彼女は無力
「それじゃあ、行ってきます。師匠……無事に帰ってきますからね」
「気をつけてくださいね。サリー様、フォード様、ハスキー様」
「はい、必ず生きて帰りますよ。さあ、皆さん! 行きましょうっ!」
「「おうっ!!」」
ハスキーの掛け声とともに、総勢30名の冒険者は拳を振り上げて声を上げたわ。
30名の冒険者は殆どが熟練の冒険者であり、種族は獣人だけじゃなかったの。
獣人、人間、エルフ、魚人、色んな種族が目に飛び込んできていたわ。本でしか見たことが無い種族に彼女は驚いた表情をしながら見ていたの。
そのうちの数名がそんな彼女に気づいて、手を振ってきたから恐る恐る彼女も手を振り替えしてたんだけどね……時間が来たのか、外へと出て行ったわ。
そんな彼らについていって外に出ると、冒険者ギルドの前には数台の荷馬車が置かれていたの。多分、この荷馬車をバッファローホースで引くのだろうと考えていたんだけど、予想通りバッファローホースが連れてこられたわ。
バッファローホースを馬車に括りつけると、数台の馬車へと6人ずつ乗って……飛び出すような勢いで馬車は黒い柱が上る山へと駆けて行ったの。
荷馬車の一台から手を振るサリーに手を振り替えして、見えなくなると彼女は部屋へと戻っていったわ。
部屋へと戻った彼女は、何も言わず暗い表情でベッドの上で蹲ったわ。
頑張ってくださいとか、無事に帰ってきてくださいね。とか普通に言える。言えるけど……何も出来ないのは本当に辛かったのね。
そんな彼女を気遣って、彼が声を掛けようとしたわ……けれど。
『アリ――
「本当、無力ですよね。アタシって……、ハスキー様はああ言ってくれましたけど……行かなくて良かったって思う自分が居て、だけど自分が弱いからいけないんだって責める自分が居るんです……」
『アリス……』
「だけど、だけど……何にも出来ないのはイヤなんですッ! アタシには力があるはずなのに、なのに……皆さんの後ろで隠れているのはイヤなんですッ!! 何でアタシはこんなにも無力なんですか?! 今まで何もしなかったからですか!? 後ろで怯えていただけだったからですか!? 教えてくださいよ!!」
多分、今の今まで溜め込んでいたものが零れたんでしょうね……。
気がつくと彼女は、ボロボロと涙を流していたわ。
そんな彼女へと彼は何かを言おうとしたけど、良い言葉が浮かばないのか口を噤んでいたの。けれど、少しして意を決したのか彼は口を開いたわ。
『どう言えば良いのかは……オレには分からない。でも、お前は何もしていなかったわけじゃないだろ?』
『………………………………』
『確かに、戦う力や運動能力とかはオレから見たってどん臭いって思うときもある。けど、お前は成長途中だ。ハスキーも経験が足りていないだけだって言ってただろ? それに運動神経が無い代わりに、お前には本で手に入れた知識があるだろ? 速く動けないなら、魔法を使ったり弓を使ったりして遠くから敵を倒せばいいだけの話だ。要するに、自分自身の戦いかたを身に着けたら、お前は強くなれるはずだ』
『自分自身の、戦いかた…………』
彼の言葉を心に染みこませながら、彼女はゆっくりと顔を上げたわ。
けれど、その顔は先程までの泣き顔出なければ、悲しみを宿した表情でもなかったの。
その表情は何処かそう、何かを決意したような表情だったわ。
『アタシ、やってみます……っ。自分自身の戦いかたを……身に着けるために!』
『そ、そうか……頑張れ』
『はいっ、無事に戻ってくるに皆さんを驚かせて見せます!』
そう強く心の中で宣言して、彼女はベッドから降りると部屋から出ようと――したけど、悩み始めたわ。
でも、一人で悩んでも答えは出ないと理解しているので、彼女は恥かしそうに彼に尋ねたの。
『あの……アタシに合った戦いかたを見つけるのを、手伝ってもらえませんか?』
『い、勢いで口走ってたのかよ……。まあ、手助けできるかは分からないからな?』
『はっ、はい! よろしくお願いしますっ!』
そう言って、彼女は部屋から飛び出していったわ。
目指すは数日の間に自分に合った戦いかたの習得すること。そう思ってたんだけど……残った彼女のほうでも緊急事態が起きようとしていたのよ。
ゆうしゃは、ただ闇雲に剣を振るうのがお仕事です(違