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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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いろいろな眼差し

 助けられたという感謝を込められた眼差し、使った魔法の威力や未知の魔法に驚きを込められた眼差し、自分がその力を手にしていたらもっと上手くできるという嫉妬と羨望の眼差し。

 そんな色んな感情が込められた視線が彼女へと向けられていたわ。けれど、それらを塗り潰すほどにドロドロとした感情を込められた視線が周囲から突き刺さっていたの。

 素性もまったく知らず、一応ギルドマスターの客人の一人と噂は聞いていたが……オドオドとしていた人間の少女。そして人間としては異常過ぎる魔力と魔法の威力は人間を越えている。

 そんな人物が何かの拍子に敵になったら自分たちは、あのモンスターのように黒焦げになって殺されるだろう。そんな未知の者に対する恐怖の眼差しが感じられたわ。


「おい、クソガ――嬢ちゃん。てめぇいったい何者なんだよ?」

「え、っと……アタシは……」


 正直どう言えば良いのか彼女は悩んだわ。

 そんなとき、心の中で彼が話しかけてきたの。


『別に言っても良いと思うぞ? というか、そのほうが怪しまれなくて済むと思うし』

『そう、ですね……。じゃあ、言ってみます』


「だんまりを決め込むつもりなのか?」

「……いえ、少し考えごとをしてただけです。アタシは……ただのゆうしゃですよ」

「ゆ、ゆうしゃ……なるほど、だからあれだけの力を……?」

「でも、強すぎやしないか?」

「もしかしたら、神の祝福が凄いんじゃないのか?」


 彼女がゆうしゃだと名乗った途端、驚きと同時に冒険者の殆どは納得したの。

 やっぱり、ゆうしゃと言うのは一種のネームバリューがあるのね。ああ、ネームバリューって言うのは知名度って言う意味よ。

 けれどやっぱりゆうしゃと分かったとしても、彼女の力が異常過ぎるのは変えようの無い事実だから未知の存在への恐怖は拭い去られたんだけど……恐怖であることは変わりなかったわ。

 だけどそのままだと、一向に王都に行かないと判断した彼女はその中で一番恐怖の視線を送りつけている冒険者に視線を送りつけたの。


「アタシに怯えるよりも先に、王都からモンスターを排除したほうが良いんじゃないんですか? 今も王都の住民は助けを求めているはずなのですから」

「~~~~っっ!! わ、分かってるっ!! お前らっ、早く行くぞっっ!!」

「「お、おぅっ!!」」


 顔を赤くしながら冒険者は叫ぶと、それに続いて他の冒険者たちも声を上げて王都に向けて走り始めたわ。

 一番恐怖の視線を送りつけていた冒険者があの中で一番偉いということはもしかすると、周りへの危険を考えていたからでしょうね。

 モンスターを追従するように走り始める冒険者たちを見つつ、彼女も立ち上がると移動し始めたの。

 けれど、酷くは無いけどほんの少し脱力感を感じている身体の様子に気づくと、あの魔法の使いかたは使い勝手が悪すぎるというのが理解できたの。

 心で思ったからから、すぐに彼に伝わったらしく声がかけられたわ。


『いっそのこと、杖でも作ってみるか?』

『いえ、正直なところ杖は補助具といえば補助具なのですが、詠唱を高速化するためのものなので……アタシの場合、方向性をしっかりしてたほうが良いって気がするんです』

『それは……何となくな勘ってやつか?』

『はい、多分……勘ですね。でも、もしかしたら、アタシの隠れた才能がついに――』

『それは無いから。それは』

『せめて、少しで良いから良い夢を見させてくださいよぉ!』


 心の中で話をしつつ、顔を百面相にしないように頑張りながら彼女は漠然としない方向性のまま、武器を手にすることにしたわ。

 具体的にはどうするのかって言えば、手が入るほどの大きさの≪異界≫に手を入れると彼女は目的の金属を取り出すとすぐに≪異界≫を閉じたわ。正直開き続けていると魔力が持たないからね……。

 透き通るような透明に近い色合いの金属……、ミスリルマイマイから取り出したミスリルであろう金属。

 そして彼女の勘が告げていたの、この金属に魔力を与えて≪創製≫すれば求めている物が手に入るってね。

 その勘を信じて、彼女は金属へと魔力を注ぎ込んで≪創製≫を使ったわ。

 すると、一瞬だけ激しい眩暈に襲われたけど……魔力を注がれて、方向性を金属任せに≪創製≫が開始されたの。

 ちなみにこんなことをやっているんだから、周囲からは何が起こるのかという恐怖の視線がチラホラ来ていたけど……そんなことは知ったこっちゃ無い彼女だったわ。

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