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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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ティーガとの戦い・2

 ――魔法無力化体質。


 何千人、いや何万人にひとり居ると言われる、特異体質だと彼女が昔読んだ本にそう書かれていたのを思い出していたわ。

 その本には、その特異体質故に大怪我をしたが治すことが叶わずに命を落としたと言う者、その特異体質故に屈強な戦士となって強力な魔法を使うモンスターを退治して名声を勝ち得たという者、その特異体質故に国の研究所へと売られ様々な実験に使われてこの世を呪ったという者。そんな様々な魔法無力化体質の物語が書かれていたの。

 そしてそんなお話だけでしか見たことが無い伝説と呼べる存在を前にして、彼女は前を見ていたわ。


『……正直、アタシでは勝てる見込みが無い気がします』

『じゃあ、諦めて逃げるのか? オレは別に構わないと思うぞ?』

『いえ、逃げません。逃げる気なんて……ありませんっ!!』

『そうか。じゃあ、何とか目の前のティーガを倒さないとな。糸口はきっとあるはずだ……頑張れ!』

『はい、ありがとうございます。……では、行きます!』


 ジッと動かない彼女をティーガは不敵に見ながら、次はどう動くつもりかと見ていたの。

 目の前の人物は魔法主体であろうから、恐れをなしてこの場から逃げ去るのか?

 はたまた、魔法主体と思いきや魔法剣士のように武器を使って接近戦を行うのか?

 それとも全てを諦めて投降でもするのか? けれど、その場合は殺してやろう。

 そんな風に考えていると、彼女は動き出したわ。


「グハハ、さあ……どうするのだ? 逃走か、拳で語り合うか、投降か、貴様はどうす――むっ!?」

「そのどれも、アタシは選びませんっ! 選ぶのは……第4の選択ですっ!!」


 自らを奮い立たせるように彼女はそう叫ぶと、ワンダーランドを構えて次々と魔法の矢を放ったわ。

 火属性の赤、水属性の青、風属性の緑、土属性の茶、けれど……それらの魔法はティーガへと向かって行くのだけれど、ある一定の範囲に入るとフラフラとして、最終的に消失してしまったの。

 それでも彼女は何度も矢を撃ち出すと、ティーガに向けて放ったわ。でも、先程と同じように矢は最終的にティーガに命中せずに消失したわ。


「グハハ、何度やっても無駄だ無駄だ! いい加減諦めろっ!!」


 そう言うと、ティーガは一歩一歩彼女へと歩き出したの。まるで死神が近づいてくるかのようにね。

 それでも彼女は諦めずに、ワンダーランドから魔法の矢を撃ち出し続けたわ。そして、何度目からか分からないけれど彼女の頭にキリキリとした頭痛が生じ始めたの。

 多分、これが魔力を使い過ぎたときに起きるという痛みなんだろうと考えつつ、彼女は痛みを堪えたわ。

 今この状態で、疲れてしまっているのを顔に出してはいけない。見せたら、隙を見せることになる。

 そう理解して、彼女は迫り来るティーガを見据えたわ。

 ……けれど、現実って残酷なものでね…………次の魔力を込めようとした瞬間に激しい頭痛が彼女を襲って、クラリとよろめいてしまったの。

 そして、それを見逃すティーガではなかったらしくってね、一気に距離を詰められると彼女は頭を掴まれ……地面に叩きつけられたわ。


「グハ! 魔力切れか?! 儂は魔法を無力化すると知っておるのに、馬鹿なことをするものだ!」

「ええ……、かなり馬鹿だって思うわ。だけど、今のアタシは魔法が取り柄だから仕方ないでしょ……」

「そうかそうか、だが無駄だったな! 何度も言うが儂に魔法は効かん!」


 荒々しく叫ぶと、ティーガは吊り上げた彼女をもう一度地面へと叩き付けたわ。

 地面に叩き付けられての激しい痛みと身体の軋みを堪えつつ、時折身体の奥から喉を伝って込み上げる吐き気を彼女は味わっていたわ。

 だけど、彼女は決してワンダーランドを手放そうとはしなかったの。普通なら、激痛に耐えかねて持っている物も捨てたりするはずなのにね。

 そして……そんな彼女の様子にようやく不信感を抱いたのかティーガは、叩きつけるのをやめたわ。


「貴様は何を考えている? よもや、この状況から逆転する方法があるとでも言うつもりか?」

「あり、ますよ? 逆転の手は……」

「ほう? 中々面白い冗談を言う。どれ、最後の言葉として聞いてやろうではないか」

「ティーガ、あなたは自分の体質を魔力無力化だと思ってるみたいですが……それは違います」

「………………………………」

「あなたの体質は魔力を無力化ではなく……属性(・・)の干渉を妨げるだけです……」


 命を握っているのだから、変な動きをしたら迷わず頭を潰すようにしながら、ティーガは彼女の話を聞いていたわ。

 そして、自身の体質が思っていたのと違ったのを知ったの。

 けれどそれを言ったからと言って、彼女が何か出来るわけがないのだ。


「そうかそうか、感謝するぞ。儂が知らなかったことを教えてくれて。だが、これで終わりだ……死ね!」

「だからそう――、純粋な魔力だけをぶつけたらあなたを倒すことが出来るんです……こうやって――ッッ!!」


 このときを待っていたらしく、彼女はワンダーランドをティーガの胸に押し当てると、今までワンダーランドに溜め込ませていた魔力を解き放ったわ。

 瞬間、ワンダーランドから透明な矢が撃ち出され――ティーガの胸へと突き刺さったの。

 そして、自身の物ではない魔力が体内に入ったがために反発を起こし、ティーガの体内をずたずたに引き裂いたわ。胴体も腕も脚も全体の筋肉が悲鳴を上げて、血が噴出していき……緩くなった手から彼女の頭は離されたの。


「き、きさ――まっ!?」

「アタシの勝ち……ですね。どうですか、アタシの魔力は……」

「さい――あくだっ!」

「そうですか……だったら、その最悪な気分を抱きながら――死んでください」


 彼女は静かにそう言ったの。その直後、ティーガの体内を巡る彼女の魔力は許容量を向かえて……外へと弾けとんだの。

 所謂スプラッタな光景よ。

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