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あるゆうしゃの物語  作者: 清水裕
人の章
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王都の危機

 それで、部屋から飛び出した彼女はどんな戦いかたが自分には合っているかを考えつつ、修練場に向かうために1階へと足を進めていたわ……って、気づけばこんな時間ね。あんたも眠そうだし、もう眠――え? まだ聞きたい?

 んー、目をしょぼしょぼさせながら言ってもねー……まあ、この話だけね。この話が終わったら、今日はもう寝ようね。

 うん、聞き訳がよろしい。それじゃあ、話すわね。

 いざ冒険者ギルドから出ようとした彼女だったんだけど、それよりも先に荒々しく扉が開かれたの。

 咄嗟に避けた彼女だったけど、びっくりしつつも入ってきた人物を見ると……傷だらけの血まみれとなった――兵士だったの。


「え? だ、大丈夫……ですか?」


 いきなり現れたその兵士に彼女は驚きつつも、現実と認識できていないらしく……声を掛けてしまったわ。

 その声でようやく、兵士が彼女を認識したらしく、自分が目的の場所へと辿り着いたと理解し……震える声でホール全体に届くように口を開いたの。


「た、助けてくれ! 王都が、王都がモンスターの大群に襲われている……っ! 現在は城に立て篭もって、何とか持ちこたえているが……もう、もう時間が無いっ!! だから頼むっ、助けてくれッ……頼む、たの……」


 そう言うだけ言って、兵士は役目を果たしたらしくその場でガクリと崩れ落ちたわ。

 いきなり現れてそう言ったからか、ホールに居た冒険者たちは全員理解が追いつかず、呆然としていたわ。

 けど何とかハッとした数名が、急いで兵士へと駆け寄り様子を見ていたが……静かに首を振ったの。

 もう助からないほどの傷だったけど、気合でここまで来たんでしょうね……。

 そんな勇敢な兵士の亡骸を、体格の良い冒険者が抱えて奥へと運んで行ったわ。

 そんな光景を彼女は呆然と見ていたの。呆然と見ているけど……正直な話、人の死を見たのは彼女はこれが初めてだったの。


『アリス……大丈夫か? おい、アリスッ!』

『――っ!! は、はい……、だ……大丈夫、です』

『なら良いけど……、練習どころの騒ぎじゃなくなったな……』

『そ、そう……ですね』


 初めての人の死に触れて、動悸が激しくなり周りの声が聞こえなくなりかけた彼女だったけど……彼の声で少し冷静さが戻ってきたけど……やっぱりまだ大丈夫じゃなかったわ。

 だから、彼の言葉に生返事をしつつ、彼女は動かなかったの。そんな彼女の周りを冒険者たちが忙しなく走り回り、状況を収集すべく立ち回っていたの。

 そのうちの一人に彼女はぶつかり、そんな所に突っ立ってるんじゃねぇ! と罵声を浴びせられ、謝りながら彼女はホールの隅へと移動したわ。


「王都が見える場所まで行って、遠目でどうなっているか確認してくる!」

「いよしっ、戦いじゃ戦いじゃ! ギルドマスターとともに行けなかった怒りを発散するぞっ!」

「気をつけて行ってくださいっ! 今、荷馬車の用意をしていますから待っていて! 回復薬はこちらですっ!」


 斥候として、足の速い獣人が数名パーティーを組んでギルドから飛び出して行き、食堂に置かれていたテーブルや椅子はホールへと等間隔に並べられて行き、窓口ではギルド職員たちが状況を把握するべく戻ってくる冒険者たちから話を聞いていたわ。

 そして、腕に覚えがあるがハスキーたちのパーティーに入れなかった冒険者たちはここぞとばかりに、武器の手入れを行っていたの。

 そんな彼らを見ていると、彼女はどうしようもなく場違いではないかと思い始めて、ここに居てもいいのだろうかと思い始めていたわ。

 だからでしょうね。彼女は2階の部屋に戻らずに……周りに気づかれること無く、冒険者ギルドから抜け出したの。

 そして、気がつくと……修練場のほうに脚が向いていたわ。


「やっぱり、誰も居ませんよね……」

『当たり前だろ? こんな状況でここに来るやつなんて物好きなヤツだけだと思うぞ』

「そう、ですよね……あはは」

『でも……折角ここまで来たんだ。戦いかたの練習でもするか?』

「ごめんなさい。…………そんな気分には、なれません」


 静かにそう呟いて彼女は、備え付けられた木製のベンチに腰掛け……深く溜息を吐いたの。

 ついさっき、自分は大丈夫だと思っていたけど……、目の前で人が死んだことにショックを受けていたとことにようやく気がついたのね。

 そして、この問題は自分で納得しないといけないと判断したのか、彼は何も言わなかったわ。

 少し時間が過ぎ……、彼女は震えながら口を開いたの。


「サリー様や、フォード様、ハスキー様も……ああなる可能性があるんですよね……」

『……まあ、な…………。と言うよりも、無事に帰ってくるほうが難しいと思うぞ』

「そう……ですか……。それに、このまま王都が陥落したら、今度はこの街に被害が及びますよね……?」

『だろうな……。切羽詰ってるだろうし……時間は無いだろうな』

「アタシに……守れると思いますか?」

『正直、今のままだと厳しいだろうな。けど、アリスはどうしたいんだ? 無力で何も出来ないとか、足手纏いとかそんなのは抜きにした……お前の気持ちだ』


 心の中で彼がそう言うと、彼女は黙って口を噤んだけど……ゆっくりと口を開いたわ。


「守りたい……です。怖くて縮こまってるんじゃなくて、おかあさん……サリー様、フォード様、ハスキー様……大切な人たちを……モンスターの恐怖に怯える人たちを、突如として襲い掛かる色んな脅威からも……どんな困難からも、救ってあげたいです……。そのための力が、アタシには――あるんですから」

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