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75 潜入

 実は私は、ジュエリス、ドルフノルス両国からの救援を受けた際、同時進行で別件にも取りかかっていた。

 それは、陥落したテルメピストの解放だ。

 もちろん、そう簡単なことではないし、時間だってかかる。

 こういった案件に適したスキルを持っているわけでもない。

 そこで、この件に関してはレイロフ君とユキメに任せることにした。


 実はユキメは、恐ろしい速度で次々と魔法を覚えている。

 更に、自分流にアレンジしたり複合させたりする能力に長けていたようだ。

 アレンジした魔法の中には、本来スキルの恩恵を受けて効果を発揮するものを、魔法で再現してみたりと多彩だった。

 魔法による擬似的な念話や転送など、初めて見た時は驚いたね。

 化けるとは思っていたけど、ここまで大化けするとは思ってもいなかったよ。

 ユキメがアレンジした魔法に隠密系の魔法も含まれていたから、ここはユキメに任せることにした。

 レイロフ君は、もし戦闘になった場合に役に立ってくれる。

 二人で行動させるのは初めてだけど、上手くやってくれると信じてるよ。



 と言うわけで、ここからはユキメがお送りします。

 私が編み出した転送魔法、テレポートのお陰で、誰にも悟られずにテルメピスト王国へ潜入する事が出来ました。

 レイロフさんと行動するのは初めての事なので、若干緊張しております。



「おい、ユキメ。本当に、俺達の姿は見えていないんだろうな?」

「それ、何度目の質問ですか? 大丈夫です、見えてませんよ。そこまで疑うのでしたら、そこに居る兵士の前を通りましょうか?」

「頼むからやめてくれ」



 先ほどからこんなやり取りを、三回は繰り返しました。

 どうもレイロフさんは、あまり他人を信用しないようです。

 でも、カグラさんやアナスタシアさん、それからサキさんの事は信用してるみたいですし、私だけ信用されないのは複雑です。

 モンスターだからかな?


 テルメピスト王国には、たくさんのネレディクト軍が見回りをしていました。

 そして、テルメピスト王国の民は、町中に設置された簡易的な檻に、ほぼ全員捕らえられているようです。

 サキさんが気にしていた虐殺や略奪は、どうやら起こっていないみたいですが、だとしたら何が目的なのでしょう。


 更に町中を調査していくと、突如現れた巨大な影に出会してしまいました。



「こ、こいつは!」

「ティターン!?」



 巨人系モンスターのティターンです。

 どうしてモンスターが、町中に居るのでしょうか?

 私達は姿だけでなく、匂いや音も全て消している為、見つかることはありませんでした。

 もし見つかっていたら、私達ではどうする事も出来なかったでしょう。

 それほどまでに、ティターンとは強力で凶暴なモンスターなのです。


 どうやら、ネレディクト軍はモンスターを使役しているようで、町の至る所にモンスターが配備されていました。

 戦争の事は分かりませんが、戦力としては優秀なのではないでしょうか。

 捕まっている民を救うとなると、厳しい戦いを強いられそうです。

 出来ればテルメピストを奪還してほしいと言われていましたが、それは難しそうです。



「ユキメ、魔王様にこれまでの事を報告したい」

「分かりました」



 私は風音魔法と迅雷魔法を複合させた、擬似的な念話をサキさんに繋げました。

 迅雷魔法の電気を低出力の波長にする事で、かなり遠くまで届かせる事が出来ると気づいた私は、風音魔法で話した声を電気の波長に乗せることを思いつきました。

 この方法なら、電気の波長が届く範囲ならどこでも、会話が出来るようになったのです。

 サキさんはこれを、テレフォンと呼ぶように言ってましたね。



《魔王様、聞こえますか? レイロフです》

《良く聞こえるよ。そっちの様子はどう?》

《テルメピストの国民は無事です。虐殺や略奪などの行為は起こっていません。ですが、魔王様の懸念された通り、ネレディクト軍はモンスターを使役していました》

《やっぱりね。国一つが短期間で陥落したから、そうではないかと思ってたけど。でも、民が無事だってのは嬉しい情報だ。引き続き、潜入任務を頑張ってくれ》



 テレフォンは切れました。

 町中の調査は粗方終わったので、次は王城です。

 気を引き締めていかないと。


 王城内部には、ネレディクト軍が大勢居ました。

 私達の姿を見ることは出来ませんが、触ることは出来るので、ネレディクト軍にぶつからないように注意して進まなければなりません。



「城の地下には大抵、牢屋が存在する。そして、城の者が捕まっているとすれば牢屋だ。まずはそれを探すぞ」



 私達は地下へ下りる階段を探しましたが、上り階段はあっても下り階段はどこにもありませんでした。

 この城に、地下は存在しないのでしょうか?



