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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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トラップ

 辿り着いた神殿は、暗闇に覆われて……息苦しく重い雰囲気を醸し出していました。

 元々は神聖な建物のはずの神殿がまるで、母さんから昔読んでもらった御伽噺の魔王の城のように思えてなりません。

 もしかすると、この暗闇の中に充満しているものは密度の濃い瘴気なのかも知れませんね……。だったら、早く何とかしないと危険ですよね……。

 ワタシが思っているということは他の冒険者の皆さんも分かっているらしく、ハスキー叔父さんの指示の元……神殿の敷地内へと足を踏み入れました。


「……何も、起きない?」

「罠、でしょうか?」

「モンスターも待ち構えていないし……気配もない、な」

「やることが終わって消えたとか……だったら、良いけど。それはないよな」


 あまりに静か過ぎる神殿の敷地に、ワタシたちは困惑の声を漏らし……周囲への警戒を怠らないようにします。

 そう思いながら、一歩二歩と敷地を歩き……ワタシたちは神殿の前まで辿り着きました。

 ここに向かう間に入口付近を見て行きましたが、酷すぎました。

 聖水が湧き出ている噴水は毒なのか濃い紫色をしながらゴポゴポと泡を放って異臭を周囲に漂わせ、心を豊かにする花々は毒草へと変化していて、木々はモンスターに変容しようとしているのかウネウネと動き始めています。正直……神殿の元々の姿を覚えている人には堪らないと思いました。

 そして、辿り着いた神殿の建物も……真っ黒と化して、見てるだけで何だか不快感が込み上がります。


「気をつけてください……、中は危険かも知れません」

「ああ、分かってるぜ。ギルドマスター……こっからでも危険な臭いがプンプンしてるからよぉ……」

「罠を気をつけて進んだほうが良いみたいだな……」

「じゃあ、俺たちの出番だな」


 自信満々にそう言って、チュー族の冒険者が前に出ました。確か車上の紹介で、罠関連の設置と解除のエキスパートだと言っていましたよね。

 それを思い出しながら、ワタシは地面を注視しながら進んで行くその冒険者の動きを見ていました。

 え、あれ? 今、何か足元が光っ――!?

 その冒険者の足元が光ったことに気がついた瞬間、冒険者の足元から突如火柱が上がりました。

 ジュッという音と肉が焼ける臭いが一瞬だけして……、冒険者が居た場所には人の形をした炭があるだけでした。

 一瞬、幻を見せられているのかと思いましたが、熱を伴った風が頬に当たるのを感じ……これが現実であることを知らしめます。

 その炭がボロボロと落ちるのを見ながら、それを見ていたワタシなのか、近くに居た冒険者なのか……誰かの息を呑む音が聞こえました。

 そんなとき、突然神殿の建物が開かれ……黒鳥の姿をした魔族が姿を現しました。

 誰だ何て言いません。どう考えてもあれが……。あれが……!


「我輩の邪魔をするのは誰である!」

「……え、【叡智】の……クロウ…………」


 周囲に響くような声が嘴から洩れて、冒険者のひとりが震えながらその名前を口にします。

 あれが……【叡智】のクロウ……。

 モンスターは何度も見ていたけれど、初めて見る魔族にワタシの足はガクガクと震え始めました。

 ダメだ! 気をしっかり持たないと……! しっかりしなさいサリー!

 自分に言い聞かせて、荒くなり始めていた呼吸を何とか整えることが出来たと思った瞬間、エルフの冒険者が弓を構えるのが見えました。


「くそっ! よくも、よくもトビを!! 殺してやるっ!!」

「ふむ、心地良い殺気である。しかし、その弓を引いた瞬間、貴様は死ぬのである!!」

「何をワケの分からないことを!! 死ねぇぇ――え?」


 トビ、多分あのチュー族の冒険者の名前だろうと思いながらエルフの冒険者を見ると、あの冒険者とコンビを組んでいた冒険者であることを思い出しました。

 そんなエルフの冒険者を【叡智】のクロウは道端に落ちたゴミのようにまったく関心を持たずにそう言って、その態度により怒りを高めた冒険者が忠告を無視して矢を放ちました。その瞬間、彼の足元が光ったと思ったら石槍が飛び出て、エルフの冒険者を串刺しにしました。

 どうして? 魔法を詠唱した様子も無い、それなのに魔法が放たれている。師匠のように無詠唱で唱えることが出来る? いえ、あれは師匠が特別だとしか言いようがありません。

 じゃあ、詠唱速度が速い? それでも詠唱だから、分かるもの……。

 真剣に悩みながらワタシは地面を見ました。多分、直感だったんだと思います。


「…………え、これってまさか……」

「サリー、どうしましたか?」

「ハスキー叔父さん……、気のせいかと思いますが多分、この魔法は――設置型魔法、トラップマジックだと思います」


 ワタシがそう言うと、初めて聞いたであろうその単語に殆どの冒険者が首を傾げています。

 けれど、どんな魔法なのかを聞こうとしているらしくワタシの言葉に耳を傾けているので、続きを話そうと――ッ!?

 強烈な視線を感じ、その方向を見ると【叡智】のクロウが興味深そうにワタシをじっと見ているのに気がつきました。

 その視線に当てられて、ワタシの身体がまったく動きません。すると、何を思ったのか【叡智】のクロウはワタシに声をかけてきました。


「どうした、娘。早く続きを言うのである!!」

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