魔王様のお宝サーチ能力は高すぎた 前編
そこは、小さな部屋だった。
部屋の四方には、豪華な燭台が飾られている。
他に出入り口は、無い。
その代わり、中央の床には魔法陣と思われるものが描かれている。
これはあれか、転送装置的なやつか。
一応、魔法陣を鑑定をしてみる。
この魔法陣がトラップ系であることはないだろうが、念のためだ。
〔転送方陣:異なる場所同士を繋ぐ、転送用の魔法陣。魔法陣に乗る事で起動し、異なる場所まで瞬時に移動する事が可能〕
やっぱり、転送装置だった。
他に道は無いし、これを使うしかない。
私は魔法陣の上に乗った。
すると、魔法陣が起動し、私の体は浮遊感に包まれた。
目を開くと、そこは先ほどと変わらない部屋だった。
転送に失敗した?
私は現在位置を把握するため、壁に向かった鑑定した。
〔鑑定結果:試練の遺跡。エルステルン山脈最奥部へと続く遺跡〕
良かった、転送は成功していたみたい。
でも、まだ外には出られないのか。
試練の遺跡って名前のダンジョンだし、トラップもモンスターも豊富なんだろうな。
何せ“試練の遺跡”だからね。
「行きたくないな……」
無意味に独り言を呟いてみるも、ただ虚しくなるだけだった。
仕方がない。
やるしかない。
脱出するためには、生きるためには、進むしかないんだから。
小部屋から出てみると、小部屋と同じ様な造りの通路に出た。
一本道のそれは、まさしくダンジョンだ。
内心ワクワクしている自分に呆れつつ、私は通路を歩いていった。
所々に燭台があり、炎が灯っている。
もう、暗視のスキルはオフにしても良いのではないだろうか?
一度、暗視のスキルをオフにしてみる。
……駄目だった。
炎が灯っている所は明るいのだが、それ以外は暗く、先を確認することができない。
ここから脱出するまで、暗視のスキルは常時オンにしておこう。
そんな事をしていると、分かれ道に出た。
さて、どちらが正解か。
RPGプレイ中の直感を信じるなら、左には宝箱があるけど行き止まりで、右が順路になっていると思う。
と言うわけで、左に進んでみよう。
少し進むと曲がり道。
更に進むと、また曲がり道。
その奥に、やっぱりあった宝箱。
早速宝箱を鑑定。
〔宝箱:ランク6。モンスター無し。トラップ無し〕
よしよし、モンスターもトラップも無し。
ランクは6だけど、初めて出会った宝箱のランクが高すぎただけで、6でも十分高い方だと思う。
では、宝箱の中身を確認しよう。
私は、勢い良く宝箱を開けた。
中身は小さな袋だった。
持ち上げると、ジャラジャラと耳心地の良い音がする。
うん、お金だね。
袋を開いてみると、黄金色の硬貨が出てきた。
うん、お金だね。
念のために鑑定してみる。
〔硬貨:この世界の全ての場所で使われる、共通の通貨。銀貨と金貨が存在し、金貨の方が価値が高い〕
うん、お金だね。
お金は好きだ。
むしろ、嫌いな人などいないだろう。
前世ではヒキニートだったけど、株で稼いでいたから、お金には困らなかったな。
買い物も株も、全部ネットで何とかなってたし。
そう考えると、前世は恵まれ過ぎだったと思わなくもない。
こんな事を考えるとキリがないから、宝箱の確認に戻ろう。
お金の他には何も無いかと思いきや、隅の方に燻製肉が入ってた。
他には何も無い。
来た道を引き返し、さっきの分かれ道の右に行ってみよう。
分かれ道を越えて、更に進む。
しばらくは一直線、そして曲がり道。
その曲がり道を曲がったところで、前方で何かが動いてるのが見える。
見た目は熊っぽいけど、随分と小さい。
仔熊だろうか?
こちらには気付いていないみたいだし、ちょっと鑑定をしてみよう。
〔LV:68〕
〔名前:ボル〕
〔種族:ムーンベア〕
〔HP:660〕
〔MP:1800〕
〔SP:300〕
〔攻撃力:450〕
〔守備力:530〕
〔魔力:1250〕
〔魔法耐性:980〕
〔素早さ:800〕
〔ムーンベア:魔法に特化した熊型の魔物。中級の魔法を使いこなし、補助魔法にも長けるが、熊型の魔物特有である筈の腕力や体力は低い〕
おお、ここまで詳しく鑑定できるのか。
それにしても、ほとんどのステータスが、私の半分以下じゃないか。
狼は色々と規格外だったし、自分の実際の強さを知るには、良い機会かもしれない。
私はわざと足音を鳴らしながら近付き、熊にこちらを認識させた。
熊は私に気付くと、牙を剥いて威嚇している。
でも、襲いかかってこない。
魔王のブーツの効果で、熊は私より先に行動することができないのだ。
今度は失敗しないように、軽く走って熊に近付いてみる。
それでも十分すぎる速さだ。
あっと言う間に間合いを詰める。
熊は驚いているが、それは私も同じだって。
速すぎるのも考えものだって。
驚く熊の前にしゃがみ、私はデコピンをかましてみた。
さすがにこれじゃあ倒せないだろう。 そう思っていたが、デコピンをされた熊は凄い勢いで吹き飛び、壁に激突した。
ああ、これはあれだ、私チートだわ。
LVを上げて、少しでも強くなろうとか考えてたけど、その必要も無くなった。
だって、上げる必要が無いほど、私は強いんだから。
〔魔王:サキ(仮)はムーンベア:ボルを倒しました〕
〔経験値を獲得しました〕
〔魔王:サキはLV10からLV12に上がりました〕
言ってるそばからLVが上がってしまった。
そりゃあ、倒せば経験値が入ってLVも上がるよね。
私の強さに関しては、深く考えないようにしよう。
規格外の強さを再認識した私は、足取り軽くダンジョンを進んでいった。