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第1章 メルダン王国の衰退 第2話

~2020年7月22日 1330 メルダン王国聖域 聖なる丘 メルダン王国大本営テント~


 薄暗い大きなテントの中で甲冑の騎士たちが作戦会議を行っていた。


「将軍。お考え直しください!!」


 24歳で7万人もの軍の副|参謀(参謀)を務めているユリウスは今回の侵攻作戦に反対し、軍の指揮官であるグラン中将に抗議を行っていた。


「ユリウスよ。これはもう決まったことだ。今更止めることはできん。」

 (よわい)67にもなる老将であるグラン中将は、19歳で中規模戦線の副参謀、更に今回のような大規模戦線の副参謀にまで上り詰めた天才ルーキー(ユリウス)の反対に対して、まだ若いなといった態度で返事をする。


「しかし!」

「これ以上は軍規違反とするぞ? ユリウス副参謀。」

 それでも食い下がるユリウスに直上の上司であるヴェニス参謀長が痺れを切らせた。


「くっ……!」

 軍法会議に掛けられれば人生の終わりを意味する。

 これ以上反論したところでやはり無意味だと悔しさに歯噛(はが)みしながらユリウスは引き下がった。最初からわかってはいたことだが、自分の無力さに対してにも柄になく吠えたのだ。


「では、異論はないな?」


 この作戦に反対するものは誰一人としていない。

 俯いたままのユリウスを一瞥(いちべつ)したグラン中将は「万場と一致のようだな。では明日予定通り決行する。」といってテントから出て行った。

 ユリウスはこれからメルダン王国に到来するであろう悪夢を未然に防ぐことができなかった。




 ユリウスは二流貴族ゼフォート家の次男として生まれ、勉学において神童(しんどう)と呼ばれる程の才覚を現し、一流貴族でも入ることが難しいと言われているフォーリア大学に、当時10歳が最年少であった記録を大きく塗り替え、6歳という驚愕の速さで入学を果たした。

 彼は入学早々、学園所属者しか入ることが許されていない図書館に入り浸った。

 古びた本から最新気鋭の軍事魔法の解説書、機密の情報から建国以前の歴史書まで、様々な分野の本が所蔵されている。

 ある日図書館を見回っていた時、数ある本の中で一際古く、背表紙がボロボロになっている一冊の本が無性に気になって読むことにした。

 酸化が進み慎重に(めく)らなければ崩れてしまうような古い書物だった。


 その本には異世界人という高い文明に生まれ育ち、何かの拍子でこの世界にやってきた、豊富な知識と強烈な強さを誇る者がいたということが記されていた。


 “ニホンジン”


 と自称したらしく、基本的には温厚だが、一度(ひとたび)戦争を起こせば世界が震える狂人に変化する人種だそうだ。

 豊かさ、技術、学問など全てにおいて、この世界より発展している国に住んでいたと供述していたらしい。

 しかし彼が活躍することは無く、聴取開始から数日後自殺したと記されていた。

 毎日一分一秒を争うニホンジンは、病んで自らを殺してしまう習性があるとされているため、スローライフに病んでしまって自殺したと考察されている。

 ほかにもいろいろな絵や話が記されていた。

 一か月かけて一通り読んだユリウスは驚きの連続だった。

 異世界に存在する国々はかなり発達していて、一瞬で街を焦土と変える兵器すら所有するのだと。

 何度も読み返し、彼の脳にしっかりと焼きつけた。

その後、本は役目を終えたとばかり、その本はバラバラになり、拾おうとするも形を保つことは無かった。


 それを境にユリウスは世界の枠を超えた"ある目標"に向け努力を積み重ねた。

 様々な兵科を極め、兵法だけでなく、政治や主義、思想、経済を学び、秘密裏に異界兵器の仕組みを利用した魔法を作り出すなど、猛烈に努力を積み重ねた。

 結果、19歳にして一軍の参謀となり、24歳という若さにして7万もの兵を動員した大型作戦の副参謀を担えるようになったのである。


 大規模作戦の副参謀に任命され、いざ作戦内容を聞いた時、ユリウスは驚愕(きょうがく)した。

 作成内容は異世界への侵略とその場にある国家の隷属化――


 ある魔法士が数百年に一度の空間のゆがみを利用した、異世界との接続を可能とする魔法を作り上げたことを発端に立案され、何百人もの奴隷の血を使い、王都から100kmの距離にある聖域の丘に巨大な魔法陣を敷くことにより可能となったのだそうだ。


 ユリウスはこの作戦によってどれほどの不幸を呼び寄せるか理解していた。

 しかし、反対するにもユリウスが読んだ異世界についての本を読んだ者はユリウスのみ。

 多数の有力者と話しても殆ど賛同者を作ることも出来ず、作戦当日を迎えた。


 行き当たりばったりな作戦指示書を見ながら、

「この国にもう未来はない……。」

 ユリウスは呟くも誰の耳にも届くことはなかった。

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