこなければならない。
それは話し合いか決闘か、そこはどうなるか分からない。
もし決闘なら、そこへ戦いを挑んでその上で勝ってやれば、帝国軍は降参するか帝国内へ撤退するしかなくなるだろう。
帝国内へ撤退してくれればこちらのものだが、それはやってみないことには分からない。
ともあれ、今は傍観だ。
ネズミ取りには、まだ反応がない。
セラメリア側は、ネレディクトの兵士が集結してるみたいだけど、まだ攻めてくるつもりはなさそうだし。
「サ、サキさん。そろそろ、降ろしてもらえると……」
「カグラ、ネレディクトの動きをどう見る?」
「無視ですか……。ネレディクトは、何かしらの策を用意してると思います。セラメリア王国側に兵士を集めていますが、それはセラメリア王国に対抗できる戦力だけのように感じます」
「やっぱり、カグラもそう思った? これは私の推測だけど、ネレディクトはセラメリアの最高戦力である騎士団を、この場所に張り付けておきたいんだと思う。そうすれば、王国は手薄になるからね」
私の懸念は、転送方陣の存在だ。
ネレディクトには間違いなく、転送方陣を使える術者が居るはず。
でなければ、たとえモンスターを投入したところで、テルメピストが数日で陥落するなどあり得ないからだ。
数日あれば、陥落する前に他国へ救援を送れたはず。
それすらままならなかった、つまり、瞬く間に制圧されてしまった。
それを可能としているのは、やはり転送方陣の存在だろう。
テルメピストの陥落、そしてジュエリスとドルフノルスの同時侵攻。
セラメリア王国が動くには、充分すぎる理由だ。
孤立しているテルメピストを攻め落とし、資金の供給源となるジュエリスと武具の供給源となるドルフノルスを攻める。
セオリー通りすぎて怪しかったけど、それらが全て陽動でセラメリア王国を攻め落とすための作戦だったとしたら、この騒動自体が罠と言うことになる。
騎士団を派遣して手薄となったセラメリア王国に、転送方陣を使って潜入。
騎士団の居ないセラメリア王国を内部から叩けば、セラメリア王国は瞬く間に陥落だ。
と言うのは私のシミュレートであり、実際にはどうなるか分からない。
分からないからネズミ取りを仕掛けた。
その上で、あえて罠に飛び込んでいる。
どのような反応をするか、確認をするためだ。
正直、考えすぎであれば何の問題もないんだけどね。
色々と考えてる間に、ジュエリス軍がもうすぐ国境付近だ。
気合いの入り方が違うね。
ネレディクトに恨みでもあるのか?
そろそろ隊長が出てくるだろうし、私も前線に向かうか。
私はカグラを安全な場所に降ろしてから、前線へと向かった。
最前線ではシルバ隊長が、ネレディクト軍を次々と薙ぎ倒している。
まさに無双状態だ。
危うく死人が出るところだけど、そこは私のおまじないが効いてるから問題なし。
シルバ隊長はそれが不服のようだけど、そんなの知ったことではない。
私は戦闘前に、全ての兵士におまじないをかけておいた。
それは慈愛のおまじない。
これもユキメから教わったものだけど、ほんとにユキメ様々だわ。
このおまじないをかけられた者が相手を攻撃すると、相手は回復し、その慈愛の心に打たれて体が麻痺するという、何とも馬鹿らしいものだ。
こんなふざけたおまじないに使い道はなそうだったけど、まさかこんなに役立つとはね。
このおまじないに私のMPはごっそり持っていかれたけど、効果は上々だ。
おかげで誰一人死んでない。
ネレディクト軍は、麻痺した仲間を引きずりながら後退を始めている。
でも、ネレディクト軍の後退は、国境線ギリギリで止まってしまった。
このまま国境を越えてくれれば良かったんだけど、さすがに意地があるか。
「これ以上下がるな! 国境線を越えた者から殺していくぞ!」
おや、隊長さんの登場のようだ。
地鳴りとともに、巨大なモンスターが現れた。
巨人族ティターンだ。
そしてティターンの肩に乗っているのが、ここの隊長であるユノか。
見た目はただのガキだけど、こいつは早めに対処しておきたかったんだよね。
だから、早々に登場してくれて助かるよ。
だってこのガキには、モンスターマスターのスキルがあるからね。