65 キルナス迷宮最奥
「リア充爆発しろー!」
私はキルナス迷宮内で、心の底から叫んでいた。
迷宮内で休憩中に、みんなの様子を確認してみたら、カグラとレイロフ君がイチャついていたのだ。
普段から仲が良いとは思ってたけど、あんなプロポーズ紛いなやりとりをするなんて。
さらに、信じてたアナスタシアですら、恋する乙女だと知ってしまった。
そんな光景を見せつけられたのだ、誰だって叫びたくなる。
つまり、私の周りに私の叫び声を聞きつけてモンスター共が集まってきたのも、全てはリア充共のせいだ。
モンスターにはモテモテだって? やかましいわ!
ああ、もういい。
モンスター共、今からあんた達に八つ当たりをする。
恨むなら、私を怒らせたリア充共を恨め。
「生成魔法:インフェルノ!」
迷宮の壁が崩れてしまったが、迷宮の崩落は起こらなかったようだ。
怒りに我を忘れてたとは言え、もう少し慎重に行動しないと命がいくつあっても足りやしない。
……壁が崩れたお陰で、かなりのショートカットができるようになったし、結果オーライかな?
怒りも冷めたことだし、探索再開といきますか。
今までは武器が無かったから、後半へ挑むことを躊躇していた。
しかし、今の私には魔神爪サイカがある。
もはや躊躇する理由なんかない。
どんどん先へ進んで、さっさとこの迷宮をクリアしてしまおう。
この魔神爪サイカを装備してから、迷宮内の全てのモンスターが楽に倒せるようになってしまった。
魔神爪サイカだけではなく、私自身も有効なスキルを取得したから、本当に攻略が楽で助かってる。
まずは、魔力自在のスキル。
魔力精密操作の上位スキルだ。
このスキルのおかげで、高難度の魔法も楽々使えるようになった。
さっきのインフェルノも、このスキルがあったから使うことができるようになった。
それでもシャドウサーヴァントだけは難しいままだけどね。
次に、自動回復のスキル。
これは名前の通りのスキルだけど、回復量はあまり高くない。
スキルランクが上がれば、もう少し使える子になりそうだ。
それから、大打撃と大防御のスキル。
これは剛撃や堅牢の上位スキルで、これらよりもさらに補正がかかる。
それだけではなく、LVUP時の上昇値にまでプラスの補正がかかると、かなりお役立ちスキルだ。
そして今回の目玉スキルは、五行魔法のスキルだ。
これひとつあれば、火、水、風、雷、土の五属性最上位魔法を使い易くしてくれるのだ。
あくまで使い易くしてくれるだけで、魔法は別で覚えなければならない。
それでも、これがあるだけで天と地ほど差があることには、純粋に驚いたものだ。
最上位魔法を初級魔法並みに使い易くしてくれるのだから、本当に有用なスキルだ。
これもランクが上がれば、さらなる期待が持てる。
新たに獲得したスキルは、こんなところだ。
獲得できるスキルが増えすぎてしまって、どれを取れば良いのか悩んでいたりする。
スキルポイントは無尽蔵にあるわけじゃないから、何を獲得するかはじっくり考えよう。
さて、崩れた壁を進んでいくと、奥に祭壇のようなものが現れた。
ここがゴール、だとは思うのだが、そこは赤色の半透明な壁に隔てられていた。
その奥にも同様の壁が何枚も続いている。
最後の最後で謎解きですか。
仕方がない、付き合ってあげよう。
まずは、火の魔法でも当ててみるか。
多分開かないだろうけどって、火の魔法を当てた瞬間、壁は呆気なく崩れてしまった。
やれやれ、最後の謎解きにしては雑過ぎじゃないか?
次は緑。
風の魔法を当てると、やっぱり壁は崩れてしまった。
その後も青、黄色の壁は魔法を当てると崩れてくれた。
次は茶色。
これは土砂魔法か。
土系の魔法、特に土砂魔法と言う名前からして地味なイメージがあるから、あまり好きじゃないんだよね。
一応、土も初級魔法は覚えてるから、この壁も難なく突破。
次は白。
以前の謎解きでは、白と黒だけはスイッチだったけど……念のため、白光魔法を当ててみる。
……これも正解だった。
次は黒。
これで最後かな?
壁に暗闇魔法を当ててみると、やっぱり壁は崩れてしまった。
やっぱり、最後の謎解きにしては拍子抜けかな?
なんて思った矢先、黒い壁の奥にはもう一枚、壁が存在した。
壁ではなく、これはガラスだろうか?
半透明のそれが、どうやら最後の一枚のようだ。
今までが簡単すぎたし、これが只のガラスだとは思えない。
試しに軽く触れてみると。
「いっ!?」
電流が走り、触れた手が弾かれた。
イビルウッドの体内にあった、セラメリアの宝石に触れた時と同じ衝撃だ。
なるほど、結界か。
あの時は無理やり突破してやったけど、毎回そんな事をしてたら私の手がもたない。
仕方がない、魔眼を使って解除方法を調べよう。
〔神聖結界:魔族の侵入を禁ずる結界。魔浄のスクウェアクリスタルの放出する魔力を打ち消すか、魔浄のスクウェアクリスタルを破壊すれば結界は消滅する〕
新たな単語が出てきたね。
魔浄のスクウェアクリスタルか。
これが何のことなのかは、何となく想像できるけど。
〔魔浄のスクウェアクリスタル:初代魔王が創り出した方石。その用途は多岐にわたる〕
やっぱり、セラメリアの宝石のことだったか。
モンスターを操ったり結界を張ったりと、なかなか便利な代物を作ったじゃないか。
……近くに宝石があるんだろうけど、どうしてこの迷宮にあるんだろう?
もしかして、この迷宮はセラメリアが作ったのか?
この祭壇に祀られてるものを守るために?
だとしたら、この迷宮にクロスブラッドのモンスターしか居ない理由も説明が付く。
エレヌスさんはそのことまで知ってて、私をここへ送り込んだのだろうか?
考えたって答えが出るわけじゃない。
まずは魔力の可視化。
結界を作り出すにも、魔力を送り込まなければならないからね。
その魔力を辿っていくと……通路の奥の台座に、セラメリアの宝石が置かれていた。
今まで見てきた宝石の中で、一際禍々しい光を放ってる。
そこまでして守りたいものか。
私だったら黒歴史ノートだけど、そんなはずはないよね。
馬鹿言ってないで、さっさと魔力を吸収しちゃおう。
祭壇への結界に魔力の大半を費やしているらしく、イビルウッドのような宝石自身を守る結界は施されていなかった。
私は宝石に触れ、その魔力を吸収した。
かなりの魔力が込められていたらしく、全てを吸収するまで数分かかってしまった。
でも、これでようやく、この迷宮をクリアできる。
私が祭壇へ戻ると、半透明の壁は消えていた。
消えてなかったら困るけどね。
祭壇を上り、祀られているものを確認する。
そこにあったものは、私が良く知っているものだった。
どうしてこれが?
私が手を伸ばすと、それは眩い光を放ち、私の意識は何処かへと飛ばされてしまった。