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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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ティーガとの戦い・4

大分痛い表現あります。

血生臭いって意味のです。

 彼女を殺すと宣言した、目の前のティーガだった物体を激痛が走る身体を堪えながら、何とか観察したわ。

 正直自分は見覚えがな――いや、彼女にはあったわ。この物体に似た物を見たことが……むしろ、戦ったことさえあったの。

 自分ではない自分。彼が戦った、獣人の国の国境にあった魔物溜(モンスタープール)で目の前の物体によく似た物と。

 そう理解すると、彼の声が少しだけ遠くなっているけど聞こえてきたわ。


『おい、しっかりしろアリス! 大丈夫なのか!?』

『今は大丈夫ですが……、あなたの世界で言うところの……まな板の鯉といった感じですね……』

『何とかしてこの場から逃げ出さないと、やばいぞ!』

『わかって、ます……でも、身体が……動かないんです』

『くそっ!! オレには何にも……何にも出来ないのかよっ!!』

『そんなに、悲しまないでください……それよりも、こっちのほうが、ごめんなさい……。守れなくて……』


 心の中で苛立っている彼に謝りつつ、彼女はティーガだった物体をぼんやりと見ていたわ。

 すると、ついにティーガだった物体による、彼女の殺害が行われることとなったの……それも、最悪な形でね。


『WRRRY――む、いKAンな。なNIカ、意識がKOんダKUシてるNOカ。まA、イい――まずHA、腕かRAダ』


 そう宣言すると、ティーガだった物体から身体の一部が触手となって伸びて行き……彼女の片腕に巻きついたの。

 その姿はまるで蛇のようであると思っていると、肘まで伸びた途端……締め付けが強くなって行き、肉が締め付けられて膨れ上がっていき、骨がミシミシと軋み出し……ある一定値を越えた瞬間、コキャ――という音が耳に聞こえたわ。

 初めは何の音か分からなかったけれど、徐々に触手に巻きつかれた腕が熱くなると同時に……熱を飛ばそうと腕を振ろうとするけれど降れなかったの。触手に巻き疲れているからだけでなく、目の前の腕が他人のものではないのかと思いたくなるほどに感覚が無かったの。

 そこでようやく彼女は自身の腕が折れていることに気が付いたわ。そして自覚したと同時に激しい痛みが腕を襲い始め、声にならない叫びが口から溢れ出たわ。


「――ッ! ――――ッッ!! ――――――っっ!!!?」

『GUハ! よI叫びDA。ヤハリ、HAカいノ悲鳴ハ心地良I――でハ次WO』


 そう言うと、ティーガだった物体から再び触手が伸びていって、もう片方の腕へと巻き付いて――って、ごめんごめん、あんたには怖かったか。

 ……うん、痛いのやだからね。よし、じゃあとりあえず、いろいろあって何とかなったってことで、家に戻ろうか。

 さ、それじゃあ帰ろう。……え、手を繋ぎたい? うん、良いわよ。

 帰ったら父さんと朝ごはんを食べて、パンを作ろうね。うん、焼きたてを食べれるからね。温かいミルクと一緒に食べようか。








 ●










 シュルリシュルリと、触手はアタシの腕へと巻きついて行く。激しい痛みへの恐怖と絶望を感じながら、また同じように腕を潰されるのか……そう思っていると、違っていた。それも悪い方向に……。

 巻き付いて来た触手は、先端を棘のように尖らせると腕へと突き刺さってきた。突き刺された痛みと服に滲み始める血を見ながら、アタシの歯がガチガチとなっていることに気が付いた。


『――! ――い、――――ろっ!!』


 彼が必死に何かを叫んでいるけど、腕とお腹の痛みと魔力切れによる激しい頭痛で良く聞こえません。

 そして、さらにアタシは痛みを感じることになったのです。

 触手が腕に突き刺さったのを確認すると、まるでアタシの恐怖を誘うかのように触手がグルグルと回り始めました。あたしの腕を巻き込むようにして……。

 普通なら曲がれないほどまで腕が回り始め、肘の関節が軋みを上げ……激痛が走り始め、限界を迎えた瞬間――ゴキリと音が響き……アタシの腕は肘のほうで2回捻れていたんです……。

 いや、やめて……アタシの腕はまるで玩具のようにグルグルと回されていき、今度はゴキッっという音が耳元で聞こえて、激しい痛みが頭を襲ってきました。きっと、腕の骨が外れた音だったんだ……。

 その瞬間、まるで自分の悲鳴ではないような絶叫が口から溢れ出して、アタシは意識を失――ドゴォッ! という音とお腹を襲う激しい激痛に、沈みかけた意識は無理矢理浮上させられました。


「おげっ!? げっ――がはっ!! おええぇぇ……!」


 腹の中から這い上がってくる血混じりの胃液は、口の中を汚し――口の中に溜めることも出来ずに、アタシは口から吐き出しました。

 アタシの服には、ティーガの血、アタシの血、アタシの吐瀉物が付いていて、汚くなりすぎていたけれど、そんなことを考える余裕なんてありません。

 そんなアタシにティーガが何かを言っていますが、金属が擦り合わさったような声でよく聞こえない上に、殆ど意識は混濁していました。

 反応が無いアタシを不快と見たのか、ティーガは違う痛みを与えることにしたようです。

 片腕を掴んだ触手が離れると、アタシの髪を一掴み掴むと持ち上げ――それだけで身体を支えるようにしてきました。

 頭皮に激しい痛みが走り、ブチブチという髪が千切れて行くのを感じながら、さらに追い討ちをかけるように両足の腿を触手が貫いていきます。

 痛みが無い場所は無いというほどに身体全体に痛みが走り続け、コキッという音とともに股に激しい痛みが起こりました。

 その度に、アタシの口からは無意識に悲鳴が雄叫びのように洩れて、ティーガは愉悦に満ちているようでした。


『もウ――WA――リだ』


 何かティーガが言っていたけれど、良く聞こえません。そして、ティーガは先程と同じように触手を尖らせると、アタシの心臓目掛けて、放ちました。

 胸を貫かれる感覚、外へとあふれ出して行く何か、そして、そして――。


 興味を失ったかのように、触手は離れて行き……アタシの体は地面に叩き付けられました。けれど、もう痛いのかさえ分かりません。

 徐々に冷たくなっていく自分の身体の感覚を感じつつ、掠れた声でアタシは呟こうとしたけれど……その声が口から出たのかさえ分かりません。


 暗くなっていく、空が――アタシが見た最後の――光景だった。

主人公死亡、ってところで……明日からはしばらくサリーの視点に移ります。


覚えている範囲での傷。

片腕複雑骨折というか、粉砕骨折?

片腕捻じ切られ寸前。

脇腹裂傷。腹部打撲(肋骨骨折)

股関節脱臼。

両足裂傷。

頭部裂傷。

心臓破壊。

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