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第1章 メルダン王国の衰退 第5話

~2020年7月23日 1030 日本国 東京都 京急蒲田駅前~


 ユリウス達が見たのは陸上自衛隊第4対戦車ヘリコプター隊所属のAH-64D(アパッチ)だ。

「りゅ・・・竜だぁぁぁ! 逃げろぉ!」

 そんな事もわかるはずもない王国兵士たちは竜だと思って一目散逃げ出し始めた。

 ユリウスとその隣にいる日本人女性はそれぞれの希望を抱きながら見上げていた。

 ユリウスは本で見た為その存在は知っていた。それどころか持論によって回転式翼の原理や機構まで導き出していた。


 AH-64Dが機首を向けて射撃体勢に入っていることにも気付かず周囲に砲弾をばら撒いていた王国砲兵は、AH-64Dから発射された70mmロケット弾によって瞬く間に大砲ともどもバラバラにされた。

 その爆音と同時に現れた全身緑色の衣服を纏った敵国の兵士たちが逃げ惑う王国兵士たちを”ジュウ”によってなぎ倒した。

 ユリウスも爆音と同時に動き出していた。移転魔法陣にたどり着けばひとまず体制を立て直せる。女性の手を引いたまま、「移転魔法陣に逃げ込め!!」と周囲に叫びながら転移魔方陣を目指した。

 なぜユリウスに向けて銃を撃たないのかユリウスはわかっていた。敵国の女性が傍に居て攻撃が出来ないのだと。




 転移魔方陣まであと数百メートルといったところで腹部から血を流したバロンが弓矢をこちらに向けて構えていた。

 身体強化魔法で先回りされていたようだ。

 だからといって、スピードを緩めることもなかった。


「ユリウス・・・。お前はここで死ぬのだ。そして俺が! 俺がぁぁ!!」

 バロンはそうがなり立てて矢を放った。




 バロンは幼いころからよく遊んでいたエリスという同い年の幼馴染に好意を寄せていた。エリス自身は幼馴染に恋愛感情を抱かないタイプだったが故に、片思いの状態が続いた。

 それもいつかは手に入れることが出来ると考えていた。人と会うたびに天才と呼ばれてきたバロンは良物件だからだ。実際一族の遺伝か、兵法で才覚を示し、10歳でユーフォリア大学入学を果たすという偉業を成し遂げたのだ。いずれエリスの両親から婚姻の申し出が来ると信じていた。


 しかしそれは叶わなかった。

 芸術の才能で12歳のエリスがユーフォリア大学に入学した途端、エリスは図書館に通うようになっていた。何をしているのか気になったバロンはエリスを尾行(ストーキング)し、図書館での様子を観察した。

 そこには同い年くらいの男子に必死に話しかけているエリスがいた。今まで自分が向けられたことのないような眼差しを向けるエリスを見て、モヤっとした気持ちになった。

 そして、そんなエリスに対して一切反応せず本を読み続ける男に怒りを覚えた。その後その男がユーフォリア大学に6歳で入学して、今までの6年間で様々な分野で首席に居座っていることを聞いて嫉妬の闇に飲み込まれた。


 実際、ユリウスはエリスをガン無視していたわけではなく。本を読むのを邪魔しないで、一通り済んだら話しましょうと言っていたのだが、エリスは何時間も本を読み、ペンを走らせる彼にしびれを切らして話しかけていただけなのだ。

 ユリウスはひと段落するとエリスとコミュニケーションをしっかり取っていた。

エリスと会話し始めた途端、周りでスタンバイしていた女子学生達が群がってしまうので、あまり二人きりという時間は少なかった。


 ユーフォリア大学は最低でも10年在学するといわれているが、現状大学が教えられる教科、兵科すべてにおいて首席という成績を獲得し、教師よりも遥かに高いレベルに達しているユリウスにこれ以上の在学は時間の無駄であると判断した大学側はユリウスに9年目にして卒業を言い渡した。ユリウスは今後も図書館を利用できる権利を条件に早期卒業を受け入れて大学を去った。

 ユリウスが卒業した為、次席だったバロンは首席となった。しかし、エリスはバロンに目を向けることは無かった。それどころか遠い目をしているエリスを見て、ユリウスの事を考えているのだと解ったバロンはユリウスに殺意を覚えた。


 バロンはユリウスが去った後もエリスに振り向いてもらうべく必死に励んで10年間の就学を終えて20歳にして卒業を成し遂げた。それをエリスにアピールすると「そう・・・・・・、おめでと」というどこか興味なさそうな返答が返ってきた。

 ショックを受けた直後志願していた参謀として職に就ける喜びもつかの間、ユリウスが上司だと知ると数日寝込んだ。

 

 回復して寝室から出てきたバロンの目には幼馴染に振り向いてもらうために努力を積み重ねてきた自信の色を失い、ユリウスに対する敵意と殺意だけが残っていた。

 

 バロンは見習いとなって以降、ユリウスの作戦の妨害を行っていた。

 言葉の綾を利用することによって伝令に違う命令を下し、噂を流して忠誠心や士気を下げるなど細々しているようで戦術に大切な部分を揺さぶる妨害をしていた。

 しかし、どんなに妨害工作を行っても良くて任務完遂を一日遅れる程度の効果しか出なかった。もともと1週間で落城を命令されているところ3日間で落とすと宣言し、バロンの妨害が入って1日遅れたとしても、4日間で落城させているので、評価を落とすことは出来ない。



 先ほどの参謀長への発言によってやっとユリウスを引き摺り下ろすことが出来て、歓喜していたところに敵の兵士の攻撃によって腹を負傷した。周りの仲間が次々と謎の攻撃によって倒れていく中、バロンはユリウスを殺すだけしか考えになかった。

 ここで殺してしまえば戦死扱いに出来る。自分は憎き男を消すことができて、自分の地位も向上し、エリスを手に入れることが出来る。


 そう思いながらユリウスに向かって矢を放った。


 バロンはユリウスより数段に弱い。だが、弓の腕前だけは自身があった。ユリウスが去った後、弓術では常に首席だった。

 この至近距離で放たれる矢が当たらないわけがない。

 右手から離れる弦が番えられた矢を押し出した瞬間、ユリウスの心臓を射抜く様子が目に浮かぶ。バロンは冷たい笑みを浮かべた。

 しかし次の瞬間その笑みは驚愕へと変わった。



 特に焦る様子のなくユリウスは護身用に持っていた短剣でバロンが放った矢を叩き落としたのだ。歩みを止めることもなく流れるように叩き落とした。

 もう矢を持っていないバロンの横をユリウスは素通りする。

 自信のある弓ですら届かなかった現実に直面しバロンは動くことが出来なかった。

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