第1章 メルダン王国の衰退 第1話
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~2020年7月23日 0930 東京都大田区~
端のない球体である地球上で極東の島国と呼ばれる、日本。
御上至上主義でありながらも国際的な面子を考え、民主主義を必死に掲げているこの国で4年に1度世界のどこかで行われている競技大会の聖火リレーが行われていた。
会場まであと十数キロ。京急蒲田駅前に差し掛かかった地点。
公平な選考のもと選出されたランナーがトーチを掲げながら走る。
その歴史的瞬間を一目観ようと集まった観客は声援が送る。
ランナーもそれに応え、手を振る。
しかし、その何気ない当り前のような行動が不注意を呼び寄せた。
一人の観客の手から離れた手旗がランナーの手前に落ちた。
観客に手を振るランナーは気付かず進み、そして周りの並走するサポーターも拾い損ねてしまう。
ランナーは落ちていた手旗を踏み、バランスを崩した。
転倒とともにランナーの手から離れたトーチは、アスファルトに叩き付けられた。
――そして数年前に大幅な区画工事が行われた京急蒲田駅前が異界の戦士たちによって焦土と化した。
~2020年7月25日 0930 東京都大田区~
自衛隊のAH-64Dが飛び交い、至る所に噴煙が立ち上り、血の匂いが充満し、救急隊員や自衛隊員が奔走している。
若手の女性レポーターの三村がマイクを片手にカメラを見る。
『三村さん。現地の様子はどうでしょうか。』
三村はスタジオにいるキャスターの声が彼女の片耳につけているイヤホンから聞こえると、血腥さにどことなく放心気味の意識を無理やり引き戻した。
「はい、現場の三村です、現在京急蒲田駅から1キロ離れた地点にいます。テロが起きたと思われる京急蒲田駅周辺では自衛隊や警察、自治体によって大幅な交通規制が敷かれ、我々報道陣も一切入ることを許されていない状態です。しかし、こちらから見える噴煙や、付近に散らばる瓦礫等からもわかるようにとても大きな被害を受けたと予想され、救急車両が頻繁に行き来していることからもけが人も多数出ているようです。」
『行方不明者も多数出ているようですね。』
「はい。被害が大きく、詳しい人数については把握しきれていません。現在も必死の救出活動が行われています。現在政府より発表されている被害予想によると死者数は1万人を超え、けがを負われた方は20万にのぼるのではないかとのことです。いまだテロリストの全体像が見えず、大規模な鎮圧活動は完了したものの実行犯達の潜伏の可能性がある為、依然厳戒態勢が敷いている状態です。」
そう言い切ったところで、カメラマンの高橋がディレクターの指示を受け、三村の背後に映る人影に向いた。
三村はカメラが微妙に向きを変えたのを見て、すぐさまレポートを中断し、カメラの向いた方向へ振り返ると三村の視界にも人影が見ることが出来た。
「人です! 人が見えます!!」
生存者か、救急隊員か、もしくはテロリストか。なんとなく嫌な予感がするも、レポーターとしての使命を果たすべく様子を伝える。
「こちらに、手を振っているのでしょうか!?こちらに向け手を広げています。あれはテロリストでしょうか!? 甲冑のようなものを着ています。」
中世ヨーロッパに活躍した甲冑の騎士のような格好をした者がこちらに向け手を掲げていた。
――そして次の瞬間、手から赤色の光が放たれた。
野球ボール程の火の玉がプロ野球選手も驚愕するスピードで、三村のすぐ横を通過した。
――ガシャン!
背後で数百万のカメラが落下した音がする。
自分の命のよりもカメラを大事に取り扱っていたカメラマンの高橋がそれを落としたということから、それがどういう意味を持つか。尋常ではない事態であることはすぐに理解した。
三村が振り返って目にしたものは、仰向けに倒れていた高橋だった。
「高橋さん!」
三村はすぐに高橋に駆け寄るが、容態を見るとすぐに激しい吐き気に襲われその場に崩れる。
高橋の顔が半分焼けただれ、もう半分が無くなっていた。
「ぐあ!」
数秒も経たず、ディレクターが苦痛の声を上げた。
三村は水気の多い何かが落下した音のする方へ口を押えながら恐るおそる振り向いた。
三村は今度こそ胃の中のものを吐き出した。
チーム思いのディレクターは腹部から分裂していたのだ。
飛び散る血がアスファルトを赤く染める様子が全国に中継され、一時日本国内はパニックに陥った。