小さな命
彼女たちは王城に向かうために住宅街を抜けて街の中心を通るというルートを使って移動していたんだけど、その間にもモンスターが襲い掛かってきて、相手取りながら生き残りが居ないか探していたんだけど……見つかるのは殆ど死体ばかりだったの。
恐怖に歪んだ表情で最後を迎えたであろう老人、どんな顔をしていたのか分からないほどに焼け焦げたけれど元は手を繋ぎあっていた兄弟か友達の2人組、元は美しかったであろうがモンスターに食い散らかされてボロボロに成り果てた女性。そんな様々な死体ばかりを見続けて、生きている者は居ないのではないかと絶望を心で抱きつつ……彼らは王城を目指していたわ。
…………っと、ごめんごめん。ちょっとボーっとしてたわ。続けるわね。
けれど、王城へ向かう途中の商店街が並んでいた街並みで彼女の足はピタリと止まったの。いきなり立ち止まった彼女に少しでも生存者を助けたいために王城に向かいたい冒険者たちは不審に思ったみたい。
「おい、ゆうしゃサマよ。早く行かないと間に合わねぇだろ!」
「それとも何か? 生き残りでも居るってのかよ?!」
「王城にも結界魔法を使える人物は多く居るからまだ大丈夫かも知れないけど、急がないと間に合わない!」
「少し――――黙ってて」
冒険者たちが苛立ちながら急かすけれど、その声を無視して……静かにけれど全員に届くように呟くと周囲から急かす声は止んだわ。
モンスターの様子を伺い、何時でも襲うことが出来ることを知らしめる吐息……。何が起きるのか黙って彼女を見ているけれど、周囲の気配に集中する冒険者の唾を飲み込む音。そして――。
瞬間、彼女は瓦礫となった元は何かの店に向かって駆け出したわ。その速度は人よりも、どんなモンスターよりも、素早く電光石火と言っても過言ではない速さだったの。
周りは、一瞬で消えた彼女に目を点にさせて何処に行ったのかとキョロキョロとしたわ。その直後に甲高いモンスターの断末魔とともに瓦礫が砕ける音が響いたの。
それに冒険者たちは身構え、周囲を警戒しながら断末魔が聞こえたほうにも目を向けたわ。
それからしばらくして……瓦礫の中から彼女は戻ってきたわ。その手には1人の子供と1人の赤ん坊を抱いて……ね。
そして、その赤ん坊を唖然としている冒険者へと彼女は差し出して、子供をその隣に居た女性の冒険者に渡したの。
「……母親は、2人が逃げ込んだ地下倉庫の入口を塞ぐようにして死んでいました。保護をお願いします」
「あ、あか……ちゃん? それと、こども……?」
「い……生きてる、のか?」
呟きながら、受け取った赤ん坊の頬をツンツンと軽く突くと……イヤだったのか、泣き声をあげ始めたわ。
その泣き声を聞いていた子供のほうも、生きていると理解したみたいで涙を流し始めたの。そして、生きていることに安堵した冒険者たちの数名から鼻を啜る音が聞こえたけど、彼女は何も言わなかったわ。
けれどこのまま生きていた者が居たことに感動している場合ではない、そう理解している冒険者たちも鼻を啜ると王城のほうに視線を向けたの。
「赤ん坊と子供は、俺たちが責任を持って見ます。だから、早く進みましょう!」
「任されたからには、無事に守れよ!」
「はっ、はい! ごめんね、もうちょっと我慢しててね……」
保護された子供と赤ん坊は、彼女に礼を言ってきた冒険者2人が面倒を見ることになったらしく、男性のほうは胸を張っていて……女性のほうは子供に優しく語りかけていたわ。そして子供も分かっているみたいで、コクンと頷いていたの。
それからモンスターを討伐しながら、着実に王城を目指して……ようやく王城前の巨大な門の前へと辿り着いたわ。
王城前には無数のモンスターが居ると思っていたけれど、どうやら王城に張られた結界はある程度のモンスターの攻撃は防ぐうえに、ダメージを与えるというものだったみたい。
その証拠に結界前では焼け焦げたモンスターの死骸が大量に見られて、それらを崩しながら大型のモンスターたちが休む間も無くドシンドシンと結界に体当たりしたり、爪を立てていたわ。
そんな様子を虎が二足歩行したような風体のモンスターが見ていたの。けれど彼女たちの気配に気がつくとこっちのほうへと振り返ったの。
「グハハ、ここまで辿り着くとは褒めてやろう。だが、ここまで来たからには全てを破壊する! 王都も、貴様らもだ!!」
「――――っっ!! な、なんだコイツは……いや、コイツが……【破壊】のティーガか!?」
「グハ、そうだったそうだった。名乗るのを忘れていたな。いかにも、儂の名はティーガ! 貴様らが呼ぶ四天王だった魔族、【破壊】のティーガだ!!」
【破壊】のティーガはそう声高々に叫ぶと、持っていた鈍器のようなバトルアックスを振るったの。
直後、ガラスが砕けるようにして、王城の結界は破壊されたわ。
ボス戦突入……?