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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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彼女の異常さ

 ギラギラとした瞳は冒険者を射抜き、涎を垂らす大きな口は鋭い牙を光らせ……体勢が整っていない冒険者を食い殺そうとモンスターの大群は襲い掛かってきたわ。

 ある冒険者は拳一本を犠牲にしてでも攻撃を対処しようとし、ある冒険者は魔法は無理と判断して腰に差したナイフを取り出そうとし、またある冒険者は無様にも悲鳴を上げてモンスターに恐怖したの。

 そんな冒険者とモンスターたちの間へと……突如として、眩いほどの閃光が奔ったわ。と言うよりも、冒険者たちの後ろから……モンスターの大群に向けてね。

 光が奔った直後、襲いかかろうとしたモンスターは鳴き声一つ上げずに、プスプスと焦げた臭いを漂わせながら、中空から地面へと落下したわ。

 いったい何が起きたのか分からない冒険者たちだったけど、光が奔った方向を向くと……彼女が座ったままの姿勢で、手を前に突き出していたの。


「なっ!? クソガ、キ?」

「おいおい、嘘だろ? アレだけの数を一瞬で?」

「今のまさか……て、天の光?」

「しょ、小便臭いガキじゃなかったのかよっ!?」

「――って、呆然とするな! まだモンスターがやってくるっ!!」


 見掛けに寄らない彼女の実力に冒険者たちが呆気に取られていたみたいだったけど、一割の冒険者はそんな規格外なことが起きて混乱したらいけないと感じているのか、前を見てそう叫んだわ。

 その声にハッとした冒険者たちは立ち上がり、再び武器を構えるとモンスターへと立ち向かって行ったわ。

 厚い鉄板のような大剣を振り回したり、巨大な鉄球に大量の棘が付いた武器を振り回し、モンスターを叩き斬ったり叩き潰したりするパオ族の戦士たち。

 弓を引いて矢を放つと即座に次の矢を構えて撃ち出す……フードを目深に被り種族を明かしたくないらしい女性の弓使い。

 呪文の詠唱を唱えて、与えた属性の魔法を撃ち出して行くニャー族、ワン族の魔法使い。

 そんな彼らを飛び越えるように跳躍し、よりモンスターの近くまで彼女は近づいたわ。

 先程見た光景を信じられないけど、そんな年端も行かないような少女が自ら前へと飛び出したことに驚き、彼女に帰れと何度も言っていた冒険者がすぐに戻れと声を荒げたの。


『おい、大丈夫なのかアリス?』

『多分、大丈夫だと思います。あなたみたいに加護は無いですが……無くても大分高いですし』


 心配する彼の言葉に、淡々とそう言って彼女は周囲を見渡したわ。

 オドオドしていたのが嘘のように彼女は、魔力を体内で循環させて『火』の属性を与えると……モンスターの集まってる中心で発動するように仕掛けたの。

 何故だか、そう出来ると感じて行ったけど……予想通り、モンスターの集まる中心から爆裂音とともに熱風が飛び込んできたわ。それと同時にモンスターたちの絶叫が聞こえたから……大爆発したんでしょうね。

 モンスターがどれだけ討伐できたかを見るよりも先に、彼女は再び魔力を循環させ……今度は『風』の属性を与えて解き放つと、モンスターへと荒れ狂うほどの突風が吹き抜けていったの。

 けれど、突風が吹きぬけた場所に立っていたモンスターたちは一歩も動くこと無くその場でジッとしていたわ。え、その魔法は効果が無かったのかって?

 ううん、違うわ。


「風で押し戻すつもりだった――いや、違うッ!?」

「お、おいおい……風の刃って横方向に一直線なだけだろ?!」

「うっ――し、しばらくは肉食べられないかも……」

「な、何なんだよあのガキは……普通アレだけ使ったら倒れたりするだろっ!!」


 様々な声が聞こえる中、目の前のモンスターたちは細切れになるようにして崩れていったわ。

 それを見てようやく、危険すぎる人物が居るとモンスターたちも理解したのか……ジリジリと距離を取り始めたの。

 そんなモンスターたちに、彼女が手を前に出そうとするとビクリと身構えて警戒したわ。だけど、彼女は何も言わずに手を前に突き出すだけだったの。

 要するに、まだ襲い掛かってくる気か? 死にたくないならすぐにこの場から立ち去れ。そう暗に言っていたの。

 モンスターたちは野生の感からか、そう言ってるのを理解したみたいだったけど……敵意を向けて今にも襲い掛かりそうなモンスターと、迂闊に手を出すべきじゃないと理解しているモンスターに分かれていたの。

 そして、獰猛なモンスターが飛び掛ろうとした瞬間、彼女の手からは光が放たれて飛び出したモンスターは黒焦げになっていたわ。

 結果、これらのモンスターを率いているらしい虎のような姿のモンスターがひと鳴きすると、大量のモンスターたちは一斉に王都へと後退して行ったの。

 それを見ていた殆どの冒険者たちは、安堵の溜息を漏らして急いで怪我をした箇所の治療を開始したわ。

 そして彼女も、緊張を解いてその場に座り込んだわ。


 そんな彼女を……冒険者たちは様々な感情を込めた瞳で見つめていたの。

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