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66 VSサキ

 気がつくとそこは、いつかの暗黒空間だった。

 目の前にはやはり、姿見の鏡がある。

 姿見に近付くと、そこには私じゃない私が映っている。



「まさか、キルナス迷宮の最奥まで到達するとはな」



 姿見の中の私が話しかけてきた。



「あれだけ厳重に守ってたものが、まさかあれだったなんて驚きだけど、どうしてあれを?」

「お前に教える筈が無いだろう? ……お前が私を受け入れると言うのなら、教えてやらない事もないぞ?」

「馬鹿言わないで。あんたは大人しく封印され続けてれば良いんだよ」

「そうか……。ならば力付くで、お前の体を奪うとしよう」



 鏡に亀裂が走り、音を立てて砕け散った。

 砕けた破片が、私目掛けて飛んでくる。



「痛っ!」



 破片を全て避けたつもりだったが、一枚だけ肩に刺さってしまった。

 それを引き抜き、傷口を押さえる。

 まったく、どこかのホラーゲームじゃないんだから、こういう演出はやめてほしい。


 辺りを見渡しても、鏡の私の姿は見えない。

 あいつが鏡から出てきたと考えるべきだろうけど、どこに行った?


 首筋に悪寒が走る。

 私が咄嗟にしゃがむと、私の居た所へ風の鎌が飛来した。



「ほう。伊達に戦闘を繰り返してきた訳ではないか」



 今の悪寒はあれか? 殺気と言うやつか?

 鎌の軌道は、私の首を狙ったものだった。

 もし避けていなかったらと思うと、冷や汗が止まらない。


 次は悪寒と同時に、足元から突き出した無数の氷の刃が私を貫くイメージが、はっきりと見えた。

 強い殺気は相手に死のイメージを見せるって言うけど、本当だったんだね。

 感心してる場合でもない。

 私がその場から飛び退くと、私の居た場所に氷の刃が出現した。


 避けられたからと言って、安心してもいられない。

 避ける方向を読まれていたのか、右からは業炎弾、左からは濁流弾が迫っている。

 氷の刃を避けるため大きく飛んだ私は、まだ地面に着地していない。

 ……こんな時のために、疑似二段ジャンプを考えておいて良かったよ。


 私は足元に氷晶壁を作り出し、それを踏み台にしてさらにジャンプした。

 下では二つの魔法が衝突し、爆発と共に大量の水蒸気が辺りに充満していた。

 危ないところだった。

 これ以上の追撃はなさそうだけど、私は念のため辺りを警戒しながら降り立った。



「最低限の危機回避能力はあるようだな」

「さっきから姿を見せずにこそこそと。隠れてないで正々堂々と戦いなさいよ!」

「自惚れるな。お前など、私が姿を晒すまでもない」



 言ってくれるじゃないか。

 だったら意地でも、あんたを炙り出してやるよ。



「生成魔法:インフェルノ」



 私の足元に巨大な穴が開き、そこから地獄の業火が溢れ出した。

 生成魔法:インフェルノ、これは発動者以外の全てを焼き尽くす、いかにも魔王が使いそうな魔法だ。

 広範囲殲滅魔法は、こういった場面でも役に立つから覚えて良かったよ。



「インフェルノか。まったく、懐かしい魔法を使う」



 声の方向に目を向けると、猛り狂う炎の中に人影が見えた。

 この魔法は防御無視だから、ダメージは通っているはず。

 それなのに余裕とは、さすがとしか言えない。


 炎は視界を遮っている。

 今なら、不意打ちによるダメージ上昇も入るだろう。

 不意打ちの状態は、防御無視で相手に約3倍近くのダメージを与えられる。

 今ならあいつに、痛手を与えるチャンスだ。

 私はあいつに向かって走り出した。

 そして魔神爪サイカで、その体を貫いた。



「インフェルノを目眩ましに使っての奇襲か、考えたものだな」



 私の腕は掴まれ、攻撃を止められていた。

 引き離そうともがくがビクともしない。

 そんな私を見下していたこいつは、私の腕を掴む手に力を込めた。

 腕に激痛が走り、今にも折られてしまいそうだ。

 もう片方の腕は掴まれてないけど、今はこの腕を動かせない。

 せっかく、危険を冒して懐まで飛び込んだから、ここで悟られるわけにはいかない。



「あんたはさっき、姿を晒すまでもないって言ってたよね? でも私は、あんたの姿を炙り出してやったよ。私程度に姿を晒したんだ。格好付けてたけど、初代魔王ってのも名前だけなんだね」



