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カッコウの子供  作者: 白い黒猫


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3/9

悪寒発熱

 弟に愚痴って少し楽になったとはいえ、根本的な問題が解決したわけではない。陽一は相変わらす問題を起こしまくるし、我が儘言って私をキレさせる。


 もうすぐご飯だというのに、遊んだおもちゃをまた放り出したまま、陽一はDSで遊び続けている。注意しても『コレ終わったらやるから』と言って動かない。そして結局散らかしたまま片づけようともしない。

「そんな言う事聞かないんだったら、もうDSは返しちゃおうかな」

 しつけとして正しいのかは分からないけれど、そう脅かしをかけて言う事をきかせるのが最近の流れ。

「お前が片付ければ良いだろ。分かったよ俺がするよ……」

 陽一は、誰もいない隣に向かってそういう謎の言葉を言いゲームを閉じて立ち上がる。コレは最近増えた陽一の変な癖。私と話をしていても、チラリと視線を違う方向にやり、コソコソと話しかける。一人っ子で一人遊びが多いだけに空想の友達を作ったようだ。言い訳を私にではなく、その架空の友達にする事が多い。そして私が『誰とお話しているの?』と聞いても、『誰とも話してないよ! 一人でしゃべっていただけ』と返してくる。自分でも変な事している自覚はあるらしい。

 最近近所の美衣ちゃんや永馬くんとも仲良くなりちゃんと友達は出来たようなので、そんな一人遊びもしなくなるだろうと気にしないことにした。


 母親という仕事は、一般に気楽で呑気な仕事と思われているようだが休暇もないし、体調崩しても休む事も出来ない。陽一が幼稚園で貰ってきたインフルエンザ。インフルエンザであってもジッとしないで陽一は家中歩き回ったので、舅にうつり、姑にうつりと面倒だけが連鎖していった。三人の看病をした私にもうつり、まだ熱のあるの姑にまだ家事をさせる訳にもいかず、マスクでフラフラになりながらお弁当と朝食を作り夫を送り出し、洗濯回し干してから、倒れるようにベッドに入る。熱を測ってみたら四十度を超えている。怠さに身を任せ眠ろうとするが、舅が部屋に来てはお茶の葉の位置とかティッシュボックスのストックの場所とかを聞いてくる。それに身体のアチラコチラが痛くそれが眠りを阻害する。ようやく眠りに落ちようと現実と夢の合間を漂っていると何か耳障りな電子音が聞こえる。目が覚めると陽一が枕元にいてピコピコ音をさせながらDSで遊んでいた。いつの間にか幼稚園から帰ってきていたようだ。舅が送り迎えはしてくれた事に申し訳ないと思いつつ感謝する。

「陽ちゃんごめん、音小さくしてくれるか、他の部屋でゲームしてくれない?」

「大丈夫、大丈夫!!」

 陽一はそう返す。ボリュームを下げる事もしないし、出ていくつもりもないようだ。体調悪いだけにゲームの機械的な音楽がいつも以上に不快でイライラする。

「音さげないなら、他の部屋に行って!」

「ここでいいの! それよりオヤツは?」

 なんでお互い日本語で話しているのにこんなに言葉が通じないのだろうか?

「……ジイジにいって貰いなさい」

 何故か陽一は不満そうだ。そして子供特有のドンドンという大きな足音をさせ出ていく。部屋から出ていってくれたことにホッとする。遠くで何かギャーギャー大騒ぎする陽一の声がするが、身体の怠さもあり再び眠ることにする。


 ドタドタドタドタ


 猛烈な勢いで走ってくる複数の音がする。

「おかーさん、オバケスナックは?」

 ドアを激しく開け大声叫ぶ陽一に、横になっているのに眩暈がする。

「買ってないかな……うん……ないわね。他のオヤツでガマンしなさい」

 痛む頭を抑えながらそう返す。

「えぇ~こないだ買ってくれるっていったじゃん、約束したじゃんすぐ買ってきてよ」

 態々枕元まできてそう大声で訴えて私を揺すってくる。確かに陽一がインフルエンザの時、あまりにもジッとしてないから、良い子で寝てくれたらオバケスナック買うと約束はした。しかしその後立て続けに家族がインフルエンザで倒れたからそんな暇無かったのだ。熱の所為で陽一の怒鳴り声がいつも以上辛くてガンガン頭に響く。

「ゴメン陽ちゃん、そのあとバァバと、ジイジも病気になって買いにいけなかったの」

 私の言葉に陽一はほっぺたを膨らませる。

「そんなの、イイワケじゃん、タイマンじゃん! ママって本当にツカエないな~」

 一瞬何言っているのか分からなかった。そして意味を理解した瞬間感じたのは目の前が真っ白になって何も見えなくなるような怒りだった。我に返り、手に熱い痛みを感じ、頬を赤くして呆然として自分を見上げている陽一の顔が見えた。子供を感情的に叩いた自分に恐怖を覚えた。

「ママって最低!! ウルサイし、イジワルだし! ママとしてシッカク! サイテー!!

 そんなママいらない! 知らない!」

 陽一の言葉が心に突き刺さる。陽一の為思って叱ってきたことは、この子には何一つ通じてなくて、ただただ嫌われていただけなのだと思うと何も考えられず視界がグラグラする。

「陽一、お前はなんてこと言うんだ!! お前のような子はオヤツ抜きだ! 一人で反省しなさい!」

 珍しく舅が陽一を叱っている声がする。それで初めてここには舅もいたことに気がつくが、感情のまま子供を叩いたことに加えそれを目撃されたことが余計に私を追い詰める。身体が震え涙が出てくる。

「静香さん、子供の言うことだ。気にしなさんな。

 俺達も悪かったあの子を今まで甘やかし過ぎた。俺が叱っとくからアンタはゆっくり寝ていなさい。家の事は俺だってやれるから」

 姑は私の涙を、陽一の言葉によるものと判断したのか、そう私を慰め部屋から出ていった。残された私は一人枕に顔を押し付けて泣き続けた。誰かが頭をなでるような感覚がした。それは小さい子供の手で優しく優しく私を撫でているような。

「陽一?」

 頭を上げてそう呼ぶがそこには誰もおらず、薄暗い寝室があるだけだった。あの自己中心な陽一が人の、しかも母親の頭を撫でるなんてする訳がない。私は叩いて怒らせてしまった子供に慰めてもらう幻をみてしまう自分に笑ってしまい、そのまま横になったら堕ちるように意識を飛ばしてしまった。心も身体もヘトヘトだったから。しかし寝てもなおドロドロとした夢の中でもがき苦しんでいて気持ちよい眠りではなかった。


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