王都に向けて
おはよう、もう起きたの? まだ寝てても良かったのに……え、目が冴えちゃったの?
んー、じゃあ仕方ないか。じゃあ、ちょっと散歩でもしてこようか、父さんもまだ目が覚めていないみたいだし。
やったーって、そんなにはしゃがないの。
……さてと、それじゃあ行こうか。
ぅんん~~……っはぁーっ。あー、朝の空気が美味しいー。
ほら、あんたもやってみな? すぅ~~……はぁ~~…………。ね、気持ちいいでしょ?
とりあえず、今日は何をしようか? あ、パンを作り貯めするのも良いよね。他にもお菓子とか作ったり……うん、話の続きはするよ。大丈夫だから。
っと、そうだ。良い朝だから、軽く体操でもしようか、あんたも真似をしてやってみなさいよ。身体が良くなるから。
じゃあ、始めるよ。腕を大きく伸ばして背筋を伸ばす運動ー。
はい、深呼吸ね最後にー……すぅ~……はぁ~……すぅ~……はぁ~……。
……ふぅ、どうだった? 少しはすっきりしたでしょ? うん、気持ちよくなったか。よかったよかった。
じゃあ、少しだけお話をしてから帰ろうか。そうしたら、父さんも起きてるころでしょうしね。
とりあえず、彼女が乗った馬車が出たところからだったわね。
「おい、クソガキ。何でお前が馬車に乗っているんだ?」
「何でって……アタシも王都に向かうからじゃないですか」
「はぁっ!? 何言ってやがる! ガキはガキらしく、部屋で縮こまっていりゃあいいんだよっ!」
「そうですか。ですが、馬車は王都に近づいています。ここから戻っても、落としても面倒なことにしかならないんじゃないのですか?」
「…………えぇい、くそっ! これだから、こういうクソガキって言うのは手が付けられねぇんだっ!!」
やけに彼女へと突っかかってくるパオ族の冒険者に対して、彼女は淡々とだけど……少しだけ偉そうに言ってみたわ。
そして、その態度がパオ族の男性にはそういう年頃と見られたのか、苛立ちながら彼女から視線を反らしたの。
ちなみに他の獣人たちはどうせ死ぬだろうと我関せずといった態度を貫いていたわ。それに気づいていたから、彼女はこっそりを息を吐いて、心を落ち着かせたの。
でも、殆ど勢いで馬車に乗ったけど……傍から見たら現在の彼女は丸腰なのよね……。
ようやくそれに気がついた彼女だったけど、馬車を引くバッファローホースがけたたましく鳴いたの。
『ブモオオオオオオオオォォォォォォ!!』
「な、なん――っ!?」
「モンスターがこっちに近づいてくるッ!! 王都はどうなってるか分からないが、今は目の前のこいつらを何とかするしかねぇぞ!!」
「マ、マジかよっ!? くそっ! まだ掛かると思ってたのによぉ!!」
「愚痴を零してる場合じゃないぞ! 速く迎撃しろっ!!」
焦る馬車の前を見る冒険者たちの声を聞きながら、彼らの隙間から前を覗いた彼女の目に飛び込んだものは……地を駆けてこちらへと近づいてくる獣の姿をした無数のモンスター。
そして、近づいてくるモンスターの対処をするために魔法が使える冒険者と弓を使える冒険者が立ち上がり、攻撃を仕掛けるのが見えたの。
長い詠唱とともに放たれた火球、水流、岩石、風圧。張り詰めた弓から風切り音とともに放たれる10本の矢。
それらが地を駆けるモンスターに命中、回避され、モンスターを燃やし、押し出し、潰し……地面を濡らし、穿ち、砂埃を上げ……顔に矢が突き刺さり、脚に刺さり、払い除けられていく。
魔法と矢の絨毯爆撃を掻い潜って、馬車を引くバッファローホースを狙おうとするモンスターへと、槍を持つ冒険者たちが貫いて攻撃をしていく。
けれど、どんなに冒険者たちがモンスターを攻撃していたとしても、モンスターの数は多く……。
『ブモ、モ、モ、モ……モ、モォォォォ――ブモッ』
「ちくしょうっ! バッファローホースがっ! お前ら、横転するから気をつけろっ!!」
「「くそっ! 振り落とされるなよっ!!」」
「――っ! っ……くぅ!!」
バッファローホースの断末魔とともに、冒険者の声がして――直後、馬車が激しく左右に揺れたと思ったら、前で何かが倒れる感覚を感じて、馬車が横転したの。
けれど横転する寸前に馬車を操車していた冒険者の掛け声があったからか、馬車上の冒険者たちは身体を丸めて衝撃に備えていたわ。
彼女も襲い掛かる衝撃に備えて丸まっていたから、酷いことにはならなかったの。
そしてすぐに冒険者たちはモンスターと戦うべく、横転した馬車から飛び出すように地面に這い出たわ。
直後、波のような勢いでモンスターたちは冒険者たちへと襲い掛かり、眼前に迫った脅威に彼らは対応出来なかったわ。