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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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武器の特性

 呆気に取られた表情で彼女は呟いたけど、それを見ていた他の冒険者たちも馬鹿みたいに呆気に取られていたわ。

 正直、彼女もここまでの威力を発揮するなんて思っても見なかったし、使ってみてようやくこの武器の特性を理解したんだもの。

 クロスボウみたいな形をしている彼女のための魔法補助道具、その特性は幾つもあって、その一つが魔力を撃ち出す際に、魔力を拡散させることなく相手に当てるという『収束』だったわ。

 要するにね、彼女が今まで使っていた魔法のやりかただとね、10の力で打ち出したら1が10個に分散されるようになっていたの。

 けれどこの武器で打ち出すと、10のまま相手のほうへと打ち出してくれて、命中するとともに10の力をその場で解放するというものなのよ。つまり、焼き魚は今までだと中まで焼けずに生焼けになってたのが、炭になって食べれなくなるっていうようになったのよ。

 それを理解した途端、心の中の彼が語りかけてきたわ……厨二心を擽られたとか言ってね。


『よし、この収束特性は【マッドハッター】って名前にしようぜ!』

『な、何でそんなにイキイキしてるんですか!? あと、どうして不思議の国っ!?』

『いやー、ちょっとこう言う面白そうな武器が出来上がって、特性が幾つもあるんだったら名前を付けたくなるだろ? あと、アリスに因んで付けてみた』

『ある意味知らなければ良かったんですけど……でも、さしずめこの武器は【ワンダーランド】とでも付けたら良いですか?』

『え、そう名づけていいのかっ!? 良いんだよなっ!!』

『だ、だから何でそんなに……はぁ、もういいです。好きに名前を付けていってください』


 話すようになってから、ある意味そんな彼の姿は初めて見たと思いつつ、彼女は諦めて駆け出そうとしたわ。

 けれど、もう一つの特性が使ってくれと囁いてる気がしたから、使うことにしたの。

 魔力を循環させて、『聖』の属性を与えるとともにワンダーランドへと送り込むと球の一つに光が灯ったわ。

 それを見届けてから、彼女はワンダーランドを冒険者たちが走る方向に構えたの。

 いきなりあれだけの威力の攻撃を放った武器を構えられた冒険者たちは溜まったもんじゃなかったわね。


「て、てめぇ!? まさか、俺たちも殺すつもりなのかっ!?」

「ひ――ひぃっ!! し、死にたくねぇ!! 死にたくねぇよぉ!!」

「ひ、人殺しぃッッ!!」

「五月蝿い、黙っていてください」

「くそっ! だったら、やられる前にやってやるよぉ!!」


 阿鼻叫喚の悲鳴が周囲に木霊し、泣き叫ぶ者……恐怖に怯え戸惑う者、彼女を罵倒する者……そして怒りに任せて彼女へと襲い掛かろうとする者が居たわ。

 それを一切合財無視して、彼女は躊躇うこと無くワンダーランドの引金を引いたの。

 直後、ワンダーランドから光の矢が放たれて、彼女に襲い掛かろうとした冒険者を貫いて……そのまま、拡散すると冒険者たちへと光の矢が突き刺さったの。

 光の矢に胸を貫かれた冒険者は自分は死んだと心で思ったけど、貫かれた箇所から身体全体に広がるように温かい光が包み込み……光が身体を覆うとジワジワと身体の中に染み込んでいったわ。

 光が消え……しばらく呆然としていた冒険者だったけど、すぐにハッとして彼女の胸倉を掴んだの。そりゃそうよね、いきなり自分たちに向けて、巨大な虎モンスターを消し炭にした武器を構えたんだもの。怒らないのが可笑しいわよ。


「クソガキ! てめぇ、俺たちを殺す気か!? もうゆうしゃだとか関係なく、殺してやろうか!!」

「それが癒してあげた人に対する言い草? そりゃ、いきなりで悪かったけど……」

「あん? 何言ってやがる?! 癒すって、何処をどう癒したってんだよっ! 現に、俺の傷はまったく癒えてな……癒え、てる?」

「お、おい……お前、傷は大丈夫なのかよ?」

「あ……ああ。≪回復≫が間に合わなかったはずなのに……なあ?」

「え、ええ……わたしの≪回復≫じゃあもう無理だったはずです……でも、傷が塞がってる……?」


 胸倉を掴む冒険者の手が緩む中、傷だらけだった冒険者や助からないと思われていた冒険者たちが驚きを通り越して……現実を理解していないといった声が周りから聞こえたわ。

 ちなみに彼女の胸倉を掴んでいた冒険者もモンスターの引っかき攻撃を受けて、片腕が上がらなかったのだから傷ひとつないどころか支障が起きないほどに回復していることに驚いていたみたい。

 そんな冒険者を彼女はジッと見ていると、自分がどんなことをしているのかを思い出したみたいで彼女の胸倉から手を離したわ。

 解放された彼女は何も言わずに一人で前を歩き出して……しばらくしてから振り返ったわ。


「傷も癒えたんだから、早く王都を奪還しに行きましょう」

「っ! わ、分かってることを言うなクソガキがっ!! 行くぞっ!!」

「「おっ、おうっ!!」」


 掛け声を上げて、一斉に彼らは王都に向けて駆けて行ったわ。

 それを見届けながら、彼女は眩暈がするのを少しだけ堪えてから軽く深呼吸をして、魔力を整えたの。

 ワンダーランドの2つ目の特性、それは『拡散』だったの。

 え? 拡散するのを抑えるために収束するんじゃなかったのかって?

 うん、そうなんだけど……、前にフォードに使って分かったんだけどね、彼女の≪回復≫は10で回復をしたら回復が強すぎるの。

 だから、強すぎるなら1でも2でも大分回復は見込める。そう考えて、彼女は≪回復≫を拡散させて一斉に冒険者たちを回復させたのね。


『名づけるなら、【トランプナイツ】って所か?』

『……ああ、トランプっていっぱいばら撒きますからね……』

『ああ、そういうこと…………で、大丈夫なのか? 使いやすいからって張り切りすぎてると倒れるぞ?』

『……だ、大丈夫ですよ。まだまだ頑張れますから』


 どう見ても魔力を使い過ぎて、フラフラになりかけているのをばれないようにしていたけど……周りの冒険者たちには、ばれていないみたいだったわ。

 そんな彼女へと近づく数名の冒険者が居て、それに気づいた彼女は振り返ると一斉に頭を下げたの。

 いきなりのことで、反応に困った彼女は目を点にしたわ。


「え、っと……?」

「あ、ありがとうございました。ゆうしゃ様! お陰で、彼が助かりましたっ」

「ガキだの小便臭いだの言って、その……すみませんでした。けど、助かりました」

「ど……どういたしまして」

「それじゃあ、失礼しますねっ。頑張って王都を取り戻しましょう!」

「あー……期待してるぜ、ゆうしゃさま」


 感謝の思いを込めた微笑みを向けるニャー族の女性と、悪態付いていて恥かしいワン族の男性がそう言って、歩いていったわ。

 それを見届けながら、彼女はしばらくその場で呆然と立っていたの。

 でも、その顔は感謝されたことに対しての気恥ずかしさと嬉しさが混じった表情をしていたの。

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