王都突入
『礼、言われたな……』
『……はい』
『顔、ニヤけてるぞ?』
『えっと……あんなことを言われたのは、初めてだったので……その、嬉しいのか恥かしいのか分からなくて……』
『素直に喜んで良いと思うぞ?』
『この戦いが終わったらそうします』
心の中で彼と会話しつつ、彼女は心を整え始めたの。
大丈夫、大丈夫……自分は冷静だ……ってね。
それで少し落ち着いてから、彼女も戦いの地である王都に向かって移動し始めたわ。
王都の入口は東西南の3つがあるみたいだったけど、冒険者たちは南門からモンスターを相手にしつつ中への進入を試みていたみたい。
というよりも、東門と西門の辺りには先程襲ってきたけれど、呆気無く彼女が消し炭にした巨大な虎モンスターと同じ種類のモンスターの姿が数頭ほど壊れた城壁の外側から見えたみたいだから、冒険者たちも行くのは無謀と考えたのね。
冒険者たちは自分たちの力でも倒すことが容易なモンスターたちを相手にしながら、着実に王都の中へと攻め込んで行ったわ。
そして、城壁の中に入ると賑やかであったであろう街並みは瓦礫と炎に彩られていたの。
「ひでえなこりゃ……、おいっ! 誰か居ないのかっ!」
「生きてたら返事をしてくれっ!!」
「っ! しっかりし……くそっ! モンスターめ……!」
城門の中に入るとモンスターも少なからず距離を取り始めたから、戦う者と周辺の生存者を探す者に分かれたのだけれど……周囲から聞こえるのはモンスターの唸り声や獰猛な鳴き声ばかりで、生存者を探す声からの返事はまったく無かったの。
時折、倒れている人を見つけて起こすけれど、事切れていて抱え起こそうとした冒険者から怒りの呟きが聞こえたの。
そして彼女も、変わり果てたであろう王都の街並みに表情を歪めていたわ。というか、これが基本的な街並みだったら酷すぎるけど、それは絶対に無いわよね……うん、ない……わよね。
「ひど……すぎます……」
『大丈夫か? ハガネのときは、ここまで酷くなかったけど……これは、あんまりだな』
『蹂躙……っていう言葉が当てはまる状況ですね……』
『だったら、早く王城のほうに向かったほうが良いか? そこなら逃げ込めた人たちも居るはずだろうし』
「はい。そうしてみます……目指すは、王城」
心で彼と話をしながら、彼女は目的地を自分自身に告げるように呟いたわ。
そして王城に向かうために、一歩進んだ瞬間……崩れた街並みの隙間を縫うようにして、小型のモンスターたちが襲い掛かってきたの。
戦っている冒険者は大通りから来るモンスターの相手で手一杯で、生存者を探していた冒険者たちは急に現れたモンスターを相手にしようとしたけれどモンスターが素早い上にそれらの冒険者は魔法使いや斥候などの役割を与えられた者ばかりだったわ。
詠唱が出来れば対処出来たかも知れないけれど、こう素早いモンスターと魔法使いは相性が悪いらしく詠唱する暇を与えられず……魔法使いは杖でモンスターを攻撃しようとするが避けられてしまい。斥候のほうは元々重い装備を持たないようにしているために、小さめのナイフで対処しようとしていたけれど決定打となる攻撃は無かったの。
モンスターもそれを理解していたからか、彼らを小馬鹿にするようにちょろちょろと動いて、相手をする冒険者を疲れさせると一撃で命を狩るべく一斉にモンスターたちは冒険者たちの首筋を狙ってきたわ。
突然の行動に冒険者たちはその場で固まってしまい、迫り来る死から逃れることが出来なかったの。
多分何名かの冒険者は死を覚悟したり、死んだと思ったりしたでしょうね。でも、そうはならなかったのよ。
どうしてかって? それはね、青白く光る矢がモンスターに突き刺さったからよ。そして、矢はモンスターを突き刺したまま別のモンスターへと向かっていったの。
けれど一瞬の出来事だったから、それを見ていた冒険者は居なかったみたいで恐る恐る目を開けて、何時の間にか居なくなっていたモンスターに目を白黒させていたわ。
自分たちは今、死と直面していたはず。それなのに何故無事なのか? ってね。そんな冒険者たちを見ながら、彼女は構えていたワンダーランドを下におろしたの。
『上手く行って、良かったです』
『『収束のマッドハッター』に『拡散のトランプナイツ』と来て、『誘導の……ホワイトラビット』ってところか?』
『もう好きに呼んでください……。でも、このワンダーランドってどれだけの特性を秘めているんでしょうね?』
『収束、拡散、誘導は分かったけど、あと2つあるのは分かるってだけでどんな特性なのかは分からないな』
そんな話を心でしながら、彼女は王城に向けて移動を開始したわ。
ちなみに『誘導』は素早く敵だけを打ち抜く特性を持ってるから、雷と相性が凄く良いみたいだったの。
何か妙に厨二心がくすぶっています。