 私の腕を掴む手に、さらに力が込められていく。

 痛くないわけがない、痛いに決まってる。

 でもこいつは、私に言われて怒ってる。

 さあ、もっと怒って冷静さを欠け。



「お前はまさか、私が何も気付いていないとでも思っているのか? インフェルノを目眩ましに使い、この奇襲ですら陽動。本命は、これなのだろう?」



 こいつは頭上を見上げた。

 そこには、私の作り出した魔力の塊が浮いている。

 あの時サーペントを倒した、星天魔法:流星群だ。

 しかし、まだ発動することはできない。

 あと数秒足りなかった。



「小賢しい真似を」



 こいつはもう片方の腕を掲げると、私が流星群のために練り上げた魔力を全て吸収してしまった。



「まったく、あれくらい食らっときなさいよ。それとも、私程度の魔力でも、流星群は食らったら不味かったのかな? だとしたら、私にも勝機はあったよね」



 私の言うことが気に入らないのか、さらに力を込めてきた。

 この際、折れたって良いだろう。

 折れたところで、こいつは私を離すつもりはないんだから。



「お前の勝機など、最初から存在しない。私の手を振り払えないのが、その証拠ではないか」

「確かに、私の力じゃ張り合えない。でも、あんたは絶対的な存在じゃない。私程度に怒ってるのが、その証拠じゃないかな?」



 こいつはひとつ溜め息をつくと、広範囲に魔力を展開した。

 そうだ、それで良い。

 私程度を消し去るために、派手で大規模な魔法を使え。



「私を本気にさせたいか。ならばお前に見せてやろう。絶対的な支配者たる魔王の力を」



 こいつは呪文を唱え始めた。

 よりにもよってこれか。


『我が血縁を裏切りし者へは体を引き裂く氷刃を』


『第一の円環:カイーナ』



 氷でできた円状の壁が私達を取り囲む。

 少しずつ逃げ場を無くしていく、なかなかエグい魔法だ。



『我が国へ反逆せし者へは魂をも貫く氷槍を』


『第二の円環:アンテノーラ』



『我が賓客を裏切りし者へは心も凍てつく氷嵐を』


『第三の円環:トロメア』



『我を裏切りし者へは逃れ得ぬ永劫の氷責を』


『第四の円環:ジュデッカ』



 四つ目の壁が出現した。

 次で最後だ。



『最奥地獄よ、我が前に顕現せよ』



「今だ!」



 私はもう片方の腕で、こいつの体を貫いた。

 私の狙いは、こいつに悟られないように魔神爪サイカを強化することだった。

 魔力を送り込むと変形する魔神爪サイカは、送り込んだ量によって攻撃力がどこまでも上がっていく。

 ほぼ全ての魔力を送り込んだら、私の攻撃力がカンストしてしまったことには驚いたものだ。

 そのことを知ったのはつい最近だったけど、これを作ったコルタには本当に感謝だわ。

 そして、こいつは呪文の詠唱中だった。

 呪文の詠唱中は不意打ち判定になる。

 このことを知ったのも最近のことだけど、こいつに痛手を与えるには充分過ぎたようだ。


 こいつは私の腕を引き抜き、刺された場所を押さえながら後退りをしている。

 私達を取り囲んでいた氷の壁も消滅した。



「……お前は強いのだな、サキよ」

「強くない。不意打ちをしなければ、あんたをここまで追い込めなかったよ」

「フフッ……これは、復活するのが楽しみだな」



 笑ってるよ。

 こっちは楽しくないんですけど?



「どの道お前の体でなくとも、私は復活を果たす。現実のお前と戦える日を、楽しみにしているぞ」



 あいつは、闇の中に消えていった。

 私の体でなくとも……私の他に、あいつが復活できる肉体が存在しているのか?

 それともあいつは……肉体ごと封印されてる?

 ともかく、あいつが復活することは確定なのか。

 今回はギリギリだったし、次は勝てるか分からない。

 ……いいや、魔神爪サイカの力をもっと引き出せれば、あいつにだって届くことが分かった。

 可能性はゼロじゃない。

 少しでも可能性があるのなら、私は諦めたくはない。


 再び意識が飛ばされる。

 まずは祭壇に祀られていたものだ。

 あれの正体を確認しなければ。

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