77 罠と罠
扉を開けると、奥の椅子に麗しい女性が座っていました。
間違いありません、アイリス女王です。
「女王陛下、よくぞご無事で」
「イリーナこそ、無事で何よりです。そして」
アイリス女王は、私達へ視線を移します。
何だか、とても良い匂いの人です。
「救出に来て頂き、ありがとうございます。貴方方は、セラメリア王国の者と言っていましたね」
「レイロフ・カラクトス。セラメリア王国の騎士です」
相手が美人だからでしょうか、レイロフさんの喋り方が滑らかになったような気がします。
「ユキメ・コンです。セラメリア王国の宮廷術士をしています」
「……二人だけですか?」
「少数精鋭です」
「そうですか。我が国は今、どのような状況なのですか?」
レイロフさんがアイリス女王に現状の説明をしていると、私の狐耳が電気の波長を受信しました。
どうやら、サキさんからのテレフォンのようです。
《もしもし、ユキメ》
《はいはい、サキさん》
《そっちの様子はどう?》
《アイリス女王を保護しました》
《仕事が早いね、二人を選んで正解だったよ》
《それから、色々と報告しておきたい事が》
私はサキさんに、アナスタシオスと会った事や、そこでの会話内容を事細かに報告しました。
《Fエネルギー。アナスタシオスはそう言ってたの?》
《はい、間違いありません》
《それから帝国の隊長が、恐怖を集めろと言ってたのか……》
《サキさん。Fエネルギーって、何ですか?》
《……分からない。けど、私が気になっていたことではある。アナスタシオスから情報を引き出したかったけど、今じゃなくても大丈夫。それより、そっちはアイリス女王を安全な場所へ。私が合図を出すまでは待機するよう、レイロフ君に伝えて》
《分かりました》
テレフォン終了と同時に、レイロフさんの説明も終わったようです。
私はサキさんからの指示を、レイロフさんに伝えました。
「分かった。お二人とも、聞いての通りです。どこか、安全な場所はありませんか?」
「それでしたら」
ここからサキちゃんへ戻ります。
テレフォンを終えた私は、最後の仕上げのために、セラメリアとネレディクトの国境付近まで、残りの騎士団を派遣した。
ここは要だ。
当然、ほぼ全ての兵力を集結させている。
ジュエリス、ドルフノルス救援組も、すでに抗戦の準備は整っている。
セラメリア王国内にネズミ取りも設置したし、これで準備完了だ。
カグラ、これから戦場を飛び回るよ。
準備は良い?
「ここまで転移を使ったのは初めてで、かなり疲れていますが……これで終わるのなら泣き言は言いません」
無理をさせて申し訳ない。
これが終わったら、しばらくの休暇をアナスタシアに相談してあげるよ。
「では、早く終わらせてしまいましょう」
だね。
それじゃあ、まずはジュエリスへ。
時は少しだけ遡り、ネレディクト帝国では。
「ロムルス様、一大事にございます!」
「なんだ、騒々しい」
「セラメリア王国の騎士団が、我がネレディクトとの国境付近に集結しています!」
「そうか、わざわざ罠に飛び込むか。少しは出来ると思っていたが、期待外れだったようだな」
ロムルスは怪しい笑みを浮かべた。
それを見た伝令兵は、背中に悪寒を感じていた。
「ロ、ロムルス様、如何なさいますか?」
「アナスタシオスを呼び戻せ。そして、ジュエリスとドルフノルス侵攻軍以外の兵を召集。国境付近へ展開させろ」
「直ちに!」
伝令兵が退出すると、扉の陰からサーペントが現れた。
「あんたの作戦、本当に成功するのか?」
「当たり前だ。こうして自ら、罠に飛び込んだのだ。最早、私の勝利は揺るがない」
「あいつを侮ってると、足下をすくわれるぜ? オレが手伝ってやろうか?」
「ふん、お前の出る幕ではない」
「そうかい。ま、精々足掻くんだな」
そして現在。
私はジュエリス南の草原に来ている。
手はず通りに、ジュエリス軍とセラメリア騎士団は展開していた。
そして私達の視線の先には、赤い鎧の兵士達。
ネレディクト軍だ。
向こうの戦力は、ジュエリス軍の約倍。
よく持ちこたえていたと感心する。
さて、シルバ隊長に指示を出そう。
こんなふざけた戦いを終わらせるためにね。
さあシルバ隊長、兵士を格好良く鼓舞してくれ。
「皆の者! あの忌まわしき帝国軍を、国境まで押し返すのだ!」
忌まわしき?
なんか引っかかる言い方だけど、ジュエリス軍は雄叫びを上げて進軍しちゃったし、ネレディクト軍を殺さなければ別に良いだろう。
次はドルフノルスだ。
ドルフノルス北の荒野。
こちらも進軍の準備は整ったみたいだね。
それじゃあ、進軍指示をしようじゃないか。
「皆、ジュエリス軍が行動を開始した。我らもネレディクト軍を、国境まで押し返すのだ」
雄叫びとともに、ドルフノルス軍も進軍を開始した。
さて、次はユキメにテレフォンだ。
《もしもし、ユキメ》
《はいはい、サキさん》
《ジュエリスとドルフノルスが進軍を開始した。そっちも行動を開始して》
《了解です》
よし、次だ。
カグラ、高いところは平気?
「は、はい、大丈夫ですけど」
「それは良かった。じゃあこれから、空の散歩と洒落込もうじゃないか」
「……へ?」
カグラの華奢な体を小脇に抱えて、生成魔法、魔力の翼。
私の背に蝙蝠のような羽が生成され、その羽を動かして、私の体は地を離れた。
これはユキメが編み出したアレンジ魔法だ。
空を飛ぶにはどうすれば良いか、結局は翼を生成すれば良いだけの話だった。
蝙蝠の羽なのは、私の勝手なイメージだけどね。
やっぱり魔王と言えば、蝙蝠風の羽じゃない?
次に魔眼超広域化。
……よしよし、よく見える。
私の罠にかかっているかも、良く分かるね。
さて、それぞれのネレディクト軍の隊長はどこかな?