「……仕方がない、牢屋は後回しだ。ネレディクト軍のリーダーを探そう」

「玉座の間ですね。ですが、どこが玉座の間なのか」

「……手当たり次第だな」



 王城の1Fから3Fまで、全ての部屋を調べましたが、玉座の間は見つかりませんでした。

 残すは4Fのみです。

 私達が3Fと4Fを繋ぐ階段へ歩いていく途中、廊下の隅に小さな扉を見つけました。



「レイロフさん、あの部屋は調べました?」

「うん? ……いいや、調べていないな。だが、あまりにも扉が小さい。どうせ倉庫か何かだろう」

「そう……ですか?」

「気になるのか?」

「はい。何やら、あの扉から冷たい風が流れているようですし、倉庫と言うにはどうも……」



 私は自然と、その扉へ向かって歩いていました。



「おい、ユキメ。今はネレディクト軍のリーダーを探しているんだぞ」

「分かってます。ですが、どうしても気になるんです。あの扉だけ、調べさせてください」



 レイロフさんは暫く考え、そして小さな溜め息をつきました。



「分かった。しかし、何もなければすぐに、上階へと向かうぞ?」

「ありがとうございます」



 扉へと近づくと、やはり冷たい風が流れ込んでいました。

 そして冷たい風に、人の匂いも混ざっていました。

 もしかしたら。

 私は小さな扉を、ゆっくりと開けました。



「これは、階段?」

「下へ続いているようだが、下の階のこの位置に、階段なんてあったか?」

「1Fから3Fまで、この位置には階段はありません。そもそも、この位置に部屋なんてありませんでした。と言うことはつまり」

「この階段が、地下への入り口か?」



 扉を開けた瞬間、人の匂いも強くなりました。

 ここが地下への入り口で、間違いないでしょう。



「行きますか?」

「当たり前だ」

「ネレディクト軍のリーダーは?」

「それは……後回しだ」



 レイロフさんが先に下り、続いて私も階段を下りていきました。

 螺旋状の階段は、人一人が通れる程の狭いものでした。

 風は更に冷たさを増し、人の匂いも強くなってきました。

 大勢の人の匂い。

 そしてその匂いの中に、ネレディクト軍の匂いも混じっていることに、この距離で漸く気づきました。

 まるでモンスターのような、それでいて人のような、とても嫌な匂いです。

 私はその事を、レイロフさんに伝えました。



「ネレディクト軍の匂いか。何人居るかは分かるか?」

「二人……いや、三人です」

「三人か。それなら、どうにかなるだろう」



 更に階段を下りていくと、小さな鉄製の扉が現れました。

 格子窓も付いていますし、この先が牢屋のようです。

 レイロフさんが格子窓から、中の様子を伺います。



「見張りは二人しか見えないが、本当に三人居るのか?」

「三人分の匂いがしてますし、間違いありません」

「そうか。一人は椅子に座って居眠りをしているようだが、もう一人は見回りをしている。迂闊に動けんな」

「では、先手必勝といきましょう。レイロフさん、これからハイドの魔法を解きます。ここから先は喋らないでくださいね?」

「おい、何を」



 私達の姿を隠していたハイドの魔法を解き、私は別の魔法の構築を始めました。

 その発動点を、匂いの元にセットして。



「ネレディクト軍の皆さん、おやすみなさい。昏睡魔法、グッドナイト」



 魔法発動と同時に、人が倒れる音が三つ聞こえてきました。



「これで安心ですね」

「あ、ああ。そうだな」



 私達は鉄製の扉を開け、奥へと進みました。

 そこは廊下になっていて、両側には牢屋が並んでいました。

 手前と奥には、先ほど確認したネレディクトの兵士が倒れています。

 もう一人はどこかというと、入り口のすぐ横に居たようです。

 危ないところでした。

 ちなみに、この昏睡魔法の効果は三時間程。

 その間は、魔法を解かない限り起きることはありません。


 レイロフさんはネレディクトの兵士の様子を見てから、牢屋の中を確認しています。

 ここに捕らえられているのは、アイリス女王に仕えていた者のようです。

 こちらも捕らわれているだけで、特に被害はなかったようです。

 しかし、肝心のアイリス女王の姿は見当たりません。



「おい、女王陛下はどこだ?」



 レイロフさんが牢内の人達に問いかけると、奥から年配の女性が出てきました。



「あなた方は?」

「我々はセラメリア王国の者だ。魔王様の命により、この国の調査に来た」

「私達を、解放してくださるのですか?」

「無論、魔王様はそのつもりだ。しかし、まずは女王陛下の安否を確認したい。女王陛下はどこに?」



 年配の女性は困った表情をしています。



「女王陛下は今、玉座の奥にある隠し部屋から、更に隠し通路を抜けた先にある、塔の最上階に幽閉されています」

「隠し通路の隠し通路の……」

「宜しければ、私を連れて行って貰えませんか? あなた方を、女王陛下のもとへご案内出来ます」

「貴女は、何者ですか?」

「申し遅れました。私は、アイリス女王陛下の乳母にございます」


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